満場一致メジャーリーグア・リーグMVPを受賞した大谷翔平選手。おめでとうございます! 大谷選手は先日、日本全国の小学校にグラブを寄付すると発表したことも話題になりました。ということで今回は、スポーツ選手の社会貢献活動についてお話しさせてください。

大谷選手が寄付する予定なのは、約2万の小学校にグラブを3個ずつ、合計約6万個。金額を言うのは無粋かもしれませんが、約12億円と試算する方もいて、「スケールの大きさもスターならでは」という賞賛の声が相次ぎました。

寄付やチャリティーは、海外では一般的な行為であることをご存じでしょうか。どんな選手でも、というわけではありませんが、一流選手のほとんどが何かしらの慈善活動に携わっています。

MLBでは社会貢献に熱心な選手に「ロベルト・クレメンテ賞」という賞が贈られます。プエルトリコ出身のロベルト・クレメンテ選手は、特に母国への慈善活動に熱心で、その偉業に敬意を表してこの賞が設けられました。

なぜメジャーリーガーチャリティーに熱心なのか。これは個人的な見解ですが、「文化」であることが一番大きいのかなと思います。

今年、シアトルで開催されたオールスターゲームの取材に行った時のこと。車が停車するたびに、窓をコンコンと叩く物売りが近づいてきます。日本だったら邪険にしてしまいそうな場面でも、「こういうものだから」と少額のコインと引き換えに、彼らから商品をもらいました。

体が不自由だったり、生活に苦しんでいる人が路上で物乞いする光景も日常的で、現地の人たちは当たり前のように、彼らの目の前に置かれた缶にお金を投じていきます。昨今の日本では「自助」が謳われ、「貧しいのは自分の努力が足りないせいだ」という自己責任論が盛り上がりますが、向こうでは「苦しい時はお互い様」という感覚が共有されています。自然と困っている人に手を差し伸べる文化が広く根づいているんです。

それゆえに、メジャーリーガーやスポーツ選手、セレブリティたちの慈善事業が自然と受けいれられる環境も整っています。MLBでは「チャリティーデー」が数多く設定されていて、選手のユニフォームオークションにかけられ、その売り上げが慈善団体に寄付されます。

苦しんでいる人だけでなく、子供や未来ある世代に希望を与える寄付も人気があります。大谷選手のグローブ寄付にはびっくりしましたが、MLBのスターとしては日常的な行為とも言えるのです。

すっかり寒くなってきましたが、今年も話題の尽きないオフで幸せですね。
すっかり寒くなってきましたが、今年も話題の尽きないオフで幸せですね。

しかし、約12億円という試算が本当であれば、その金額は大谷選手にとってどれくらいの価値を持つのでしょうか。中には、「たくさん年俸をもらっているから、財布は痛まない」という声もあるようです。

我が家では先日、自宅用のいいソファを買ったのですが、買うまでに吟味に吟味を重ねて、何度も店に足を運んでようやく決定したことを思い出しました。大出費だったけど、それがなかったら生活に困るほどの金額ではない。でも、もし私がそのソファと同じ金額を自主的に寄付できるかと考えたら、かなり悩んでしまいます。

そこでふと、大谷選手の約12億円(繰り返しますが推定です)の寄付という決断が、あらためてとてつもないことだと思ったんです。「野球は9人でやるんだから、グラブも9個寄付しろ」という、寒々しい意見もあったようですが、行動を起こしたこと自体をまず称えたいですよね(大谷選手なら、毎年3個ずつを3年間続けて寄付するたりするかもしれませんが)。

大谷選手の実に粋な行動ですが、メジャー1年目だったらできなかったかもしれません。渡米して7年、メジャーという水に慣れ親しんだからこそ、大きな決断ができたのでしょう。グラブ寄付という行為は、大谷選手が正真正銘のメジャーリーガーである証です。

ちなみに、アメリカの話ばかり続きましたが、日本のプロ野球でもチャリティーは盛んです。社会貢献を熱心に行なってきた選手に与えられる「ゴールデンスピリット賞」もあります。

2023年にそれを受賞した日本ハム宮西尚生投手は、救援陣が公式戦で挙げたセーブホールドポイントに応じて支援額を決める寄付活動を2015年に始め、個人ではなく、投手陣全体で継続的に支援する仕組みができたことが評価されました。我がヤクルトでは。2013年には宮本慎也さんが受賞されていますね。

巨人の菅野智之投手は、1勝につき10万円を日本介助犬協会に寄付しているそう。また、大腸がんから復活した阪神の原口文仁選手は、小児がんなどの医療ケア施設に寄付を行なっています。それ以外にも多くの選手がチャリティーに取り組んでいます。

自分の応援するチームの選手がどんな社会貢献活動をしているのか、球団にはもっと広くアナウンスしてほしいです。規模や金額に関係なく、その選手がどんな思いで活動しているかを知ったら、もっともっと好きになるはず。

これから先もプロ野球選手は、みんなが憧れる存在であってほしいです。それではまた。

★山本萩子(やまもと・しゅうこ)
1996年10月2日生まれ、神奈川県出身。フリーキャスター。野球好き一家に育ち、気がつけば野球フリークに。
2019年から5年間、『ワースポ×MLB』(NHK BS1)のキャスターを務めた。愛猫の名前はバレンティン

構成/キンマサタカ 撮影/栗山秀作

【写真】山本キャスターの最新フォトギャラリー

プロ野球選手の社会貢献について語った山本キャスター