邪魔したくて塞いでるワケじゃない! 「430休憩」「乗用車」「大手運送会社の路線便」長距離トラックドライバーを苦しめる3つの要因

この記事をまとめると

トラック運転手には近年、「430休憩」が義務付けられており、トラック運転手を苦しめている

■トラックが高速道路の車線を塞いでいるという指摘を耳にするがじつは理由がある

トラック運転手もじつは乗用車に苦しめられていることも多い

「430休憩」の義務化は逆効果

 普通免許を取得している人であれば、一度は夜間の高速道路を走行したことがあるだろう。そして大型トラックばかりが走っている光景に、圧倒された経験をお持ちの方も多いのではないだろうか。長距離を走るトラックドライバーたちは明るい時間に荷物を積み込み、人々が寝静まる時間帯を駆け抜けながら、荷物を全国各地へと運び届けている。日本経済における高速道路とは、人間で言うところの血管のようなもの。そして血液の役割を担うトラックドライバーたちの活躍によって、わたしたちの生活は守られているのだ。

 普通のサラリーマンであれば、一日の労働時間は8時間と規定されており、超過した分は残業代として支払われることになっている。しかし、トラックドライバーたちは異なる。仕事内容によって大きく変わるのだが、長距離ドライバーにおいては睡眠時間を削りながらハンドルを握っているというのが実情なのである。時給として換算すると、とても世間で言う最低賃金には遠く及ばないことだろう。

高速道路で車線を塞ぐ大型トラックのやむを得ない状況

 近年では4時間走るごとに30分の休憩を取るという「430休憩」が義務付けされており、事故の危険性を増大させる過積載での運行にも厳しくなった。トラックが引き起こす重大事故が増えたことが原因であるため、もちろん受け止めざるを得ないことである。むしろ4時間に30分の休憩を取るということは身体的負担を軽減させるし、定量積載での運行であれば運転面でもかなりラクになる。

 それゆえにトラックドライバーのためになる制度であると思われてしまいがちであるが、それは現場を知らない人たちの見解。運賃の下落や燃料代の高騰などによって稼げない時代になったことに加え、先に述べた規制は皮肉にもトラックドライバーの肉体的や精神的な負担を増やしてしまうという結果になってしまっているのだ。

 ドライバーとしてはまとまった仮眠時間を求めるため、目的地まで走りきりたいと思うのが本音である。たとえば、12時間走りきれば4時間の睡眠時間が確保できるとしよう。しかし430休憩によって到着時間が1時間30分も遅れてしまうため、現地では2時間30分の休息しかとれないのである。

高速道路で車線を塞ぐ大型トラックのやむを得ない状況

 もちろん途中の休憩もありがたいが、ドライバー自身がその日の体調や交通事情を把握し、自分のタイミングで休憩を取りたいと思うのは当然のこと。それを義務付けされたうえ、夜間のパーキングエリアはトラックで溢れかえっており、計算どおり休憩が取れるという保証はない。とりたくもない休憩で仕事のペースを乱してしまい、かつまとまった睡眠時間がとれなくなってしまう。これほどまでの悪循環は、なかなか存在しないだろう。

 かくいう筆者も、過去に大型トラックのハンドルを握ってきた。長距離ドライバーとして日本列島を駆けていたころはスピードリミッターが存在せず、かつ過積載にも厳しくなかった時代。もちろん、430休憩も存在しなかった。スピードリミッターが義務付けされてからも大型トラックを走らせたのだが、そのころになるとストレスが溜まった。高速道路では、とかく乗用車に泣かされたのである。

速度が安定しない乗用車に苦しめられることも

 一番困るのは速度が安定しない乗用車。走行車線を90km/hで走行中、前走する乗用車に追いついたために追い越し車線に移る。そして90km/hのまま乗用車を追い越しにかかるのだが、並走しているタイミングで乗用車の速度が上がるのだ。これは緊張のあまり無意識にアクセルを踏み込んでしまうという運転に不慣れなドライバーにありがちな行為なのだが、そのまま100km/hぐらいにまで速度を上げてくれるのなら、なにも問題はない。しかし、そのような乗用車には期待できない。90km/hで並走されたまま、大型トラックが走行車線に戻れなくなってしまうのだ。

 大型トラックのほうはリミッターがあるため、それ以上の加速ができない。そうなると追い越しを諦め、アクセルを緩めて乗用車の後方につくしかない。しかし、そうなると乗用車は安心したのか、再び80km/h走行に戻ってしまうのである。これは、現代で言うところのあおり運転となんら変わらない。むしろあおり運転を誘発してしまうケースであるため、ぜひとも自車の速度を把握する力を養って欲しいところである。

高速道路で車線を塞ぐ大型トラックのやむを得ない状況

 このような話をすれば、「10km/hぐらい我慢すればいいのでは」と言われてしまいそうであるが、そんなに単純なものではないのだ。

 一般車のように1時間や2時間の移動であれば、確かに大きな影響は存在しない。しかし、長距離ドライバーは10時間以上をかけて高速道路を走ることも珍しくないのだ。80km/hで10時間走るとなると、移動距離は800kmとなる。しかし90km/hで走行できれば、900kmになるのだ。この100kmという大きな違いは、いくらトラックに同情的でない人であってもおわかりいただけるだろう。たかが10km/h、されど10km/hなのだ。だからこそ、大型トラックはわずかな速度差であっても追い越しせざるを得ない。

 しかし、課題は乗用車だけではない。大手運送会社の路線便も大きな妨げとなる。看板を掲げた大手のドライバーは時間的に余裕のある運行が組まれているため、社則で高速道路は80km/h走行と決められているケースが一般的である。乗用車と違って速度が変わらないため、追い越しにかけては安心できるのだが、問題は上り坂。大手路線便の荷物は軽いため、平坦路でも登坂車線が存在するような上り坂であっても、80km/hで走行できるのである。

高速道路で車線を塞ぐ大型トラックのやむを得ない状況

 他方、鮮魚や野菜、一般雑貨などを積んだトラックはそうはいかない。定量積載であっても上り坂になると速度が保てないため、追い越しをかけても追い越すことができない、というシーンが多々発生するのである。

 これもひとえに、スピードリミッターによる弊害だ。危険回避とは、なにもブレーキやハンドル操作だけではない。加速も立派な手段なのである。それを奪われた現代の大型トラックドライバーは、日々ストレスを抱えながらハンドルを握っているのだ。

 そんなドライバーを苦しめる規制も、もとを辿れば一部の不良トラックドライバーの愚行が導き出したもの。業界がより良くなるためにも、常日頃から安全運転を心がけてもらいたいと願うばかりである。

高速道路で車線を塞ぐ大型トラックのやむを得ない状況

邪魔したくて塞いでるワケじゃない! 「430休憩」「乗用車」「大手運送会社の路線便」長距離トラックドライバーを苦しめる3つの要因