北朝鮮北部・両江道(リャンガンド)のある住民の話によると、金正日時代までは軍人の寝床というと、きれいに整頓された白いマダラス(マットレス)と、四隅をきちんと折り揃えた枕を思い出すものだったという。だが、今ではすっかり変わってしまったそうだ。

金正恩時代に入ってから、兵士の部屋と言えば黄色く変色したマダラス、ボロキレのような毛布、垢でテカテカになった木枕を思い浮かべる」

朝鮮半島では、薄い敷布団を床に敷いて寝るのが一般的だった。オンドル(床暖房)の暖かさが直接伝わるからだ。韓国では、ガスボイラーを使って暖めた温水を循環させる方式を使うようになってから、敷布団ではなくベッドで寝るようになった。

しかし、北朝鮮では敷布団を使うのが一般的だ。ほとんどの人が燃料として練炭を使っており、ベッドにすると部屋全体が温まりにくく寒いからだ。枕は稲わらのものがよく使われているが、気候の関係で稲作がほとんどできない北部山間部では、木枕が使われている。長さは45センチ、高さと幅は15センチほどのものだ。

朝鮮人民軍北朝鮮軍)の兵士たちは最近、この木枕を肌見放さず持ち歩いているという。その奇行ぶりについて、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が伝えている。

建設工事に当たる朝鮮人民軍北朝鮮軍)の兵士や、突撃隊(半強制の建設ボランティア)の隊員には、新しい枕が配給されなくなったため、自費で購入した木枕を使うのが当たり前になっているようだ。

10年以上の長い兵役の間、ずっと大切に使い、除隊の日に荷物をまとめて部屋から出て、最後にやるのが、木枕を食事当番に渡すことだという。それは、木枕を薪として使ってくれという意味で、一種の儀式のようなものらしい。

そんな大切な木枕だが、就寝時のみならず常に持ち歩く兵士が増えていると、別の情報筋が伝えた。以前は夜間勤務のときだけ部屋から持ち出すものだったが、今では部屋から出る際には必ず持ち出すという。

「彼らは木枕を常に持ち歩くのは、部屋に置いておくとちょっと目を話した隙に盗まれてしまうからだ」(現地情報筋)

先月末、道内の甲山(カプサン)郡で、農村住宅の建設にやって来た突撃隊員が、別の中隊の隊員の木枕を盗み、薪にしたのがバレて大喧嘩になったという。硬い木を使っているため、薪にちょうどいいのだとか。

冬の寒さが厳しい両江道では、暖房用の燃料として薪が使われるが、国からの供給がないため、木枕を盗んで薪に使うのだという。薪の値段が上がっていることもあって、木枕は物々交換でも重宝されるアイテムとなる。木枕1つに豆腐半丁、2つなら1丁、4つもあれば酒1本と交換してもらえる。

もともとは夜間勤務の休憩の際に、椅子として使うために部屋から持ち出していた木枕だが、昼間にも椅子として使うようになり、物々交換にも使うようになった。また、叩けば大きな音がするため、何らかの合図を送るときにも便利だとのことだ。

「兵士たちにとっては木枕は単なる枕ではなく、最終手段として使う非常用の資金も同然だ。枕の使い道が広がり、銃より大切なのは枕と言われるほどだ」(情報筋)

北朝鮮の女性兵士(アリランday)