新王者に輝いた鈴木の発言が国内で波紋を呼んでいる(C)RIZIN FF

 11月4日アゼルバイジャンでの「RIZIN LANDMARK 7」で王者ヴガール・ケラモフを下してフェザー級新王者になった鈴木千裕が、試合後に「不良やヤンキーが格闘技の質を下げている」と語った。「ブレイキングダウン」などを指してのことだろう。また、元K-1魔裟斗もこれに対し、「(格闘技が)不良のヤンチャなものになってしまうと、親が子どもにやらせたくない。10年後、20年後、(格闘技)人口が減っちゃうね」と反応している。こうした発言を受け、格闘技ファンのみならず、広く世間で議論が巻き起こっている。長らく格闘技を取材してきた記者は現状をどう感じているのか。緊急レポートが届いた。

【動画】鈴木千裕と魔裟斗の発言の真意を記者が読み解いた実際の動画

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「赤信号、みんなで渡れば怖くない」

 のっけから本題と離れた話題になるが、これは1980年代ビートたけしさんが口にした言葉になる。

 令和の今と違い、ネットもSNSもない、地上波のテレビ全盛の時代である。当然その拡散力はすざまじく、このブラックユーモアは世の中にこれ以上ない賛否両論をもたらした。

 たしかに、この発言を真に受けると、赤信号をみんなで渡ってしまう子どもが増殖し、交通ルールも何もなくなってしまう。

 しかしながら、自分の記憶では実際にこの発言が元で交通事故が増えた話という論説は聞かなかった気がする。

 いや、事故が増えたかどうかはさておき、いつだったかこの発言の主であるたけしさんは、その真意をテレビ番組で話していた。

 一言一句は覚えていないが、要約すると、当時、ドリフターズの『8時だョ! 全員集合』というバラエティ番組が毎週土曜日の夜8時に放送され、絶対的な視聴率を誇っていた。

 そこに裏番組として、たけしさんらが『オレたちひょうきん族』を後発ではじめた際、どうすれば『全員集合』を追い落とせるのか。

 それを考えた結果、世に突き刺さるようなインパクトのあることをやっていかなければ、とてもその牙城は崩せないと判断し、物議を醸すブラックユーモアを含め、決して上品ではない手法を用いていた、という話だった。

ブレイキングダウン」が出現した背景はこれに似ているように思う。

 すべては目新しいものに飛びつく、日本人の趣味嗜好に合っていたとも考えられる。

 また、正直にいえば「ブレイキングダウン」関係者ですら、ここまで物議を醸すと思っていなかった部分はあったに違いない。

何があろうと、次なるスターを育てること

 そんな話から本題に入ると、鈴木千裕の口にした「不良やヤンキーが格闘技の質を下げている」や魔裟斗が言い放った10年後、20年後、(格闘技)人口が減っちゃうね」の裏側にあるものは何か。

 簡単にいえば、それは「強さ」になると思う。

 鈴木は、敵地に乗り込んでケラモフを倒し、RIZINフェザー級王者に成り上がった。

 魔裟斗は、2002年にはじまった、K-1 WORLD MAXを文字通り命懸けで成立させ、計2回も世界王者に登り詰めた。

 SNS上で、魔裟斗の発言に対し、「お前だって対戦相手を罵っていたじゃないか」といった見解を述べていた方がいたが、世界を争う人間同士が興行を盛り上げるために口にした罵り合いと、「ブレイキングダウン」に出る選手同士が罵り合うのは、まったく似て非なるもの。その違いを理解しようとしない人たちが格闘技を語ったところで、どこまで行っても噛み合うわけがない。

 いや、元々「ブレイキングダウン」は格闘技ではない、という見方もあるので、最初から別ジャンルを比較対象することがおかしいという考え方も成り立つ。

 とはいえ、全盛期魔裟斗にしろ、山本“KID”徳郁にしろ、まったく不良の匂いがしなかったかといえば、決してそうではない。むしろそういったヤンチャしてきた匂いを感じさせたからこそ、幅広い層に伝わった部分は全否定できないし、そんな魔裟斗やKIDに憧れた人々は少なくないだろう。

 しかしながら、単なる不良やヤンキーとは何が違うのか、といえば、やはりそこには、キックボクシングK-1)やMMAという競技を極める「強さ」があったということ。そこに尽きる。

 裏を返せば、まずは「ブレイキングダウン」の中で「ケンカ最強」を示した選手が、キックやMMAでそれなりの「強さ」を示すことができれば、その声は徐々に減っていくのではないかと思う。

 ちなみに先に掲げた、土曜の夜8時にあった、『8時だョ! 全員集合』×『オレたちひょうきん族』はどうなったのかといえば、たけしさん曰く、「俺たちが上になったこともあったけど、結局はふたつともなくなっちゃった」だった。

 要は、血で血を争うような抗争は、長くは続いていかない、ということなのか。だとすれば、もしかしたら現在の格闘技界は危機的状況の最中にあるのかもしれない。

 それでも土曜夜8時の地上波バラエティ番組でいえば、2018年3月末まで『めちゃ×2イケてるッ!』にその系譜は受け継がれていたし、今もその影響を受けた人たちによって、お笑い界は支えられていると思う。

 そう考えれば、仮の話、格闘技人気がかげりを見せたとしても、浮き沈みの激しい興行の世界ならば、ことさら一喜一憂せずに、次なるスターを育てる努力を怠らないこと。ファンを含めた関係者に必要なのは、その意識ではないか。

 そこそこ長らく格闘技界の流れを身をもって体感してきた自分がいえるのはそのくらいではないかと思う。

[文:Show大谷泰顕]

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