北朝鮮の最高人民会議常任委員会第14期第27次全員会議は今年8月、改正選挙法を採択した。

その内容を見ると、今まで投票箱は1つしかなかったのが、「賛成」「反対」と書かれた2つの箱を設置する、秘密投票の保障などの内容が含まれているが、最も注目されるのは、一部選挙区で複数候補が認められるという点だ。

その仕組みは、地域、部門、職業、ジェンダーバランスなどを考慮して2人の選挙者(候補者)を推薦し、「選挙者会議」で候補者が資格を満たしているかを「資格審議」で審査し、最終的な立候補が認められる。国営の朝鮮中央通信は、その様子を次のように報じている。

各地の選挙区で代議員候補の資格審議のための有権者会議

【平壌11月9日発朝鮮中央通信】道(直轄市)・市(区域)・郡に組織された選挙区で、代議員候補の資格審議のための有権者会議が行われている。
有権者会議には、選挙人の意思を代弁する当該区(分区)選挙委員会のメンバーと選挙区内の機関、企業、団体の活動家、勤労者が参加した。

会議では、代議員候補が人民の代表としての資格を十分に備えているのかを候補者の経歴と功労内容、資格基準、選挙人の意見に基づいて公正に審議、評価している。

会議の参加者は、代議員候補の資格審議と登録において課された責任と権利を十分に行使している。

有権者会議では、高い愛国心と人民に対する滅私奉仕の精神を体質化し、国家の発展と人民の利益を実現するために献身的に奮闘している活動家と勤労者の中から多数の支持票を受けた人々が代議員候補に登録されている。

8日現在、平壌市、黄海南道、南浦市をはじめとする複数の地域で道(直轄市)人民会議代議員候補の資格審議のための有権者会議が終わったし、登録された代議員候補に対する紹介・宣伝活動が連続行われている。---

従来の選挙は、朝鮮労働党が推薦した顔も名前もよく知らない候補者に、事実上賛成票を投じることしか認められず、選挙運動も「100%投票、100%賛成」を呼びかけるという異様なものだった。それが、今月26日に行われる各道、市、郡、区域の代議員選挙(地方議会選挙)から、改正選挙法が適用され、複数候補が認められようになったが、北朝鮮国民の見方は概ね否定的だ。

平安北道(ピョンアンブクト)のデイリーNK内部情報筋は、二人の候補が推薦され、人民の自由意志に基づき投票できるようになったとの新しい選挙方式について、今月8日から人民班(町内会)を通じて市民に知らされたと伝えている。各地の通勤ルートや人民班の至るところに、二人の候補者の名前と写真が貼り出されている。

選挙制度が変わったという話を聞いた市民だが、最初はよくわからないという反応を示していたが、選挙ポスターがあちこちに貼り出されたのを見て非常に驚いたという。

市民は興味深いとの反応を示す人、「酒1本を奢ってくれた人に投票する」という冗談交じりの反応を見せる人もいるが、ワイロがすべてを左右する北朝鮮社会らしい反応だろう。

しかし、否定的な反応、冷笑が多い。

「二人の候補者とも、内部で既に決められているので、あまり大きな意味はない」
「国がすべての政策を決めて地方代議員は意見を言うこともできないのに、そんな人を選んでどうなるのか」
「自分たちの声を党に伝えても何も変わらないのだから、投票は単に(今まで通りの投票に過ぎない」

また、「それぞれどういう功労があったのか、どんな人物なのかわからないので、誰に投票していいのかわからない、適当に投票する」と、従来の選挙同様に、候補者の情報がわからないという反応を見せる人もいる。

安全部(警察)、保衛部(秘密警察)が、「新たな選挙方式を巡り、人民の間で微妙な反応や、政治的な発言が出ないように徹底的に監視、取り締まれ」との内部指示を下したことが広まり、市民は余計なことを言わないように用心している。

実際、「選挙方式が変わったと言っても、われわれの生活が変わるわけでもないのだから、観相(人相占い)を見ていい人に投票する」と冗談を言った人が、その週の生活総和(毎週土曜日に行われる総括)で、集中思想闘争(吊し上げ)の対象となってしまった。

新しい選挙制度は、一言で言って「民主主義風の選挙」に過ぎない。北朝鮮の人々は、韓国や米国からのラジオを聞いている人はもちろん、韓流コンテンツを見ている人も、民主主義敵選挙がどのようなものか、ある程度知っている。そこから生じる不満を意識したものと言えよう。

しかし、そんな政府の思惑は国民に見抜かれている。また、移動制限を強化するなど、国内の引き締めを図るために、選挙が利用されていることにも変わりはない。

平壌市中区域の投票所(画像:労働新聞)