2025年3月に発足することが明らかになった自衛隊「海上輸送群」。その名称から海上自衛隊所属と思いきや、そうではないといいます。一体どんな部隊で、どんな船を運用するのでしょうか。

「海上輸送群」てどんな部隊?

防衛省は2024年度概算要求に、南西地域の離島へ車両や人員を輸送する専門の部隊として「自衛隊海上輸送群」(仮称)を2025年3月に海上自衛隊呉基地に新編すると明記しました。これを受け、同部隊に配備される機動舟艇3隻の調達予算として、173億円が計上されています。

部隊は陸海空の共同となり、発足時の人員は100人規模。2027年度末までに中型級船舶(LSV)2隻と小型級船舶(LCU)4隻、そして機動舟艇4隻の計10隻を取得する計画です。

昨今、東シナ海における中国軍の活動が活発化していることを受け、防衛省自衛隊は南西地域の防衛体制の強化を進めています。陸上自衛隊は先島諸島のうち、与那国島宮古島石垣島に駐屯地を新設。後2者には射程の長い03式中距離地対空誘導弾を運用する高射部隊や、水上艦艇攻撃用の12式地対艦誘導弾を装備した地対艦ミサイル部隊が配置されています。

他方で、離島奪還を担う水陸両用部隊である水陸機動団も増強を進めており、2024年には第3水陸機動連隊が長崎県大村市の竹松駐屯地に新編されます。

しかし、島嶼部への攻撃に対応するには、海上優勢と航空優勢の確保はもちろんのこと、上陸阻止や奪還に使う陸上戦力を迅速に機動・展開させる必要があります。自衛隊が持つ装備や人員の輸送が可能な艦艇は、海上自衛隊が保有するおおすみ型輸送艦3隻と「輸送艇2号」と呼ばれる小型揚陸艇が1隻のみ。防衛省PFI(民間資金等活用事業)方式で契約している民間フェリー「はくおう」(1万7345総トン)と「ナッチャンWorld」(1万712総トン)は船体が大きく、小規模な港への輸送には不向きです。

そのため、航空機による輸送に適さない重装備や、一度に大量の物資などを輸送するためには、現在の海上輸送能力では不十分であり、有事の際には全国各地から島嶼部に自衛隊の装備品を継続的に輸送する必要があることから、その部分の強化が不可欠といわれていました。

海上輸送群の最終的な規模は?

こうした背景を受けて2018年の「中期防衛力整備計画(中期防)」で「海上輸送部隊」1個群の新設が盛り込まれ、2022年度予算で中型のLSV1隻と小型のLCU1隻の取得が決定。さらに2023年度予算でもLCU2隻の建造が決まりました。建造ヤードはいずれも内海造船(広島県尾道市)で、LSV1隻とLCU1隻は今年2月に計約95億円で、LCU2隻は7月に計約82億円で契約が結ばれています。

このように徐々に具現化しつつある海上輸送群ですが、改めてどのような部隊になるのか見てみましょう。

まず陸海空共同の部隊として新編されますが、船舶の操船や運用に関しては海上自衛官ではなく陸上自衛官が行います。発足は冒頭に記したように2025年3月、広島県の呉基地において、LSV1隻とLCU1隻、人員約100名でスタートしますが、部隊の配備先としては司令部が置かれる呉だけでなく、大型艦艇向けに港湾設備の整備を計画している鹿児島県奄美大島も候補にあがっているようです。

部隊規模は、将来的にはLSV2隻とLCU4隻に機動舟艇4隻を加えた10隻にまで充実する予定。運用人員はLSVが約40人、LCUが約30人とされており、部隊の拡大とともに人員も増えることが予想されます。

配備されるLSVは本土から島嶼部への海上輸送を行える大きさで、搭載能力は2000トン程度。LCUは喫水が浅い小規模な港湾への入港が可能な大きさで搭載能力は数百トン程度のものを想定しています。

機動舟艇は2022年末に決まった「防衛力整備計画」で新たに導入が明記されたもので、全長約35m、輸送能力約60トンの高速艇となります。防衛省は大型トラック約2台分を運べる船と説明していました。

ちなみに今年3月に開かれた防衛装備品展示会「DSEI Japan」では英国の船舶エンジニアリング企業BMTが自衛隊車両を積んだ高速揚陸艇「CAIMEN-90」の模型を展示しています。こちらは全長30mで満載時は22ノット(約40.7km/h)、軽荷時で最大40ノット(約74.1kim/h)を発揮。積載重量は90tあるため、10式戦車(重量44t)や90式戦車(同50t)を余裕で運ぶことができます。

陸自隊員も江田島と横須賀で艦の勉強中

「海上輸送群」で船舶を運用する陸上自衛官に関しては現在、急ピッチで育成が進められています。大型船舶に乗務するためには、海技士免許相当の部内資格が求められます。ゆえに、2024年度の部隊発足に間に合わせるには、その数年前から実際に乗船して経験を積んでおく必要があります。

基幹要員の育成についても2019年から始まっており、それぞれ所定の課程を経た後、運航要員は広島県江田島市の第1術科学校、機関要員は神奈川県横須賀市の第2術科学校に入校し教育を受けています。

すでに海自のおおすみ型輸送艦3隻には陸自輸送科の幹部と陸曹が乗艦しており、航海科と機関科に配置されています。人数は各艦7人から8人程度。彼らは海上自衛官と同じように操艦や見張り、ディーゼル機関の運転・整備といった勤務に就いており、それぞれの艦に所属する乗組員として扱われています。

島国である日本にとって、遠隔地へ陸上部隊を展開するには船舶が必要不可欠です。戦車や火砲、ミサイルなどの重量物は船で運ぶしかなく、機動力と輸送能力に優れた船舶を集中的に運用する部隊の存在は大いに意義があります。

これから、ますます「海上輸送群」の姿が具体化するのは間違いありません。これからどんな姿で発足し、どのように成長していくのか、期待が高まります。

2022年11月に相模湾で行われた国際観艦式に参加した海上自衛隊の輸送艦「くにさき」。陸上自衛隊の各種装甲車を搭載して参加していた(深水千翔撮影)。