子が20歳になると日本年金機構から「国民年金加入のお知らせ」や納付書 等により、国民年金に加入したことのお知らせが届きます。子が学生の場合、保険料の支払いは、学生納付特例制度で猶予させる、もしくは親が代わりに払うといった選択肢があります。では、後者を選ぶ場合、前者と比べて子が老後に受け取る年金額にはどれくらいの差があるのでしょうか。本記事ではAさんの事例をもとに、具体的な数値を用いてCFPの伊藤貴徳氏が比較、解説します。

20歳以上は強制加入の国民年金制度

日本に住所のある20歳以上の人は、国民年金に加入することになります。国民年金制度は強制加入で、保険料を支払わないと差し押さえの対象となります。

令和5年現在、保険料は月額1万6,520円となっており、学生にとっては大きな出費となるでしょう。そのため、学生には学生納付特例制度というものがあり、申請をすると保険料の支払いが免除となります。しかし免除となった期間は、将来の年金額には反映されません。

では、保険料を代わりに親が支払った場合と、学生特例を使った場合……それぞれのメリット・デメリットをAさん家族のケースを例に比較していきます。

Aさん 50歳 会社員

妻 48歳 会社員

第一子 20歳 私立大2年生(一人暮らし

第二子 17歳 高校3年生(実家通い)

世帯収入 800万円 (Aさん 500万円/妻 300万円

親が支払った場合

≫メリット

・子供の年金額が増える

・親の社会保険料控除が増える

≫デメリット

・親の保険料負担が増える

受取年金額の違い

第一子が20歳から60歳まで国民年金に加入したとします。Aさんは、第一子が20歳から社会人となる22歳までの2年間国民年金を支払いました。第一子は国民年金に最長の40年間加入することとなり、満額の老齢基礎年金を受給することができます。将来の国民年金の受給額は下記のようになります。

国民年金令和5年度)

満額の場合:65歳からの受給額79万5,000円(月額6万6,250円

学生納付特例を利用した場合:(令和5年度)65歳からの受給額75万5,250円(月額6万2,937円)

→月額3,313円の差(令和5年度)

支払保険料の違い

令和5年度の支払い保険料は下記のとおりです。

国民年金保険料:月額1万6,520円→24ヵ月で39万6,480円の支払い

■前納も可能

1年分や、2年分をまとめて支払うこともできます。これを前納と呼びます。前納した場合、保険料が割引となります。

1年前納 クレカ払い:19万4,720

2年前納 クレカ払い:38万7,170円

→2年前納クレカ払いにすると、支払い保険料は1万4,830円お得になる

令和6年国民年金保険料は1万6,980円)

前納やクレカ払いによるカード会社のポイント等を活用するともっとお得になることもあります。

※将来の年金水準によっては年金額や保険料に改定が生じる可能性もあります。

社会保険料控除で親の税金が安くなる

国民年金保険は、社会保険料控除の対象となります。社会保険料控除によって、年末調整確定申告所得税・住民税を軽減することができます。

親が保険料を支払った場合は、親自身の社会保険料控除とすることができます。つまり、Aさんが第一子のために国民年金を支払った場合、自分の税金を減らすことができるのです。

Aさんは、年収500万円です。仮に所得税率を10%、住民税率を10%とした場合、第一子のために支払った保険料に対して社会保険料控除を適用することができ、1年間におよそ4万円の税金の軽減を見込むことができます。

学生納付特例制度を利用した場合

≫メリット

・年金負担額が減る

≫デメリット

・特例制度の免除となった分の年金額は増えない

上記制度を利用して保険料を免除とした場合、保険料の支払いは必要ありません。保険料を1万6,520円とした場合、2年間でおよそ40万円の保険料負担を避けることができます。その代わり、免除となった期間は年金額に反映されません。

令和5年度の年金水準で考えると、満額納付と学生特例を利用した場合では65歳からの受取年金に月額3,313円の差が出るのです。10年間受け取り続けると、累計の差額はおよそ40万円。つまり、10年以上年金を受け取るのであれば学生特例を利用せず、20歳から年金保険料を支払ったほうがメリットが大きくなります。

人生100年時代、子の未来のために受給できる年金を増やす?それとも…

Aさんも、保険料を支払ったほうがメリットが大きいということは理解していました。にも関わらず、Aさんは学生納付特例を選択しました。第二子の大学費の支払いが来年に迫っていたため、支出を分散する必要があったからです。

「年金を支払ってあげたほうがいいとは思っていましたが、第二子の大学費用も重なり、家計的にも少々キツイ部分がありまして。上の子には社会人になったら追納をするように伝えています」

学生納付特例は追納という制度もあり、申請後10年以内であれば遡って保険料を支払うことができます。10年を経過すると追納はできなくなりますので注意が必要です。

まとめ

年金保険料を支払うことができるのであれば、支払ったほうがメリットが大きいのは間違いありません。しかし、ライフステージや家計の状況によっては、ほかのために充てたほうがいいケースも考えられます。保険料の納付を優先するがために、教育費を支払うのが困難になってしまった……といったことがないよう、家計やライフステージの状況に合わせたプランニングを行うことが大切となります。

<参考>

日本年金機構国民年金保険料の前納

日本年金機構国民年金保険料

伊藤 貴徳

伊藤FPオフィス

代表

(※写真はイメージです/PIXTA)