2023年11月17日に、ボカロP・Pegことヤマモトガクによる1st full album「怪談」がリリースされる。

取材・文/曽我美なつめ


 2018年よりボカロPとしての活動を始めた彼。「あわよくばきみの眷属になりたいな」「夜になったら耿十八は」等の楽曲群で支持を得たことに加え、直近では『プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat.初音ミク』内ユニット、Vivid BAD SQUADへの提供曲「ひつじいっぴき」でも注目を集めた経歴を持つ。

 彼の作品のアイデンティティは、やはりゆったりとした低BGMとハネのあるリズムを巧みに用いたダンサブルなビート。そして歌詞やメロディに漂う、どこか退廃的でレトロモダンな和のムードの二つの要素だ。
 その強みは、2021年にシンガーとして活躍を始めて以降の楽曲にも存分に生かされている。ヤマモトガクとしては初のフルアルバムとなる今作も、彼の個性であり大きな魅力たるこれらの雰囲気が十二分に楽しめる作品となった。

 アルバム収録楽曲は11作。中にはVOCALOID曲として過去に動画投稿されているものもあれば、当初よりヤマモトガク名義作品として公開されたものまで、多彩なナンバーが入り乱れる。
 今回はその中より、彼の作品世界の魅力を垣間見ることのできる楽曲をいくつかピックアップ。VOCALOIDカルチャーからまた新たに邦楽シーンへ挑む新たな才能の片鱗を、ぜひこの曲群から感じ取ってみては。

 まず最初に紹介するのは、アルバムのオープニングナンバーを飾る「色魔」。本楽曲の大元は、2023年7月に彼がPegとして動画を投稿した琴葉茜曲となる。人を狂わせるファムファタルを歌う歌詞には、無邪気さと色めいた嫋やかさが絶妙なバランス感で同居する。明朗な琴葉茜の声が映える軽やかなメロディは、明るい響きを孕む彼自身の歌声との相性の良さも感じさせるだろう。

 また、同じくVOCALOID鏡音リン曲として先行公開されている「狆くしゃ」も収録。The VOCALOID Collection 2023 Summer参加作品として投稿された今作は、彼の最も得意とするルーズ感のあるビートトラックに、和楽器ジャパニーズモダンなサウンドを織り交ぜた一作となる。ユーモアのある皮肉の利いたリリックも併せて楽しんで欲しい。

 さらに、アルバム発売直前にVOCALOID版、本人歌唱版共に動画投稿された「綺麗じゃない」も収録曲のひとつとなる。冒頭からのグルーヴィなベースラインをフックとしつつ、アウトロまでサウンド面においても丁寧な造りが光る本作。現代ならではの描写と「怪談」という、女性の「わたし、きれい?」にまつわる主題を巧みにリンクさせた歌詞にも、彼の日本語表現の妙を感じられる一作だ。

 そしてアルバムラストを飾る「再見」。空間を感じさせるメロウなサウンドメイクが印象的な今作からは、従来のビート感を活かしつつ新境地に挑む彼の姿が浮かんでくるようにも思う。心地好い浮遊感の中に時折差し込まれる不穏な響きが醸し出す妖しさも、今回の音源の最後を飾るに相応しいナンバーとなっていると言える。

 終始緩やかな空気感で肩の力の抜けたビート感あるサウンドに、じっとりした和の不気味さ・おどろおどろしさを程よいアクセントとする、アルバム「怪談」。
これまで彼の音楽に親しんできた人、あるいは今作で初めて彼の音楽に出会う人。どちらにもヤマモトガクの魅力が存分に伝わる、彼の名刺代わりの一作となるに違いない。


1st full album「怪談」 配信リンク

「The VOCALOID Collection」 公式サイト

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