経費の水増しは「脱税」につながり、どんなに巧妙に仕組んでも、税務調査が入れば必ずバレます。そして、待っているのは多額の「追徴課税」です。税務調査対応を得意とする税理士・永江将典氏の著書『税金でこれ以上損をしない方法 40歳で資産1億円を達成した税理士がやった「手取りを増やす」全テクニック』(翔泳社)から、一部抜粋してご紹介します。

友達からレシート・領収書をもらった経費

友達からレシート・領収書をもらって自分の経費として処理してしまう…当たり前ですが、これはNGです。でも時々、経費に入れてしまっている人がいます。

すごく友達思いな人がいて、飲み会の会計の後や旅行に行った際に割り勘で勘定を済ませた後に「この領収書、使っていいよ」といった甘い誘いがかかることもあるかと思います。

しかし、他人からもらった領収書を使用すると、一時的に「節税効果」を得ることができるかもしれませんが、税務調査が来た時に必ずバレます。

ちなみに、取引先との会合での飲食費を割り勘で払うことは少なくないかと思います。「割り勘」の場合は、事実として割った金額を自分で支払っているので、支払った分の領収書を受け取ることは可能です。

たとえば、自分1人と取引先の担当者1人で1万円の会食費を割り勘したとします。この場合は、2人で割るので各々「額面5,000円」の領収書を受け取ることが可能となりますし、1枚の領収書(1万円)であっても領収書に「割り勘で半額を負担」と書いて領収書の額の半額分となる5,000円を経費として申請すれば問題ありません。

「経費の水増し」が「税務調査」で発覚した事例

さて、話を戻します。知り合いからレシートや領収書をもらい「バレるはずなんてない!」とたかをくくり、実際に税務調査の際に調査官に「架空の外注費」がバレてしまったという例を2パターン紹介しましょう。いずれも、建設業系の方の確定申告で税務調査が来たケースです。

◆「利益の額」から税務署にバレた例

1つ目は簡単です。「そんなことする人がいるの⁉」と思われるかもしれませんが、本当は全ての仕事を自分で対応していたのに、それを「外注費」として外部に依頼しているように見せて、経費として200万円を計上していました。

請求書や領収書はもちろんなく、銀行口座に出金の履歴も残っていない状態でした。「どうせ調査は来ないだろう」と安易に架空経費を計上してしまっていた例です。ちなみに、この方の申告はこんな感じでした。

・売上:700万円

・外注費:200万円

・他経費:300万円

・利益:200万円

この内訳で、所得税が「数千円」しかないという申告書になっていました。

税務署は「利益」が200万円である点に着目したものと考えられます。というのも、個人事業主の場合、生活費等は「利益」から捻出することになるからです。

この方には、奥様と2人のお子様(高校3年生と高校1年生)がいました。申告書の扶養控除のところに、3人分の控除や生年月日の情報が載っています。年間200万円というのは、家族4人が生活していくには厳しい金額です。

税務署も「年間200万円で家族4人、どうやって生活しているの?」と思ったことでしょう。そして見事、嘘が発見されてしまいました。

◆「架空の外注先」の確定申告書からバレた例

もう1つのパターンは、友達にお願いして架空の「外注費」を計上したケースです。友達の銀行口座へ送金し、友達から現金でバックしてもらっていました。また、請求書、領収書も準備していました。

ここまでしても、税務署には嘘の外注費だとバレたのです。準備されていた請求書・領収書を税務署が持ち帰って、その友達の名前の確定申告書をチェックし、その方が会社員であることがわかり、これは怪しいとなったのだと思います。

後日、どんな仕事を依頼しているのかを詳しく聞かれ、説明に齟齬が生じ、架空の外注費であることがバレてしまいました。

ちなみに、税務調査が来ると、通常は3年間の確定申告の内容がチェックされます。でも、この調査期間は最大7年まで延長されることがあります。

たとえば、毎年同じような内容の誤りがあった場合で、過去に遡っても同じミスがあるだろうと簡単に想像できる場合は、調査期間が3年から5年に延長されます。

また、確定申告の内容が悪質な脱税をしていると判断されると調査期間がさらに延長され、7年間遡ってチェックされてしまうこともあります。

そして税務調査の結果、確定申告の内容が修正され、追加で所得税を払うことになります。税務調査の結果は、市役所にも連絡が行き、住民税や個人事業税、健康保険料も過去に遡って支払うことになります。

このように、不正の手口は税務署にはすべてお見通しで、必ずバレますし、バレた時のペナルティはとても大きなものとなってしまいます。そもそも他人からの領収書を使用する行為は、(当たり前ですが)完全にアウトですので絶対やめましょう。

ちなみに、個人事業主で最も税務調査で税金を取られてしまった方のなかには、1億円以上の税金を払うことになった方もいます。規模の大きな脱税をしてしまっていた事例ではありますが、通常の正しい納税をしていれば起きなかったことです。

脱税は犯罪であり、「つい、できごころで…」は通用しない世界なのです。

永江 将典

税理士法人エール

公認会計士税理士

(※写真はイメージです/PIXTA)