世界中で同時発生的に起こっているインフレ。今後、インフレはどうなっていくのでしょうか? 本記事では、元IMF(国際通貨基金)エコノミスト東京都立大学経済経営学部教授の宮本弘曉氏による著書『一人負けニッポンの勝機 世界インフレと日本の未来』(ウェッジ社)から、インフレの動向について解説します。

世界同時インフレの実態

インフレは世界中で広がっています。グローバルにいろいろな国で同時発生的にインフレが起きるというのは実に半世紀ぶりのことです。

欧米の中央銀行は高インフレに対処するために、金利を引き上げる、つまり、金融引き締めを行っています。こうした施策の効果もあってインフレ率は多少頭打ちになっていますが、いまだに高水準です。

あらためて世界でインフレがどのように推移してきたのかを確認しましょう。図表1を見てください。これは過去約20年間のアメリカ、ユーロ圏、日本のインフレ率の推移を示したものです。

アメリカ、ユーロ圏のインフレ率は2000年から2020年に平均2%程度で安定的に推移していましたが、2021年からインフレが加速しています。アメリカのインフレ率は2021年4月に前年同期比で4.2%と3月の2.6%から大きく伸び、その後も上昇を続けます。

2022年6月には9.1%と約40年ぶりの高水準となりましたが、その後、12か月連続で鈍化し、2023年6月には3.0%となっています。ユーロ圏では、2022年10月に消費者物価指数は前年同月比10.6%上昇しました。

これは、統計で遡れる1997年以降で過去最高の水準でした。その後、インフレ率は鈍化し、2023年6月には5.5%となっていますが、依然として高い水準にあります。

世界でインフレが起きた主要因は新型コロナウイルス

どうして、半世紀ぶりに世界インフレが起きたのでしょうか? また、世界で起きているインフレと日本で起きているインフレは同じなのでしょうか、あるいは違うのでしょうか。

今、世界中でインフレが拡がっている主要因は新型コロナウイルスによるパンデミックです。パンデミックでモノやサービスを供給する体制が不安定になりました。また、欧米では経済が本格的に再開されていますが、そうした中で需要が高まってきています。しかし、それに供給が追いつかないため、インフレが起きています。

これに、2022年2月に勃発したロシアによるウクライナ侵攻による穀物価格やエネルギー価格の上昇が加わり、インフレが加速したのです。

世界経済の行方

今後、インフレはどうなっていくのでしょうか? 世界的に注目される予測のひとつが、国際通貨基金(IMF)の「世界経済見通し」です(図表2)。

IMFや世界銀行、経済協力開発機構(OECD)などの国際機関は、年に複数回、経済見通しを公表しています。IMFは、毎年4月と10月に経済見通しについて詳しい報告書を公表し、1月と7月にも成長率などの予測を改訂しています。

2023年7月の「世界経済見通し」(本書執筆時点で最新のもの)によると、世界のインフレ率は、2022年の8.7%から、2023年に6.8%へと鈍化し、2024年には5.2%へとさらに鈍化すると予測されています。ただし、これはコロナ禍前の2017〜19年の水準である約3.5%を上回っています。

先進国では、インフレ率が、2022年の7.3%から2023年には4.7%、2024年には2.8%に低下すると予測されています。

一方、新興市場国と発展途上国では、インフレ率は、2022年の9.8%から2023年には8.3%、2024年には6.8%に低下すると予想されています。なお、これは、パンデミック前の平均である4.9%を上回る見通しです。

インフレピークは過ぎたが、完全な鎮静は2024年までかかる見通し

IMFは2022年7〜9月期に世界の総合インフレ率はピークに達したとの見解を示しています。世界的な需要低迷を受けた国際商品価格の下落と金融政策の引き締めによって需要が冷え込んだことにより、インフレが低下しつつあるということです。

ただし、完全な形で金融引き締めによるインフレ鎮静化は、2024年までは見られないと予測されています。

宮本 弘曉

東京都立大学経済経営学部

教授

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