加入以来、メジャー流の調整法を続けたバウアー。その影響力は計り知れないものがあった。(C)KentaHARADA/CoCoKARAnext

「今年、バウアーが来たことによって、チームにとって非常に財産になったなと思います」

 2023年シーズンが幕開けして間もない4月に、横浜DeNAベイスターズと電撃契約を果たしたトレバー・バウアー。日本球界を席巻した実力を三浦大輔監督は率直に称えた。

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「あれだけのバリバリメジャーリーガーが、しかもサイ・ヤング賞も取ったレベルの投手が間近に来て」と語る。かく言う指揮官も百戦錬磨の名投手だったが、過去に来日した助っ人でも一番と言っても過言ではない実績を誇るピッチャーが加わったという“普通ではない”事実を今一度、確認するように回想する。

 そのうえで三浦監督は「試合での登板の投球はもちろん」とマウンド上のパフォーマンスは当然としつつ、「登板の間のリカバリーの仕方、練習の取り組み方や意識、メニューとかもそうですけど、外から見えない部分」と強調。栄養補給と睡眠、ネガティブな考えは24時間までとする独自のルール、アプリを用いた体調の数値化など、“メジャー屈指の理論派”が持ち込んだメソッドは、チームに全体に好影響を与えたと振り返った。

 事実、今季に16勝をマークし、沢村賞級のピッチングを披露した東克樹は、今シーズンは中5日での先発登板を6度も経験。8月後半から終盤戦での勝負所では、今永昇太濱口遥大大貫晋一も中5日で登板した。

「日本人も自分に合ったルーティンを見つけられれば、中4日でも投げられる」と言うバウアーの影響について三浦監督は「すごい参考になったと思います」と指摘。そして、メジャー式のコンディショニングトレーニングが投手陣にもたらしたポジティブなサイクルを語った。

「そのまま真似できるわけではないですけれども、中4日で回って、あれだけの投球をする。できるだけの準備をしてますし、やり方によって『これはやらなければならないんだ』ということにも気付かされたと思います」

 また、バウアーの影響を語るうえで忘れてはいけないのは、彼自身が“勝利至上主義者”であるということだ。「とにかく自分自身が負けず嫌いであること、とくに自分が投げている試合は絶対に負けたくないという気持ちが強くある」と公言するほどのこだわりようだ。

 勝利至上主義者としての側面は加入してすぐに垣間見せていた。

 一軍デビューとなった5月3日の広島戦で勝利したバウアーだったが、その後は2戦続けて7失点と大炎上。自ら「最悪の2試合。鬱になりそうだ」と塞ぎ込んだが、そこから一念発起し、日本野球にアジャストするために研究を開始した。

球界をざわつかせた“事件”。その時、バウアーは?

思うように勝てなくなった時期、バウアーは「勝つため」に投手コーチたちの意見も取り入れるようになった。(C)KentaHARADA/CoCoKARAnext

 再起に向けて前を向いたバウアーは、オリックス山本由伸NPBの好投手たちのプレー動画を食い入るように分析。自身の投球パフォーマンスを改善し、その後の快投に繋げた。

 専属キャッチャー伊藤光は当初、「真っ直ぐは低めだと回転効率が悪いので投げていないと聞いていましたし、高めの真っ直ぐと低めの変化球のスタイルでアメリカでは通用していた」とメジャーでの経験則に沿ったピッチングで挑んでいたと証言。

 しかし、「日本ではバッターが真っ直ぐを打ちに来ていても、変化球を拾ってくる。向こうでは変化球を低めに投げれば空振りが取れていたのに、自信を持って投げていったボールが拾われる、しかも長打になる」と理解してからのバウアーは、コーチやアナリストの意見も積極的に取り入れたという。そして「低めの真っ直ぐ」がポイントとの答えを導き出し、結果を出した。

 また、「ノーストライクは真ん中、1ストライク後はちょっと外、2ストライク後は端という感じで投げないと、ピッチングフォームが崩れる」というこだわりがあったが、「1ストライク目から(要求した)コースに投げてくれた。そこは変わりましたね」と勝つためにスタイルを変化させた。サイ・ヤング賞投手としての“プライド”よりも“勝利”にフォーカスする姿に、女房役が「なんとかしてあげたい」と口にしていたのは忘れがたい。

 こんなこともあった。7月1日の中日戦に先発したバウアーは、不運な当たりや自身のエラーもあり、明らかにフラストレーションが溜まり、顔面は紅潮。極めつけはランダウンプレーを味方守備陣がミス。これに憤怒した32歳は、グラウンド内で「Fワード」を連発した。

 球界をざわつかせた“事件“。しかし、この時の言動も「優勝するチームの野球ではなかった」との思いが現れたから。本人も特定のミスをしたチームメイトに向けられたものではないと試合後に説明した。この言葉を裏付けるように、主砲の牧秀悟も「毎度毎度自分のやるべきこと、長いイニングを最少失点で投げてくれてますし、バッター陣がそれに応えられないときでもゼロに抑えてくれたり、とても頼もしいです」とコメントしている。

 バウアーの勝利を追い求める姿勢がチームの原動力になった。そんな名投手の真剣さは、若手たちにも波及した。

 ファームで調整中していた際にバッテリーを組んだ益子京右は、「準備段階や試合への臨み方がやっぱり他の選手とは違う」と驚愕。さらにドラ1ルーキーの松尾汐恩は「自分の考えをすごく持っている。わかっていても打てない真っ直ぐだったり、スライダーは本当にすごい」と目を丸くする。若手たちにも惜しみなく経験を伝授したバウアーは、1軍だけでなく、チーム全体に“メジャーの風”を吹かした。

 最終的に19登板で130回2/3を投げ、10勝4敗を記録したバウアー。月間MVPに2度も選ばれた堂々たる成績はもちろん、DeNAには「ベースボール・サイエンティスト」の遺伝子も刻み込まれたに違いない。

[取材・文:萩原孝弘]

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