岩本町芸能社の廃業、富士葵の独立――相次ぐVTuber業界の変動

 VTuber業界の変動が続く。先週は業界の古株企業で、VRタレント特化の事務所・岩本町芸能社ががひとつ幕を下ろすことをアナウンスしたが告げられた。VRタレント特化の事務所・岩本町芸能社だ。VRアイドル『えのぐ』や、VRデュオ『Marpril』などを手掛けてきた2017年創業の企業が、2024年3月に倒産・廃業することが発表されたのだ。

【画像】HMD単体でもアクセスできるバーチャルのクリスマスマーケット『FUTURE 20th SQUARE』

 そして、創業以来の所属グループタレントである『えのぐ』は、2023年12月末に独立し、自らが所属する合同会社を新設すると発表した。現メンバーである鈴木あんず、白藤環、日向奈央の3名が社員となり、経営にあたるとのことだ。

 11月6日実施の配信は、さながら記者会見の様相を示した。質疑、応援、懸念。様々さまざまな声が飛び交うなか中、アイドルであると同時に経営者として、3人とも真摯な応対を心がけていた3人の姿が印象だった。平坦な道ではないことは本人たちも自覚しているようだが、「世界一のVRアイドルになること」という夢は、岩本町芸能社からしっかりと彼女へ引き継がれているのだろう。

 『Marpril』もまた、岩本町芸能社の倒産・廃業にともない、フリーへと転向すると発表した。黎明期から業界を盛り上げてきたひとつの老舗が終わるものの、そこで育まれた才能(タレント)は歩みを止めない。順風満帆とは決して言えない事務所だったかもしれないが、黎明期を走りきったその足跡は、残された者たちの活動とともに記録されることを願いたい。

 同じく、古株である富士葵キクノジョーのコンビも、LOGIC&MAGICのサポートと、音楽レーベル『「Acro」』の所属を終了し、完全な個人活動へと転向することを発表した。円満な独立となったらしく、プレゼントや手紙の窓口業務はLOGIC&MAGICが好意で継続するもようだ。

 今後はより音楽活動に注力するらしく、11月17日開催のワンマン「『Aria』」 が、新体制下での初ライブとなる。すべてを自分でこなす必要があるが、だからこそ自由な活動と表現ができる「個人勢」となった2017年来のVTuberは、どのような歩みを続けるだろうか。

 先々週には、「HIMEHINA田中ヒメ鈴木ヒナ)」の運営企業・LaRaが、Brave groupとの経営統合を発表しており、2017年から2018年に産声を上げたVTuber・バーチャルタレントたちが、相次いで体制変更を続けている。おめがシスターズも「顔のマスク」を作成し、「リアルに会いに行けるVTuber」へと発展したばかりだ。長く生き、活動形態をも柔軟に変化させていく姿は、後輩たちにとってひとつの参考材料になるだろう。

■『Meta Quest 2』や『PICO 4』だけでも行けるクリスマスマーケットが示す未来

 ソーシャルVR『VRChat』には新たなアクセス経路が生まれた。VRヘッドセット『PICO 4』単体で起動できる、PICO版『VRChat』が新たにリリースされたのである。

 『PICO 4』は安価かつ軽量で、現在も愛用者が多い人気のヘッドマウントディスプレイだが、『PICO 4』だが、『VRChat』を遊ぶうえではにはPCとの接続が前提で、これが弱点のひとつだった。これがしかし、今後はPC不要で遊べるようになる。

 まだ挙動に不安定なところもあるようだが、おおむねQuest版と使い勝手は変わらない様子だ。『Meta Quest 2』の登場から3年が経ちが数年前のデバイスとなり、『Meta Quest 3』という後継機が出ている現在、安価で手軽に『VRChat』を始めたいならば価格や性能面のバランスに優れた『PICO 4』は良い選択肢となりそうだ。ヘッドセットのスペックの兼ね合いから、PICO版はもQuest版と同様、訪問できるワールドや表示できるアバターには制限がかかるが、エントリーモデルとしては十分だろう。

 そんなPICO版・Quest版でも訪問できる豪奢なワールドがひとつ増えた。ECサイト構築プラットフォーム「futureshop」による『FUTURE 20th SQUARE』である。

 サービスリリース20周年記念事業として制作されたこのワールドは、ヨーロッパのクリスマスマーケットをイメージした空間だ。「futureshop」を利用する6社が出店しており、様々なグルメ(の3Dモデル)を鑑賞しつつ、調理体験の一部も体験できる。自分たちで作りながら「おいしそう」と感想を漏らし、マーケットを散策する歩く……そんなECでは創出できない”“体験”を生み出すのが目的、とのことだ。

 かつて『Second Life』のパワーユーザーだったという代表の星野氏によれば、記念事業ゆえに、KPIも一切考慮しない施策らしい。「未来のEコマースの可能性を同業者にも知ってほしい」という思いから生まれたマーケットは、出店者もとても好意的なリアクションとともに参画を決めたとのことだ。コンセプトカーのように、業界の未来を示し得る場として、“クリスマスシーズンらしいスナップの自撮り”を撮りながらのぞいてみるとよいだろう。

(文=浅田カズラ)

11月13日のニュースたち