アスタミューゼ株式会社(本社:東京都千代田区、代表取締役社長 永井歩)は、DX(デジタル・トランスフォーメーション)に関する技術のうち、「森林資源のDX」に関する技術領域において、弊社の所有するイノベーションデータベース(論文・特許・スタートアップ・グラントなどのイノベーション・研究開発情報)を網羅的に分析し、動向をレポートとしてまとめました。

著者:アスタミューゼ株式会社 田澤俊介 博士(工学) / 源泰拓 博士(理学)

はじめに

森林は陸地の約30%を占めています。地球の酸素供給源であり、多様な生態系を支え、気候変動を緩和します。脱炭素社会を目指す上で、持続可能な森林資源の利用は地球環境と人類の未来に不可欠です。

森林の減少と劣化を防止するための枠組みである「国連森林戦略計画2017-2030」では、全世界の森林(約40億ヘクタール)を2030年までに3%(約1億2,000万ヘクタール)増加させることを目標としています(注1)。

注1:https://www.rinya.maff.go.jp/j/kaigai/attach/pdf/index-16.pdf

しかし「世界森林資源評価(FRA)2020」の報告では2010年から2020年の10年間で約4,740万ヘクタールの森林が減少しています(注2)。

注2:https://www.rinya.maff.go.jp/j/kaigai/attach/pdf/index-5.pdf

森林資源の保全や有効活用が重要視されている中、デジタル技術を活用して森林のモニタリングや管理を行う森林資源分野のデジタルフォーメーション(DX)化が注目されています。林野庁ITCなどの導入により林業の効率化や省力化を推進するため、レーザー計測による効率的な森林資源量の収集や、森林資源のクラウド地理情報サービス上での管理、およびサプライチェーン管理のシステム化を行っています(注3)。

注3:https://www.rinya.maff.go.jp/j/keikaku/smartforest/smart_forestry.html

本レポートでは、森林資源に関する取り組みの中でも森林資源のDXに着目し、アスタミューゼが独自に構築したデータベースに基づいて、スタートアップと研究プロジェクトの動向をまとめました。

森林資源DXにおけるスタートアップ動向分析

アスタミューゼでは、世界中のグラント(研究開発予算)や特許、論文、スタートアップなど、イノベーションに関わる膨大なデータベースを保有しています。ここではまず、森林資源のDXに関する技術についてスタートアップのデータを用いて深掘りし、現在の立ち位置と今後の展望について見ていきたいと思います。

図1は森林資源DXにとりくむスタートアップ企業について、2012年から2021年の年次設立数、および資金調達額をまとめたものです。

図1:森林資源DXに関するスタートアップ企業の設立数と資金調達額の推移

設立数は2012年以降、10件から15件 の間で推移しています。

一方で、資金調達額は、2015年から増え始めており、2021年は2015年の約9倍と大幅に増加しています。これは衛星による山火事検知や林業用のツール、ドローン、森林資源のトークン売買プラットフォームなど複数の企業が大型の資金調達に成功したためです。

国別の設立数ではアメリカが26件とトップで、カナダドイツと続いています。スタートアップの事業内容としては、森林資源モニタリングのためのセンシングや山火事の検知、監視に関する事業が見られました。2015年の持続可能な開発目標(SDGs)の採択以降、パリ協定や国連森林戦略計画など森林資源が関係する国際的枠組みが成立したことから、森林資源に関わるビジネスへの資金流入が増加したと考えられます。以下に資金調達額上位のスタートアップを紹介いたします。

森林資源DXにおけるグラント動向分析

つぎにグラント(研究開発予算)について見ていきます。図2は森林資源DXに関する2012年以降の国別採択数です。ただし、中国はグラントデータの開示が不十分なため除外しています。

図2:森林資源DXに関するグラント採択数の国別年次推移

2015年から2019年の間は日本とアメリカが首位を争っており、そのあとにイギリスが続いておりました。アメリカの採択数は2018年以降大きく伸びていますが、日本では2019年以降減少しています。ただし、グラントにはデータベース格納にタイムラグがあるため、直近の集計値は減少しやすいことには留意が必要です。

図3はグラントの配賦額の推移を国別にまとめたものです。

図3:森林資源DXに関するグラント配賦額の国別年次推移

配賦額についても、アメリカが増加傾向にあります。EUは2020年までは1,000万USドルから2,000万USドルの間を推移していましたが、2021年に3,200万USドルに急増しました。これは、2021年に、AIやドローンを活用した山火事に対する管理システムの研究が2,270万USドルもの配賦金を獲得していることが影響しています。

配賦額の高いグラントには、センサや3Dマッピングによる火災管理システムや森林状態のモニタリングやシミュレーションに関する内容が多く見られます。近年、様々な国で大規模な森林火災が発生していることが影響していると見られます。米国カリフォルニア州では、2021年1月から8月までの燃焼面積が、2020年同期間の約2.5倍であることが報告されています(注4)。

注4:https://www.jetro.go.jp/biznews/2021/08/91b88df370050bff.html

その他、スマート林業など、森林資源の活用に関する研究も少数ですが見られました。

以下に配賦額の高いグラントの事例を紹介いたします。

  • グラント事例(1)

    • タイトル:A Holistic Fire Management Ecosystem for Prevention, Detection and Restoration of Environmental Disasters

    • 機関・企業:RISE FIRE RESEARCH AS (EU)

    • 採択年:2021年

    • 配賦額:約2,278万米ドル

    • 概要:AIやIoT、ドローンなどを活用した山火事などの災害の予防、検知、回復のための総合的な火災管理エコシステムを構築する研究

  • グラント事例(2)

    • タイトル:SmartForest: Bringing Industry 4.0 to the Norwegian forest sector

    • 機関・企業:NIBIO (ノルウェー)

    • 採択年:2020年

    • 配賦額:約1,023万米ドル

    • 概要:ドローンやリモートセンシング、ブロックチェーン、デジタルツインなどの技術を導入し、造林のコスト最適化、木材供給の季節変動低減による価値向上、木材のトレーサビリティと認証の確保などを実現するスマート林業に関する研究

まとめ

森林資源のDXに関わるスタートアップは2018年以降大きく資金調達額を増やしています、とくに山火事の検知、監視や植生モニタリングに関わる企業が多くの資金を調達しております。グラントからも、山火事の防止や森林のモニタリングに関する研究が多く実施されていることがわかります。山火事の予防から回復までの総合的なシステムの開発や森林データを活用したシミュレーションに関する研究も行われています。

気候変動との関連があるとされる山火事の増加により森林モニタリングの重要性がますます高まっています。2023年6月にはEUで森林破壊防止のためのデューディリジェンスが義務化され、森林資源に関する規制が強まりました(注5)。

注5:https://www.jetro.go.jp/biznews/2023/06/e269eee14e52e454.html

木材を有効活用するスマート林業も重要になります。さらに、2023年9月には自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)により生物多様性に関する情報公開化(注6)が公開されました。

注6:https://www.bluedotgreen.co.jp/column/tnfd/tnfd/

森林資源を含む生物多様性に関するモニタリング技術の重要度は増していきます。今後もデジタル技術を活用したモニタリングによる森林資源の管理技術の研究が進むと予想されます。

著者:アスタミューゼ株式会社 田澤俊介 博士(工学) / 源泰拓 博士(理学)

さらなる分析は……

アスタミューゼでは「森林資源のモニタリング」技術に限らず、様々な先端技術/先進領域における分析を日々おこない、さまざまな企業や投資家にご提供しております。

本レポートでは分析結果の一部を公表しました。分析にもちいるデータソースとしては、最新の政府動向から先端的な研究動向を掴むための各国の研究開発グラントデータをはじめ、最新のビジネスモデルを把握するためのスタートアップ/ベンチャーデータ、そういった最新トレンドを裏付けるための特許/論文データなどがあります。

それら分析結果にもとづき、さまざまな時間軸とプレイヤーの視点から俯瞰的・複合的に組合せて深掘った分析をすることで、R&D戦略、M&A戦略、事業戦略を構築するために必要な、精度の高い中長期の将来予測や、それが自社にもたらす機会と脅威をバックキャストで把握する事が可能です。

また、各領域/テーマ単位で、技術単位や課題/価値単位の分析だけではなく、企業レベルでのプレイヤー分析、さらに具体的かつ現場で活用しやすいアウトプットとしてイノベータとしてのキーパーソン/Key Opinion Leader(KOL)をグローバルで分析・探索することも可能です。ご興味、関心を持っていただいたかたは、お問い合わせ下さい。

配信元企業:アスタミューゼ株式会社

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