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 昨年、天文学者が不吉な予測をした。今から2万9000年後、天の川銀河を暴走する白色矮星が太陽系に突入し、大波乱が起きるかもしれないというのだ。

 この恐ろしい予測に驚いた北アイルランドの研究チームが、危険な白色矮星「WD 0810-353」の軌道を改めて調べてみたところ、どうやら太陽系が破滅する心配はひとまずないことがわかったそうだ。

 「ガイア計画によって測定された接近速度は正しくなく、WD 0810-353は実際には太陽系に接近しないことがわかりました」と、アーマー天文台&プラネタリウム(北アイルランド)の天文学者ステファノ・バニューロ氏はプレスリリースで述べている。

【画像】 白色矮星が太陽系に突入、大混乱が起きる!?

 欧州宇宙機関「ESA」によるミッション「ガイア計画」では、宇宙望遠鏡天の川銀河にある10億個以上の星々の観測し、銀河の正確な3次元マップを作ろうとしている。

 2022年、天文学者のワジム・ボビレフとアニサ・バジコワは、このガイアのデータを分析し、その中に太陽系に向かっている星がないかどうか探してみた。

 そして発見されたのが、白色矮星「WD 0810-353」だ。

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暴走白色矮星「WD 0810-353」のイメージ/ / image credit:Robert Lea

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 白色矮星とは、一生を終えた星が残す恒星の残骸で、太陽もいずれこのタイプの天体になると考えられている。

 そしてガイアのデータによるなら、2万9000年後、WD 0810-353太陽系から半光年以内(地球と太陽の3万1000倍の距離)まで接近すると考えられるというのだ。

 まったく問題なさそうに思えるが、天文学的にはかなり近い距離で、その重力によって太陽系を囲んでいる「オールトの雲」を乱す可能性すらある。

 本当にそんなことがあれば、オールトの雲を構成する氷が太陽系内に落下し、下手をすれば地球に衝突する恐れもある。

 未来の地球人は大ピンチなのだろうか?

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太陽系の端にある氷の天体であるオールトの雲の図。赤い線は、天体が内惑星に向かってどのように押し込まれるかを示している / image credit: ESO/L. Calcada

磁場による錯誤があるため太陽系に突入する危険性は少ないと判断

 だがガイアはとても重要なものを見逃していたようだ。それはWD 0810-353に白色矮星としては珍しい強い磁場があることだ。

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 WD 0810-353太陽系に向かっているという予測は、その「視線速度」(ある天体が観測者に近づく/遠ざかる速度)に基づいたものだ。

 そして視線速度は、星が放つ光のスペクトルから割り出される。

 救急車が近寄ってくる時と遠ざかっていく時では、サイレンの音の高さが違って聞こえるだろう。これを「ドップラー効果」というが、同じことが光の波長にも起きている。

 星が地球から遠ざかっていると、光の波長が引き伸ばされ、赤い色側に偏る(赤方偏移)。反対に、星が地球に近寄っていると、波長はぎゅっと縮み、青い色側に偏る(青方偏移)。視線速度は、こうした光の波長の偏り具合から求められる。

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 ところが、こうした光の波は磁場の影響を受ける。

 通常、光波はあらゆる方向に振動するが、磁場にさらされると、特定の方向に偏り出す(偏光)。だから、この影響を無視して視線速度を計算しようすれば、狂いが生じることになる。

太陽系は大丈夫そうだ

 アーマー天文台プラネタリウム(北アイルランド)のステファノ・バニューロ氏らは、WD 0810-353もそうした磁場の影響受けていないか確かめてみることにした。

 そのために、チリにある超大型望遠鏡「VLT」の「FORS2」という装置の観測データを調べてみた。

 するとFORS2は、WD 0810-353スペクトルを正確にとらえており、その強烈な磁場がガイア宇宙望遠鏡を欺いていただろうことがわかったのだ。

 WD 0810-353の光にある偏光から磁場をモデル化し、これに基づき星の軌道と速度を求めてみたところ、おそらくは太陽系にニアミスなどしないだろうことが判明。

 「WD 0810-353は、太陽に向かってすらいないかもしれません。これで気がかりな宇宙の危険がひとつ減りました」と、語るバニューロ氏も心から安心したようだ。

 この研究は『The Astrophysical Journal』(2023年7月24日付)に掲載された。

References:ESOblog - Rogue star not heading for Solar System collision after all | ESO / 'Rogue' star won't collide with our solar system in 29,000 years after all / written by hiroching / edited by / parumo

 
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2万9千年後に太陽系に衝突すると予測された白色矮星だが、接近する可能性が低いことが明らかに