SNSで出会った“自称投資家”の誘いで、海外バイナリーオプションに資金を投じた42歳・会社員の小林真美さん(仮名)。“必勝法”を解析するツールを30万円で購入し、取引を重ねたところ、合計300万円近い資金を失うことになりました…。これは典型的な投資詐欺ですが、決して遠い世界の話ではなく、国内の20歳以上の男女の5人に1人が、過去1年の間に何らかの形で投資詐欺に接触しているといいます。本稿では、テクニカル分析の解説サイト『テクニカルブック』を運営する株式会社アドバンの代表取締役・田中勇輝氏が、投資詐欺を回避するための注意点について解説します。

SNSで知り合った自称投資家が勧めたのは…

事務職として働く42歳の小林真美さん(仮名)は、老後の生活資金への不安を持っており、大きな利益を得られるような副業に興味を持っていました。そんなときに彼女はSNSで“自称投資家”のA氏と知り合い、「バイナリーオプション」という投資方法を教わります。

最初は半信半疑だった小林さんですが、勧められた海外業者で取引を始めてみると、すぐに1万円ほどのお小遣いを得ることができました。

しかし、その後は思ったように利益が出ず、悩んでしまいました。そんなとき、A氏に「勝ち方を教えますよ」とセミナーに誘われます。SNSでやり取りをするなかでA氏を信頼し始めていた小林さんは、「収入が増やせるなら」と参加することにします。

セミナーは、バイナリーオプションの必勝法をテーマにしたものでした。斬新かつ面白い内容で、「これなら私にできるかも」と気分が高揚するのを感じたそうです。そして小林さんはセミナー後、必勝法を実践するための分析ツールを30万円で購入しました。

早速、指定された別の海外業者で口座を新たに開設して、250万円を入金。初回入金の数割がボーナスとして返ってくるというアドバイスもあり、老後資産を取り崩して、以前よりも大きな取引をすることにしたそうです。

しかし、言われた通りにツールを使いながら取引を重ねても、以前より上手くいっている感触はありません。

少しずつ口座資金が減っていくなかで、最後の日が突然訪れました。連敗が続いて気持ちが焦り、負け分を取り返そうと感情的に取引を繰り返してアッと言う間にすべての資金を失ってしまったのです。結局、ツール代を含めて300万円近い資金を失ってしまいました。A氏とは、その後すぐに連絡が取れなくなったといいます。

老後の資産を確保し、あわよくば旅行など贅沢できるだけの利益を出すはずだった小林さん。大金が一瞬にして消えてしまい、「なぜあのとき、信じてしまったんだろう」と後悔してもしきれない様子。

これが、SNS上の夢を信じた42歳の女性に突きつけられた、厳しい現実でした。

危険な無登録業者のバイナリーオプション

A氏に教えられた海外バイナリーオプションを通じて、大金を失うことになってしまった小林さん。この中でA氏はツール販売による利益とともに、海外業者から紹介報酬も得ていたと考えられます。結果的には、小林さんが取引で出した損失は海外業者の利益となり、その一部がA氏に回ったことになる訳です。

バイナリーオプションは、さまざまな市場における将来の価格を二択で予想する投資方法です。小林さんの場合、たとえば「1分後のレートがいまより上がるか・下がるか」といった予想をするタイプの取引でした。

このような超短期間の将来を二択で予想する取引は射幸心を煽る側面があり、投資家保護の観点から金融庁は禁止しています。そのため、金融庁に登録されている国内業者はこういったサービスは提供していません。

小林さんは気軽にアドバイスを求めた結果、非常にハイリスクな投資に誘導されてしまったのです。

このエピソードから学ぶべきは、SNSをはじめ、身近なところに投資詐欺が潜んでいるということ。

自分には縁のない話と感じる人も多いかもしれませんが、独自に行った調査では、投資詐欺が意外に身近にあることが明らかになっています。

過去1年間で5人に1人が投資詐欺と接触

次のグラフは、23年10月に独自に実施した、過去1年間における投資詐欺への遭遇状況に関する調査結果です。

結果は、「投資詐欺に遭遇した」と回答した人は8.0%、「投資詐欺と疑われる勧誘を受けた・商材を見かけた」と回答した人は12.3%となっています。両者を合わせると20%を上回っており、過去1年間において5人に1人が、何らかの形で投資詐欺に接触しているということになります。

なお、本調査は投資に興味を持たない人も含む日本国内の20歳以上の男女を対象に行ったもの。それを踏まえると、これは決して少なくない割合といえるでしょう。投資詐欺は非常に身近に潜んでおり、被害に遭う危険と隣り合わせであることを意識しておく必要があります。

続いて、「投資詐欺に遭遇した」または「投資詐欺と疑われる勧誘を受けた・商材を見かけた」人を対象に、そのときの投資経験や知識について質問した結果です。

もっとも多いのが「初心者だったが、基本的な知識はあった」で44.2%、次に多かったのが「完全な初心者で、投資に関する知識がほとんどなかった」が30.9%。中級者以上の人は24.9%にとどまっています。このことから、投資初心者ほど投資詐欺と接点を持つ機会が多いといえそうです。

小林さんは投資に関する知識が十分でないなか、老後資産を増やしたいという焦りから隙が生まれ、投資詐欺の被害に遭ってしまいました。身近に潜む詐欺から身を守るために、金融リテラシーを高めておきたいところです。

投資詐欺を回避するための4つの注意点

今回は、海外バイナリーオプションを利用する投資詐欺に遭った女性会社員のエピソードを紹介しました。

多くの人が「自分は詐欺に引っかかる訳がない」と考えているでしょうが、悩みや不安から隙が生まれ、思わぬ形で被害に遭う可能性があることを意識しておくべきだといえそうです。最後に、投資詐欺に巻き込まれないためのポイントを4つ紹介します。

・SNS等の発信内容を鵜呑みにしない SNSで良い情報がみつかることもありますが、真偽の定かでない怪しい情報も少なくありません。SNSで発信される内容を簡単に信じるのではなく、本当に正しいのか常に検証する姿勢を持つことが大切です。 ・「絶対に」「簡単に」「誰でも」といった甘い言葉に要注意 投資詐欺では注意を引くために、「絶対に儲かる」「簡単に儲かる」「誰でも儲かる」などのインパクトのある言葉がよく使われます。しかし、投資はリスクが伴うもので、必勝法は存在しません。このことに触れず、聞こえの良い言葉ばかりを並べる相手は信用するべきではないでしょう。 金融庁に無登録の業者を避ける 無登録業者が提供するサービスは国内の規制の枠外にあるため、高いリターンの可能性があるなど、射幸心を煽るような側面があります。投資詐欺では、このような無登録業者を利用するケースが散見されます。安全な取引をするためにも、無登録業者の利用は避けておきたいところです。 ・なぜウマい話を持ちかけられているのか考えよう 「簡単に儲かる」といった話を持ちかけられたときには、何かしら裏があると考えるべきです。もしも簡単に儲かる方法があるなら、わざわざ人に教えたりせずに自分で実践するはずです。そうしないということは、その投資手法では儲けることができないと考えるのが妥当でしょう。  

身近に潜む投資詐欺から身を守るために、日頃から上記の点を意識しておくことをおすすめします。投資にはどんなリスクが伴うのかを正しく理解した上で、自分に見合った範囲内で無理なく行うことが大切です。

(※写真はイメージです/PIXTA)