泉屋博古館では、2023年11月3日(金)から12月10日(日)まで、掛軸の「表装」にスポットをあてた特別展「表装の愉しみ -ある表具師のものがたり」(共催:京都新聞)を開催しています。本展では、通常脇役とされる表装の多彩な展開を住友コレクションの名品書画より紹介、同時にひとりの表具師と住友家当主の交流をもとに、表具師の多岐にわたる活動をたどります。ここでは、そのみどころを会場の様子とともにお伝えします。

展示風景

日本や中国の書画は薄い紙や絹に表現されることが多く、その本紙を支え保護するために裏に紙を貼り重ね、また作品にふさわしい装飾を施してきたのが表装の成り立ちです。ただし作品が伝えられてゆく過程では、百年に一度は傷んだ表装裂を交換し仕立て替えることで、本紙=作品が護られ伝えられてきました。なかには大切な我が子に着物を誂えるように、入手した作品の表装を自信の好みに変えていくことを楽しみとした人もいます。表装の取り合わせの数々は、所蔵者がその作品をどう見ていたか、どのように見せたかったかを物語るひとつの美術史のありようといえます。この展覧会では、入手した掛け軸の表装を替えることなく先人の想いを受け継ぐことの多かった住友春翠のコレクションを中心に、美しいだけではなく、作品を引き立て、時に新たな価値も添える表装の数々をご覧いただきます。

  • 開催概要

特別展 「表装の愉しみ -ある表具師のものがたり」

会期:2023年11月3日(金・祝)~ 12月10日(日)

開館時間:午前10時~午後5時

休館日:月曜日

開催場所:泉屋博古館(京都市左京区鹿ヶ谷下宮ノ前町24)

入館料:一般800円 高大生600円 中学生以下無料

公式ホームページ:https://sen-oku.or.jp/program/2023_thebeautymountings/

  • 表装の愉しみ

さまざまな素材を取り合わせて作りあげる美の世界。美意識と流転の歴史を読み解く。

伝閻次平《秋野牧牛図》南宋時代・13世紀 国宝

伝閻次平《秋野牧牛図》南宋時代・13世紀 国宝

中国南宋の宮廷画家閻次平(えんじへい)作とつたえられる《秋野牧牛図》。室町時代に渡来し、足利将軍家に伝来した東山御物と目されています。この貴重な名宝の表装には、貴重な印金(金箔を使用した裂地)、金糸・銀糸を織り込んだ金襴や銀欄が取り合わされておりとても豪華。数々の茶人や大名のもとに伝わったこの名品、その表装もまさに王道のスタイルです。

一文字・風帯:紫地唐花文印金 中廻し:縹地牡丹唐草文金襴 上下:茶地七宝唐花文銀欄

雪舟《漁樵問答図》室町時代・15~16世紀

雪舟《漁樵問答図》室町時代・15~16世紀

漁師と樵夫が水辺にすわり、大自然に生きる者同士、悟りに似た世界観を語らう場面が描かれています。「画聖」と言われる雪舟が描いた小画面から広がる壮大な宇宙、その周囲には、未確認飛行物体のような文様の、貴重な高麗の印金が惜しみなく使用されています。

一文字・風帯:茶地牡丹唐草文印金 中廻し:紺地折枝花文印金 上下:白地平絹

藤原定信《和漢朗詠集巻下断簡 戊辰切「竹」》 平安時代・12世紀

藤原定信《和漢朗詠集巻下断簡 戊辰切「竹」》 平安時代・12世紀

もとは『和漢朗詠集』を写した二巻の巻物で一時は徳川家にも伝来しましたが、昭和三年の戊辰の年に分割されました。この名品を入手した住友春翠の子息・寛一は、質朴な書にあざやかな清朝の刺繍裂を合わせています。動きのあるアシンメトリーな表装でモダンな感覚が目を引く一幅です。

一文字・風帯:薄茶地唐花文金紗 中廻し:縹地刺繍唐花文緞子 上下:茶地宝尽唐花文緞子

伝土佐信実《聖徳太子勝鬘経講讃像》南北朝時代・14世紀

伝土佐信実《聖徳太子勝鬘経講讃像》南北朝時代・14世紀

聖徳太子を描いた作品では、牡丹、菊、梅の大きな文様が煌びやかな裂と、蓮池におしどりが遊ぶ様子をあらわした明~清時代の上質な綴織が使用されており、軸木の両端(軸端・じくばな)は金剛杵が透かし彫りになっています。

壮麗な仏画表装に、趣向もそえた豪華きわまりないたたずまいは、聖徳太子への信仰心のあらわれでしょうか、見どころのつきない一幅です。

一文字・風帯:白地牡丹唐草文金地金襴 中廻し:蓮池水禽文綴織 上下:茶地梅牡丹織枝文金襴
金剛杵が透かし彫りされた軸端
  • ある表具師のものがたり

井口邨僊と住友春翠、表具師と施主の愉しくて深いつながり。

大阪の名だたる実業家を得意先に持っていた井口古今堂三代目の井口邨僊。なかでも住友家は藤田家と並び別格でした。春翠も邨僊には篤い信頼を寄せました。通常裏方として名前も残らない表具師ですが、この度、井口古今堂に残された資料調査から、春翠から多くの仕事を任され、さらに私的にも深い心の交流があったことがわかりました。

最古級の歌仙絵《佐竹本三十六歌仙絵切 源信明》の表装をめぐって

伝藤原信実《佐竹本三十六歌仙絵切 源信明(みなもとのさねあきら)》重要文化財 鎌倉時代・13世紀

伝藤原信実《佐竹本三十六歌仙絵切 源信明(みなもとのさねあきら)》重要文化財 鎌倉時代・13世紀

井口邨僊の代表的な表装が佐竹本です。

もとは二巻の巻物でしたがあまりの高評価のため買い手がつかず、分断されて抽選頒布となった佐竹本三十六歌仙絵巻。この名品を入手した住友春翠から表装をまかされた邨僊は、本紙の和歌に描かれた貴公子にふさわしい上代紗と、同じく和歌に登場する「月」を連想させる走兎文が施された繊細な綾織を使用しました。それは作品の本質や春翠の好みを深く理解した邨僊ならではの、ふたりにとって会心の一幅となりました。

一文字・風帯:茶地牡丹文金襴 中廻し:萌黄地金銀唐草文金紗 上下:黄土地唐花兎文緞子

施主の信頼をかたちにする空間プロデューサー・表具師

住友春翠は書画の表装のみならず、明治末以降、各地に築いた邸宅の襖などの内装も邨僊に任せました。それは表具師にとって最も規模の大きな仕事で、表具師は指物師や唐紙、飾金具などのさまざまな職人をとりまとめて空間を創り上げるプロデューサー的役割を担っていました。

襖引手票本(井口家所蔵)
唐紙(井口家所蔵)

井口古今堂は平成17年(2005)に暖簾をおろしましたが、井口家にはいまも関連資料が大切に保管され、この度住友家の資料と併せて展観されることで、当時の活躍のほどをうかがい知ることが出来ます。

気づくと大阪画壇の宝庫に

井口古今堂は、井口邨僊を慕って地元大阪の画家が多く集うサロン的な空間でした。邨僊はその中から実力者を住友春翠に紹介しています。絵画をめぐって人々がゆるやかに結びつく社交の要としての表具師は、大阪の芸術文化推進にもつながるものでした。その結果、住友コレクションは知られざる近代大阪画壇の宝庫となったのです。

上島鳳山《十二ヶ月美人》右より一月、四月、八月、十二月(全十二幅のうち) 明治42年(1909)  一文字・風帯:白地花唐草文金襴 中廻し:〔春〕鼠地笹霊芝木瓜文金襴〔夏〕浅黄地撫子文金襴〔秋〕茶地折菊文金襴〔冬〕浅黄地唐花文金襴 上下:平絹

上島鳳山《十二ヶ月美人》 明治42年(1909)

井口邨僊が住友春翠に紹介した画家の筆頭格が上島鳳山。円山派の人物表現を基礎に美人画で人気を博しました。春夏秋冬12幅の連作には、四季の四幅ごとの表装がほどこされました。

《白磁四君子画花瓶》合作 絵:住友春翠、井口邨僊、渡辺花仙、山田秋坪  作陶:伊東陶山 大正6~9年(1917~1920)

《白磁四君子画花瓶》 大正6~9年(1917~1920)

伊東陶山が作陶した白磁に、住友春翠(竹)と山田秋坪(梅)、渡辺花仙(蘭)、井口邨僊(菊)が寄せ書きした花瓶。絵画を通して交流を愉しむ様子がつたわります。

  • 特別展「表装の愉しみ -ある表具師のものがたり」基本情報

特別展「表装の愉しみ -ある表具師のものがたり」

■会期 2023年11月3日(金・祝)~ 12月10日(日)

■休館日 月曜日

■開館時間 午前10時 ~ 午後5時(入館は午後4時30分まで)

■主催 公益財団法人泉屋博古館、京都新聞

■後援 京都市京都市教育委員会、京都市内博物館施設連絡協議会、公益社団法人京都市観光協会、NHK京都放送

■入館料 一般800円 高大生600円、中学生以下無料※本展覧会の入場料で青銅器館もご覧いただけます

  • 泉屋博古館について

泉屋博古館は住友家が蒐集した美術品の保管、調査研究、展示公開を主な目的として、設立された美術館です。館名の「泉屋」は江戸時代の住友家の屋号、「博古」は中国・宋時代の青銅器図録「博古図録」にちなんでいます。

昭和35年に住友家より中国古代の青銅器の寄贈を受けて以降、順次収蔵品を拡大し、昭和56年より京都にて広く一般に美術品の公開を開始し、平成14年には東京に分館(現 泉屋博古館東京)を開設しました。

さらに平成22年内閣府より公益法人の認定を受け、「公益財団法人泉屋博古館」として、多彩な美術館活動を推進しています。

配信元企業:公益財団法人泉屋博古館

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