温泉旅館を舞台にしたテレビアニメ「花咲くいろは」をはじめ、「SHIROBAKO」や「サクラクエスト」「白い砂のアクアトープ」など、“お仕事シリーズ”と呼ばれる作品を手掛けてきたアニメ制作会社P.A.WORKS。2023年11月にはお仕事シリーズ最新作となる長編アニメーション『駒田蒸留所へようこそ』が全国の劇場で公開された。P.A.WORKSが描いてきた「お仕事もの」作品はいずれも高い評価を得ている良作ぞろいだが、今回は劇場版も制作された人気作「SHIROBAKO」を取り上げながら、シリーズの魅力について掘り下げてみたい。

【写真を見る】武蔵野アニメーションが制作するオリジナルテレビアニメ「えくそだすっ!」の絵コンテ

■主人公を中心に様々なキャラクターの成長、奮闘が描かれていく

まず目に留まるのが、キャラクターたちの魅力だ。主人公はアニメーション制作会社で制作進行として働く宮森あおい(声:木村珠莉)。仕事にまだ不慣れな入社1年目で、ドラマや映画でもよく見られる「お仕事女子モノ」の雰囲気も漂う。この主人公の成長ストーリーが作品の軸だが、「SHIROBAKO」ではあおいが高校時代に結成していたアニメーション同好会のメンバーたちの成長も描かれる。

アニメーター、声優、脚本家、3DCGクリエイターなどなど。それぞれが自分の夢と、「また5人でアニメを作る」という共通の夢に向かって邁進する姿が描かれ、時には進むべき道に迷ったり、周囲と自分を比較して落ち込んだり…といった壁にぶつかる姿も映しだされる。一生懸命夢に向かうからこそ味わう挫折やつらい出来事、それでも前を向いて一歩ずつ進んでいく彼女たちの姿は、「仕事」という題材を扱う作品の醍醐味といえるだろう。

また、主人公だけでなく、その周辺にいるキャラクターの成長にもカメラは向けられる。「SHIROBAKO」では特に、アニメーターや演出、さらに撮影監督に動画検査などアニメ制作に携わる多種多様な職業のキャラクターが登場しドラマを彩るが、一人ひとりにスポットが当たる機会も多い。

時にはあおいと対立し、ヒール的なポジションを与えられるキャラクターも多いが、「なるほどこんな経験をしてきたのか」とそのキャラクターのバックグラウンドが明らかになる時、彼らは私たちにとって「こういう人、いるよね」とどこか親近感を持ってしまうような、リアルな存在になっている。「SHIROBAKO」はプラスの感情もマイナスの感情も持った人間たちによる群像劇だ。

■業界それぞれの仕事風景を覗き見しているようなリアルな描写

キャラクターの魅力に加えて注目したいのは、お仕事シリーズを冠するだけのことはある、その業界への深掘りだ。温泉旅館に観光協会、水族館―。それぞれ、作品制作の際にいったいどれほどの取材を行っているのかと唸りたくなるほど、各業界のリアルな仕事風景が描かれる。

なかでも、「SHIROBAKO」はアニメ業界ということもあり、制作の現場からあふれ出てきたような細かな描写が多い。押しまくるスケジュール、原作者による全リテイク=通称“ちゃぶ台返し”、製作委員会を構成する企業間のパワーゲームなども盛り込まれ、自分が実際にその仕事に就いて業界を覗いているような気持ちにさせられる。

SHIROBAKO」の舞台となる武蔵野アニメーションの舞台は東京都の西部だが、背景美術の精緻さも手伝って、本当に会社がその街にあり、あおいたちがそこに出社しているような、道を歩けばすれ違うような気さえしてくる。こうした街並みの取材力にも、ぜひ着目していただきたい。

■キャラクターの挫折やピンチをドラマティックに乗り越えるエンタメとしての爽快感も!

と、ここまで作品世界を作り上げるリアリティについて言及してきたが、もちろんお仕事シリーズはリアルなだけではない。キャラの挫折やピンチ、起死回生の一手!といったドラマティックな展開が、視聴者に爽快感を与えてくれる。

SHIROBAKO」でも様々なことを起因としたピンチが訪れ、あおいたちを追い詰めることが度々ある。「万策尽きた!」というセリフが持ちネタのようになっているキャラクターもいるが、本当に万策尽きることはなく、スタッフたちの協力によって、また時には他社から手を差し伸べられて、あおいたちはピンチを乗り越えていく。

ピンチを打開する方法は、魔法ではない。誰かの些細な一言や、偶然会った同業者からの助けだったりする。そこがまた仕事をテーマにした作品として「ありそう」で、だからこそハラハラしたり、ワクワクしたりといった気持ちが強まるのかもしれない。仕事のリアルさを追求しながらも、良質なエンタテインメントとしての魅力を手放すことのないP.A.WORKSの構成力には目をみはるものがある。

仕事を扱う作品は数多く存在する。私たちはそれを観て自分の知らない仕事について知ったり、壁にぶつかって思い悩むキャラクターと共に涙したり、一つのピンチを乗り越えて成長した姿に自分を重ね「自分も頑張りたい」と思うことができるはずだ。

蒸留所を立て直すために幻のウイスキーを復活させようとする女性と、その姿を取材するWEBライターたちを描く『駒田蒸留所へようこそ』でも、“自分の仕事”に真摯に向き合う人の姿がたくさん見られることだろう。この作品がまた、働く人たちを励ましてくれる存在になることを願わずにいられない。

文/藤堂真衣

P.A.WORKSのお仕事シリーズを、アニメ制作現場が舞台の「SHIROBAKO」からひも解く/[c]「SHIROBAKO」製作委員会