5月からギター2本編成のアコースティックツアーでライブハウスをまわり、夏にはいくつかのイベント出演を経て、10月からスケールアップして始まったツアー「NAKED」。残すところ2本となったKT Zepp Yokohamaのステージに現れた家入レオは、アルバム『NAKED』の誕生と今年1年のライブにより鍛えこまれたメンタルとパフォーマンスをフル発揮し、ファンを魅了した。

SEが止まり、バンドメンバーによる一曲目のイントロがはじまる。どしゃぶりの雨のように盛大な手拍子のなか、ステージ袖から飛び出してきたレオの第一声「横浜、いくよー!」に会場が歓声に包まれる。ゆるっとしたオレンジ色のセットアップは、その色から、全力で楽しむというライブのコンセプトが伺える。リズミカルで、観客と歌う部分もある「レモンソーダ」の爽やかさに、ひらひらしたレオの動きがよく似合う。まるでライブのオープニングを飾るために作ったかのように華やかな同曲に続き、「僕たちの未来」でも惜しみなく観客のテンションを煽っていく。

「次の曲で飛んで跳ねて楽しむ準備、できてる? 全部出し切っていいからね!」

そんな合図で始まった「サブリナ」は、分厚いバンドサウンドと照明でよりスリリングに色づけられ、観客の拳をさらに高く突き上げさせた。

「来てよかったなぁと思ってもらえるように、私も一人ひとりに向けて。“私とキミ”、“私とあなた”で歌を届けるので、最後までよろしくお願いします!」

そう最初のMCで言った通り、とにかくレオと観客の距離が近い。もちろん物理的な距離ではなく、気持ちのシンクロ度合いから感じる距離感だ。今年前半のライブハウスツアーのときに感じたような、ステージと客席の隔たりのない楽しみ方がここにもあった。一人ひとりの顔を確認し、手を差し伸べるレオ。目の前のリズムに身をゆだね、レオのビブラートひとつにも全力で応える観客。その関係性は「Boyfriend」「君がくれた夏」など、甘く柔らかなファルセットとアコギを活かした曲でも変わらなかった。

中盤では、自ら「感情ジェットコースターゾーン」と銘打ち、アルバム「NAKED」の中から、悲壮や寂寥、愛するがゆえの心の渇きを綴った曲を続ける。一見、タイトルだけ見ると恋愛にしがみついた曲のようにも捉えられる「君に未練はないけど、恋に未練がある」では、実はその恋に真剣だったからこそ簡単に断ち切れない主人公の苦しさを、切々と歌い上げる。そして圧巻だったのは、「嘘つき」からの流れだ。ゆったりとした歌い出しから、一気にまくしたてるような3連符続きのメロディを完璧になぞっていく。「Winter」では、すっと吸い込むブレスをきっかけに、激情のなかにある戸惑いが立体的になっていく。それはもう、家入レオの表現力の賜物としか言いようがないのだが──あらためて思う。鳥肌が立つほど、歌がうまい。いや、今更すぎるのだけど。スピーカーやイヤホンから流れてくる完成版と差異のない声量。ロング部分をフェイクで濁すことや高音を抜くことなく、スパンスパンと気持ちよく狙っていく音程。安定感のあるボーカル、聞き取りやすい歌詞というベーシックな歌のうまさが、楽曲に込められた想いや描かれた風景を遜色なく聴き手に届けるのだ。そんな歌を聴きながら、テンションをあげすぎたせいもあるかもしれない。感情ジェットコースターゾーンを締めくくる「Silly」には、よりハードなアレンジになっていて重さはありつつも、どこかほっとする優しさを感じた。

感情ジェットコースターゾーンを抜けたら、ぶちアガりソーン(本人談)に突入。コール&レスポンスを繰り返して両者のエンジンをふかし、レオの雄叫びから新曲の「BINKAN」へ。ノリやすい超ハイパーロックチューンに、客席は歓声と拳で応戦する。それに対し、レオも「Pain」で頭をくしゃくしゃに掻き乱し、両手を広げてぐるぐると舞う。白いエレキを構え、シャカシャカと小気味いい弾き語りから始まった「Shine」では大合唱が生まれる。そしてギターを外し、ステージの端から端まで何度も走り、2階席の一番奥まで見据えて歌った「Hello To The World」では、ここから新しい世界を踏み出せそうな、強いエネルギーが場内に広がっていく。全員の笑顔と汗とジャンプによって、この日一番のキラキラした時間に。

本編ラストは、場内一体となってタオルを振り回して盛り上がる「シューティングスター」。ここまで全力で歌い、話しかけ、走り回ったにも関わらず、まったく怯まない家入レオの歌声。掠れることのない喉。息切れすることのない精神力。それは紛れもなく、これまで見た彼女の数々のステージの中で一番タフな姿だった。

もしかしたら世間一般的な家入レオのイメージには、まっすぐ熱く、かつクールに歌い上げる人という印象がまだあるかもしれない。もちろんそれも、間違いではない。でも、それだけではない彼女の生歌を、ひとりでも多くの人に体感してほしいと強く思う。少女の頃から様々なことに悩み、挑み、迷いながら愛や夢を歌ってきた家入レオの音楽には、これまでも彼女自身が大人の女性へと成長する過程が描かれてきた。そして、今年の2月に発売したアルバム『NAKED』では、それが正か否かは関係なく自分の思うままに物語を創作し、リアルな感情を投げ込むという手法をとった。その結果、じつに独創的かつ生々しい一枚となった。つまりこのアルバムには、今の家入レオの価値観が、まさに裸に近い状態で綴られているのだ。そして、その歌たちを中心にしたライブでは、ギターをかき鳴らし、髪を振り乱し、ステージの隅から隅まで疾走して歌う彼女の本質を味わえる。自分の音楽を楽しんだこの日の家入レオも、これまでにないほど情熱的で、美しかった。

アンコールには、BLUE ENCOUNTの田邊駿一から提供されたというポップス「ラブレター」を披露。妙に繊細で生々しい男心を、自在にメロディに載せた田邊ならではのラブソング。リリース予定はつけずにライブで育てていきたいというだけあり、覚えたくなるフレーズが盛りだくさんで、ライブの定番曲になる日も近いと思わせた。

「つい身近な人につらく当たっちゃうことってあるやん? なんでこんな言い方しちゃうんだろうって自分のこと責めちゃうこともあるだろうけど、好きの裏返しだよね。大事に想っているからこそ、つい口うるさく言っちゃったりする。そんなあなたは一生懸命で、とてもかわいい人です。誰よりも、誰かのことを思える素敵な人です」

そう言って最後に歌ったのは、『NAKED』の中でもっとも慈愛に満ちた「かわいい人」。誰かを想うからこそ衝突し、小さな後悔を抱える人を許す歌だ。ゆったりしたテンポと耳に残る甘い歌声は、自分を解放した人たちをあらためて肯定し、癒していった。その歌の説得力こそが、「NAKED」というアルバム制作と2本のツアーを経たことで、家入レオが自分自身とファンのために手にした新たな自信なのだと感じた。

Text:川上きくえ Photo:小境勝巳

<公演情報>
家入レオ TOUR 2023 ~NAKED~

2023年11月11日(土) KT Zepp Yokohama

セットリスト

01. レモンソーダ
02. 僕たちの未来
03. サブリナ
04. Boyfriend
05. 君がくれた夏
06. そばにいて、ラジオ
07. 君に未練はないけど、恋に未練がある
08. 嘘つき
09. Winter
10. Silly
11. BINKAN
12. Pain
13. Shine
14. Hello To The World
15. シューティングスター
EN1. ラブレター
EN2 かわいい人

<ライブ情報>
家入レオ TOUR 2023 ~NAKED~

2023年11月18日(土) 16:00開場、17:00開演
会場:北海道 サッポロファクトリーホール

LEO IEIRI Live in Shanghai

2023年12月9日(土)
会場:中国・バンダイナムコ上海文化センタードリームホール

家入レオ YAON ~SPRING TREE~

2024年3月16日(土)・17日(日) 16:00開場、17:00開演
会場:日比谷野外大音楽堂
出演:家入レオ麻倉もも(17日のみ)
料金:指定席8,500円、LEPYシート13,500円

家入レオ公式サイト:
http://leo-ieiri.com

『家入レオ TOUR 2023 ~NAKED~』2023年11月11日(土) KT Zepp Yokohama