今回の混合団体W杯には早田(左)や張本(右)らが参加予定だ(C)Getty Images

 12月4日から中国・成都で開催されるITTF混合団体W杯。この大会をめぐって、日中両国の間で軋轢が生じ、その後二週間足らずの間に一気に問題が解決に向かうというドタバタ劇が発生した。

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 今大会は、世界の卓球界に多大な影響力を持つ、中国卓球協会の肝煎りで8月25日に開催が急遽決定された。日本卓球協会は当初、この唐突な開催決定に戸惑いながらも、出場する方向で選手の選考に入った。しかし、あまりにも準備期間が短かったため、調整がつかない選手が大半だった。さらに、当初この大会は選手個人の世界ランキングのポイント対象ではなかったので、出場には男子女子各3名が必要とされていたのに対し、女子選手2名しかエントリーがなかった。したがって日本協会としてはやむなく出場を断念することを10月25日に表明せざるを得なかった。

 この発表に、激怒したのが中国協会を束ねる劉国梁氏だ。現役時代に無敵の強さを誇り、彼の強さを封じ込めるために、彼の得意技を禁止するルール改正(使用球の大型化、ラバーの見直し、サーブ時の空いた手による出所隠しの禁止)がなされたとまで言われているレジェンド中のレジェンド。劉氏は現役時代さながらの超攻撃的な手を打った。Tリーグに所属する14名の中国籍選手のうち、中国卓球協会の管轄外である郝帥を除く全選手を10月26日に中国に帰国させてしまったのだ。

 中国協会が発案した、世界初の混合団体のみの世界一を決める大会であり、しかも自国開催であるこの大会に、最大のライバル国である日本が不参加を表明したことで、メンツを重んじる中国人のプライドは大きく傷つけられた。中国の強さばかりが目立つ大会となってしまっては、中国国内はともかく、国際的な注目度は著しく低くなってしまうというデメリットもある。中国側の強硬姿勢はある意味当然だとも思えた。日中両国の卓球界はこのまま先の見えない場外戦ならぬ「卓外戦」を繰り広げることが予想された。

 ところが、ここで徹底的な強硬姿勢を取り続けないのが中国のしたたかさ。日本に選手引き上げという鞭を与える裏では、ITTFにこの大会を世界ランキングポイントの対象にするような働きかけを行っていたのだ。ITTFとしては世界王者の中国の意思を尊重せざるを得ず、首尾よくこの大会はランキングポイントの対象大会に「格上げ」された。

 これにより、日本協会も大会への参加を決め、11月11日にはITTFから出場を認めることが正式に通達された。そして中国協会も中国選手のTリーグ出場を解禁。11月5日には早くも琉球アスティーダの徐晨皓が出場した。

 2021年の東京オリンピック水谷隼伊藤美誠ペアが許昕・劉詩雯の中国ペアを破り、金メダルを獲得した。中国としてはそのリベンジを果たす機会を虎視眈々と狙っており、W杯はその格好の機会だったのである。現在の日本チャンピオンである、張本智和・早田ひなペアを打ち破って優勝を果たすことがこの大会の最大の成功となるのだ。

 ただし、日本人選手のスケジュール調整が上手くいったとは言えず、日本代表の男子は張本智和、戸上隼輔、曽根翔、吉山僚一、女子は早田ひな、平野美宇、木原美悠、張本美和の各選手で現時点では最強と言っても良い布陣ではあるが、中国が五輪の敵討のターゲットとしていたであろう伊藤美誠は出場しない。このことで中国側が臍を曲げてしまわないとも限らない。ファンとしては協会同士の「卓外戦」ではなく卓上の熱い戦いを純粋に楽しみたいところだ。

[文:江良与一]

卓球・混合団体W杯をめぐって勃発した日中間の「卓外戦」 急転直下のドタバタ劇で浮かび上がった思惑とは