ジョーカー』(19)でアカデミー賞主演男優賞に輝いたホアキン・フェニックスと、巨匠リドリー・スコット監督が『グラディエーター』(00)以来23年ぶりのタッグを組んだ『ナポレオン』(12月1日公開)。歴史にその名を刻むフランスの皇帝ナポレオン・ボナパルトを描く本作のように、フランス革命前後を描いた映画や小説は数多く存在し、時代を超えて愛され続けている。

【写真を見る】“最も映画化された偉人”ナポレオンだけじゃない!5名合わせて数百回は映像化されている、まさに“フランス革命アベンジャーズ”

そこで本稿では、ナポレオンと同時代を生きていた、“フランス革命アベンジャーズ”とも呼ぶべき高い知名度を持つ5名をピックアップ。それぞれの逸話と共に、関連作品を一気に紹介していこう。

フランス革命の象徴的存在、王妃マリー・アントワネット

フランス革命といえばやはりこの人。オーストリア帝国から政治同盟のため14歳でフランスルイ16世に嫁ぎ、フランス革命で処刑された王妃、マリー・アントワネット。浪費癖や遊びに熱心で公務をおろそかにし、やがて国家財政は破綻。その負担をブルジョワ階級以外の国民に被せようとした王政に対する不満が爆発したのがフランス革命であり、悪の象徴とされたアントワネットはギロチンにかけられることになる。

アントワネットを描いた作品といえば、やはり池田理代子の人気漫画「ベルサイユのばら」が有名。宝塚歌劇団の名演目として長年愛されているのはもちろん、1979年にはジャック・ドゥミ監督のメガホンのもと実写映画化。連載開始50周年を迎えた2022年には、新たな劇場版アニメの制作も発表されるなど根強い人気を誇る。また、キルスティン・ダンストがアントワネットを演じたソフィア・コッポラ監督の『マリー・アントワネット』(06)などをはじめ、多くの作品でその波乱に満ちた生涯が描かれてきた。

■世界初の探偵がモデルに!?ミュージカルでおなじみのジャン・ヴァルジャン

続いては、フィクションの人物。フランス革命を市民の側から描いたヴィクトル・ユーゴーの名作「レ・ミゼラブル」に登場する主人公のジャン・ヴァルジャンだ。1862年に発行されて以来、映画化や舞台化されてきた回数は数知れず。時代の波に翻弄され、理不尽に耐え、怒りや悲しみを抱えながらも崇高な人間愛に生きる男の姿は、時代も国境も超えて愛されている。

フランク・ロイド監督の『レ・ミゼラブル』(1917)や、フレデリックマーチが主演を務めた『噫無情』(35)、日本でも伊丹万作監督や伊藤大輔監督ら巨匠たちが次々と映画化。ピレ・アウグスト監督版ではリーアム・ニーソンがジャン・ヴァルジャンを演じ、近年ではミュージカルを映画化したトム・フーパー監督の『レ・ミゼラブル』(12)が大ヒット。同作ではヒュー・ジャックマンジャン・ヴァルジャンを演じていた。

ちなみにこのジャン・ヴァルジャンのモデルとなったと言われているのが、1775年から1857年にかけて実在したフランソワ・ヴィドックという人物。脱走兵として逮捕され、脱獄と逮捕を繰り返したのちにパリ警察の密偵となった人物で、世界初の探偵ともいわれ、その後のあらゆる探偵小説にも多大な影響を与えている。そのヴィドックを主人公にした『ヴィドック』(01)という奇怪な探偵ミステリー映画も制作されている。

■復讐者の代名詞として幾度も映画化!“巌窟王モンテ・クリスト伯

1780年から1815年に実在した靴職人のピエール・ピコーがモデルになったといわれているのが、アレクサンドル・デュマの小説「モンテ・クリスト伯」の主人公エドモン・ダンテス。出世を妬まれたことから偽の密告をされて投獄されたダンテスは、土牢の中で出会った神父から真犯人の正体と一流の紳士となるための学を得て、14年後に脱獄。モンテ・クリスト伯となって華麗な復讐を開始する。

巌窟王」のタイトルでも知られるこの物語は、1908年に最初に映画化されて以来、100年以上にわたって様々な国々で繰り返し映像化されており、モチーフにした作品も加えればその数は計り知れない。21世紀に入ってからはジム・カヴィーゼル主演で映画化されているほか、日本でもディーン・フジオカ主演でテレビドラマ版が製作された。

ナポレオンの天敵!あの言葉の原点となったマルキ・ド・サド侯爵

精神医学における“サディズム”という言葉の原点となったのが、貴族であり小説家のマルキ・ド・サド侯爵。物乞いの未亡人に暴行を加え娼館で乱行に及ぶなど、虐待と放蕩の末に収監された彼が精神病院や牢獄で過ごした年月は実に32年にも及ぶ。1801年には匿名で出版した作品がナポレオンに見つかり、裁判無しに投獄されたことも。当時は禁書扱いされていたが20世紀以降に評価されることになり、いまでは未完の小説「ソドムの百二十日」は国宝に認定されている。

サドの著作の映画化では、ピエル・パオロ・パゾリーニ監督の『ソドムの市』(75)が最も広く知れ渡っている。ほかにもロジェ・ヴァディム監督や実相寺昭雄監督、ルイス・ブニュエル監督もサドの作品を映画化。また、サド自身が描かれた作品としては、ピーターブルック監督の『マルキ・ド・サドの演出のもとにシャラントン精神病院患者によって演じられたジャン=ポール・マラーの迫害と暗殺』(67)がタイトルの長さも相まって有名だ。

■英雄か、悪魔か…皇帝ナポレオン・ボナパルト

そして、革命後のフランスと近代フランス史を語る上で外せない重要人物は、やはりナポレオン・ボナパルトをおいてほかにはいない。イタリア半島の西、コルシカ島出身の軍人から皇帝にまでのぼり詰め、その頭脳とカリスマ性でヨーロッパ大陸を次々と勢力下に置いた。英雄といわれる一方、彼が率いた戦いでの戦死者は300万人を超える。

これまでナポレオンを題材にした映画作品は極めて多く、アベルガンス監督の『ナポレオン』(27)をはじめ、キング・ヴィダー監督やセルゲイ・ボンダルチュク監督らが映画化したレフ・トルストイの小説「戦争と平和」もそのひとつ。最も多く映画で描かれた歴史上の偉人としても知られているほど。

リドリー・スコット監督が手掛けた『ナポレオン』では、マリー・アントワネットが斬首刑に処され、国内の混乱が続くなかで皇帝にまでのぼり詰めるナポレオンの、妻ジョゼフィーヌとの奇妙な愛憎関係や冷酷非道かつ怪物的カリスマ性が描かれていく。是非とも劇場のスクリーンで、誰もが知る存在の知られざる一面をその目に焼き付けたら、この歴史上最もドラマティックなフランス革命前後の時代に思いを馳せてみてはいかがだろうか。

文/久保田 和馬

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