総務省の家計調査報告によると、高齢者夫婦ふたりの標準モデルの年金支給額は264万円です。少なく感じる人もいるかもしれませんが、意外に暮らしていける金額であると、金融業界25年のキャリアを持つFP田中和紀氏はいいます。本記事では、同氏による著書『FPが教える!マネーリテラシーを高める教科書』(ごきげんビジネス出版)から、日本の年金制度について、一部抜粋してご紹介します。

稼げなくなったときに受け取る「公的年金」

年金暮らしの現状と盲点

本記事では年金に関してのポイントをお伝えしていきます。

年金は、現在は65歳以上になれば国からもらえます。自営業や専業主婦の方で月に約6万円、会社員の方で約15万円程度が標準モデルです。高齢者夫婦ふたりで約22万円です。

この金額では少ないと思われる人も多いのですが、暮らしていけない金額でもないでしょう。総務省の家計調査報告によると、現実には夫婦ふたりで27万円程度支出しているため、毎月5万円ほど預貯金を取り崩しながら生活しているといわれています。

年金の現状を知っておくことは重要で、年収にすると世帯で約264万円です。日本の世帯年収の中央値は437万円程度ですから、半分以下になります。

ただ消費は現役世代の7割程度に落ち、今後予想される多額な支出も少ないと思われます。欲・見栄・付き合いなどのお金は少なくなり、75歳以降はさらに少なくなるようです。

一方、高齢者の医療費は1割負担といっても、通院の頻度が増せば支出は大きくなる可能性があります。子や孫への資金援助や法事なども、増えてくるかもしれません。介護施設などへの入居も見据える場合は、想定される支出はおさえておきましょう。

現役世代に多く稼いでいる人ほど、定年退職で年金暮らしとなった場合、年収の落ち込みに要注意です。現役世代の年収が多くても、年金には限りがあります。現役世代の収入や支出が多い人は、たとえ退職金をもらったとしても、定年後はコントロールが必要です。老後破綻にならないように気をつけましょう。

スポーツ選手などが現役時代と引退後の年収差に無頓着で、破綻するケースはあります。海外のバスケットボール選手や野球選手などは、現役引退後の6~8割の人が破綻するともいわれています。どんなに稼いでいても、お金の知識は大切だということですね。

年金は老後に受け取るものだけではない!

年金には他に2種類あります。障害年金と遺族年金です。年金といえば、高齢になって受け取れる老齢年金ばかりを思い浮かべる人も多いと思いますが、他にもあります。

■障害年金

まず障害年金とは、ケガや病気で障がい者になった場合にもらえる年金です。障がい者になって稼ぐことが難しくなれば、年金が支給されます。

誰もが定年まで健康で仕事ができると限りません。想定外の事故などに巻き込まれ、ケガで仕事ができなくなることもあるのです。もし、このようなことで稼げなくなれば、障がい年金で経済的に国の保護が受けられるのです。支給額は老齢年金に近い額となります。

■遺族年金

次に、遺族年金です。配偶者や子どもが一家の稼ぎ手を失った場合に、お金が支給されます。たとえば、4人家族で夫が稼ぎ、妻は専業主婦で子ども2人が扶養されている場合、夫の死亡時に支給されるのです。これで残された家族の生活が可能になります。

これらの制度を知っておくだけでも、安心して生活ができるのではないでしょうか。

高齢になって受け取る老齢年金ばかりを意識するだけでなく、障がい者になった場合や死亡した場合でもお金が受け取れることを、おさえておきましょう。年金を知ることで、安心した生活を営むことや準備ができ、余計な民間保険に加入する必要もなくなります。

ただし、公的な老齢年金だけでは、最低限の生活が保障される程度の額なので、もう少しお金がほしいという人もいるはずです。その場合は、確定拠出年金やiDeCoなどの制度も活用しましょう。

年金を手厚くする「私的年金」

企業型確定拠出年金に加入する2つの大きなメリット

確定拠出年金とは、多くの大企業で利用が広がっており、年金の積み立てを会社の中で行っていくものになります。企業型確定拠出年金(DC)といって、会社が積立金を支給し、従業員が60歳まで積み立てていくものです。単純に積み立てるだけではなく、運用が可能です。投資信託などの投資商品を積み立てることも可能で、その積み立てた投資信託が値上がりすれば利益となります。運用がうまくいけば、積立金以上のお金を受け取れるのです。

運用は難しいと思われがちですが、分散・長期・積立という3つの投資手法を実践すると、うまくいく可能性が高いといわれています。ノーベル経済学賞を受賞したモダンポートフォリオ理論に沿ったやり方で、「投資の原理原則」といわれています。導入企業では、この投資法を社員教育で行い、理解したうえで運用した人が実績を上げているケースも多いようです。

もうひとつの特徴は税制優遇です。確定拠出年金に加入すれば、税制優遇が受けられます。

企業から支給される給与や賞与には、税金や社会保険料が引かれますが、確定拠出年金で従業員に支給する毎月の掛け金は、税金や社会保険の対象ではありません。企業が1万円を支給すれば、そのまま社員の掛け金に1万円が積み立てられます。

一方、給与が1万円支給されるのであれば、従業員の口座には税金や社会保険料が引かれ、7,000円とか8,000円になってしまいます。

この優遇が毎月、そして60歳まで続くのです。掛け金などにもよりますが、合計で100万円以上もの節税につながることもあります。

運用益に対しても非課税です。投資で年に100万円儲かったとしても、課税され手元に80万円程度しか残りません。しかし、確定拠出年金の投資では、どんなに儲かっても利益金に課税されません。儲かれば儲かるほど節税効果も高くなります。

このようにメリットが多い確定拠出年金ですが、注意することもあります。まず、60歳までお金が受け取れないことです。年金資金の積み立てなので、途中でお金を引き出せません。転職などした場合は、積み立てたお金を移動させて運用を続ける必要があるのですね。

さらに、お金を受け取る際に課税されます。60歳以降にお金を引き出す際は、一時金で引き出せば退職所得、年金のように分割で引き出せば雑所得扱いになります。それぞれ控除があり、優遇はありますが、こうした知識をアタマの片隅に入れておく必要があるのです。

個人型確定拠出年金「iDeCo」は誰もが加入できる!

iDeCoは個人型確定拠出年金です。個人が金融機関でiDeCoの口座をつくり、積み立てが可能です。仕組みは企業型確定拠出年金とほぼ同じで、運用可能で税制優遇があります。

会社で企業型確定拠出年金を導入していない場合や、自営業・専業主婦の方は、iDeCoで積み立てを行うことが可能です。

各金融機関で独自の運用商品を取り入れており、選択できる金融商品に違いもあります。また、運営管理手数料などの違いもあり、金融機関を選ぶ際は注意しましょう。大手ネット証券などの手数料は、比較的安いようです。

上限額はありますが、企業型と個人型を併用して積み立ても可能となっており、節税や運用でニーズがあればうまく活用しましょう。

田中 和紀

ファイナンシャルプランナー

※本記事は『FPが教える!マネーリテラシーを高める教科書』(ごきげんビジネス出版)一部を抜粋し、THE GOLD ONLINE編集部が本文を一部改変しております。

(※写真はイメージです/PIXTA)