ビジネスのキーパーソンが偶然エレベーターに乗り合わせた――このようなチャンスは、突然やってきます。せっかくのチャンスを最大限活かしたい! そのためには、エレベーターが到着するまでのわずかな時間にどのような話し方をすると、相手に好印象を持たれるのでしょうか。本記事では、短時間で相手の心を掴む話し方のコツをアナウンサーの樋田かおり氏が解説します。

短時間で相手の関心を引く「エレベーターピッチ」

シリコンバレーが発祥といわれる「エレベーターピッチ」をご存じでしょうか。

起業家が投資家とエレベーターに乗り合わせた15秒や30秒というわずかな時間でビジネスをアピールする手法のことで、世界最短のプレゼンテーションスキルといえます。短時間で相手の心を掴むこのスキルは、起業家だけに必要なものではありません。

自分の伝えたいことをコンパクトに整理し、短時間でわかりやすく伝える力を身に付けておくことは、ビジネスパーソンであれば誰にとってもメリットがあります。プレゼンや商談の場だけでなく、立ち話や歩きながらの会話、講演会のあとの名刺交換など、ごく短い時間を活用してビジネスチャンスや自己アピールにつなげられる機会はたくさんあるからです。

15秒や30秒では挨拶だけで終わるのではと思う方がいるかもしれません。しかし、筆者はアナウンサーの経験からほんの短い時間であっても十分な情報を伝えらえることを実感しています。ニュース番組であれば冒頭の挨拶、1本目のニュースのリード(導入)文と次の展開を伝えるまでで約15秒です。

30秒ではこの2倍の情報量が伝えられます。ラジオであれば、視聴者からの長めのお便りを1本読み上げ、コメントを返し、「時刻は何時になりました」と時報を知らせる――ここまでで、30秒に収まります。 15秒も30秒も十分「伝える時間」になり得るのです。

突然チャンスはやってくる!日ごろから準備しておくべきこと

もし本当に、ビジネス上の重要人物がエレベーターに乗り合わせたら――。そんなときにはまずなにをすればよいでしょうか? 

公共の場か社内か、同伴者がいるかいないかなど、場所や機会を考慮した行動を取ることが大前提ですが、1対1で話せるチャンスであれば、まずは相手に体を向けること、しっかりとアイコンタクトを取りながら挨拶をすることです。このとき、第一声を明るくするだけで、相手に反応してもらいやすくなります。

しかし、心構えがなければ、「エレベーターピッチ」どころか、なんとなくの挨拶だけで終わってしまうかもしれません。自信を持っていつでもピッチできるように、ビジネスパーソンがこれだけは日ごろからやっておくといいことを2つご紹介します。

1.表情筋のトレーニング

1つ目は、表情筋のトレーニングです。諸説ありますが、人の第一印象は7秒で決まるといわれます。その第一印象の決め手となるのが表情です。顔には表情筋がたくさんあり、特に口の周りに多く集まっています。毎朝5分、顔全体を動かすように大きく口を開いて「あいうえお」と繰り返し発音し、表情筋をしっかり動かしましょう。

男性からはよく「男性が笑顔なのは気持ち悪くないですか?」と聞かれますが、笑顔とニヤニヤしている顔は別ものです。笑顔は口角がしっかりと上がり、目元がやわらかく緩んでいること。

笑顔をつくるのが苦手という方は、口唇の左右の端をぐっと上げることを意識してみてください。「ラッキー」「クッキー」「ウイスキー」など語尾の母音が「イ」になる言葉を使って繰り返しトレーニングすると、自然といい印象の表情をつくることができます。

2.伝わる声づくり

2つ目は、伝わる声づくりです。具体的には、母音法と滑舌トレーニングをおすすめします。母音法とは母音を集中的に発音する方法です。

たとえば、「おはようございます」をローマ字で書くと「ohayougozaimasu」となり、母音だけを拾うと「おあおうおあいあう」です。これを繰り返し発音練習したあと、「おはようございます」というと、母音がしっかり発音され、聞き取りやすくなります。普段使うことの多い社名や名前で練習してみてください。

滑舌トレーニングは、役者が行う「あえいうえおあお」の発声練習がポピュラーです。ハードルが高いと感じる方は、新聞記事の文尾をですます調に変え、アナウンサーになった気持ちで声に出して読み上げるだけでもトレーニングになります。

リモートワークチャット利用が進むなか、ビジネスパーソンにとって発声する機会が少なくなっています。声を出しやすくすることから始めましょう。

相手に伝わる話し方のポイント

短時間のピッチでは早口で情報を詰め込みがちです。しかし、自分が「伝える」ことと相手に「伝わる」ことは違います。「伝わる」話し方のコツは、論理的に伝えること、そして、相手にとって聴きやすい話し方をすることです。

論理的な伝え方として、筆者は結論・理由・具体例・結論の流れで相手に話を伝える「PREP法」にA=Ahead(未来・主張)を加えた「PREPA法」を提案しています。結論を繰り返したあとに未来の話を加えることで、相手の印象に残りやすくなるからです。 聴きやすい話し方のポイントはいくつかあります。

まず、一文を短くすることです。試しに1分間の自己紹介トークを録音し、句点(。)の数を数えてみてください。

「私は〇〇と申しまして、〇〇という会社の〇〇という部署で〇〇の仕事をしておりまして、もともと前職は〇〇でして外回りが多かったのですが、いまは〇〇を担当して……」と続き、句点は3~4個という方が多いです。

理想は1分間に6~7個くらいです。文章を区切ることを意識して話します。

また、短いピッチであっても、意識的に「間」をつくることも大切です。キーワードや数字を伝える前に間をとると、相手が聞き取りやすくなります。話し手は静寂が気になり早くいいたくなるかもしれませんが、聞き手にとって違和感はないものです。間をうまくとることで全体が締まった印象にもなります。 

樋田 かおり

株式会社トークナビ

代表取締役/アナウンサー

(※写真はイメージです/PIXTA)