会場は幕張メッセの4~8ホール。出展者はそれぞれ模型、映像、パネルなど展示方法を工夫しました(写真:鉄道チャンネル編集部)

鉄道の総合見本市「鉄道技術展2023」が2023年11月8~10日、千葉市美浜区の幕張メッセで開かれ、同時開催の第5回「橋りょう・トンネル技術展」もあわせ、2年前の前回を1万人ほど上回る3万4878人が来場しました。2010年の初回から数えて8回目で、618社・団体が出展。出展社数は過去最高、来場者数は2019年の前々回に続く2番目を記録しました。

初日のテープカットには斉藤鉄夫国土交通大臣(前列中央)も。「技術展が鉄道業界の変革を促すきっかけになれば……」などと期待を述べました(筆者撮影)

会場は今回も新機軸満載。日本と世界の鉄道界トップが顔をそろえる国際会議「レールリーダーズサミットinアジア」、大井川鐵道くま川鉄道といったローカル鉄道がブースを構える「地方鉄道応援プロジェクト」、鉄道友の会によるトークセッション「『鉄』の恩返し」など技術展の可能性を広げました。本コラムはセミナーのポイントと会場で見付けた〝気になるブース〟をご報告します。

ホームドアからホーム柵へ

技術展初日に開催されたのが、「レールリーダーズサミットinアジア」(日本鉄道技術協会〈JREA〉主催)。

基調講演のスピーカーは、国土交通省の岸谷克己大臣官房技術審議官とJR東日本の伊勢勝巳代表取締役副社長。鉄道行政で技術系トップの岸谷審議官は、現状の課題を①安全・安心、②防災、③生産性向上、④環境対策、⑤バリアフリーーーの5点に集約しました。 ピンチはチャンスの裏返し。各線で導入が進むホームドアは、世界に普及する可能性を持つ技術です。初期は工事前にホームの強化が必要でしたが、最近は軽量の可動式ホーム柵が開発されて拡大に弾みが付きます。

「HYBARI(ヒバリ)」が世界を飛ぶ!?

岸谷審議官、伊勢副社長がそろって将来性を認めたのが、JR東日本の水素ハイブリッド燃料電池試験車両「FV-E991系 HYBARI」。鉄道技術展に先行開催された「JAPAN MOBILITY SHOW 2023」で公開され、来場者の度肝を抜いたのは本サイトでも紹介された通りです。

もう一つ、JR東日本が力を入れるのが車上モニタリングによる線路保守管理。営業車両にセンサーやカメラを取り付けて、地上設備をチェックします。

モニタリングシステムは。自社の主要50線区に加え、東京メトロ(JR常磐線と相互直通運転する千代田線は導入済み。その他線区は順次拡大)、小田急電鉄東急電鉄にも拡大します。

海外トップも交えたディスカッションでは、「ビッグデータの活用をはじめとする各国共通の課題は、国や地域の壁を超えて取り組む必要がある」(パリ交通公団グループのアンリ・ポッティ最高経営責任者)など、日本の鉄道技術に期待する声が相次ぎました

ファンが鉄道業界に〝恩返し〟

ここから趣向を変えて、鉄道ファン目線の話題。今回、協賛団体に初めて加わったのが鉄道友の会です。企画セミナーのタイトルは「『鉄』の恩返し」。鉄道ファンによる業界への貢献策を考える狙いで、岩倉高校の大日方樹教諭、音楽館の向谷実社長、鉄道友の会の佐伯洋会長がスピーチしました。

「『鉄』の恩返し」で鉄道業界への貢献策を話し合う大日方岩倉高教諭(右)と向谷音楽館社長(左)(筆者撮影)

〝鉄道学校〟として知られる東京・上野の岩倉高。鉄道業界志望者が多く在籍する運輸科は生徒数約400人です。大日方教諭が実感するのは、鉄道会社のいわゆる現業職への志望者減。鉄道でやりたい仕事は、運転か営業(駅員、車掌)。岩倉高は鉄道インターンシップなどで、仕事のやりがいや魅力を伝え、人材育成に力を入れます。

国交省出身で、日本鉄道車輌工業会を経て2022年から友の会トップに就いた佐伯会長は、ブルーリボン賞・ローレル賞に代表される会の活動を披露。友の会は1953年の発足から2023年で70周年。創設時から任意団体として活動してきましたが、今後は法人化を検討。会員数の拡大にも取り組むそうです。

2021年に結成された、「かつしかバンド」のキーボードでも活躍する向谷さん。鉄道界の有名人で、駅メロや運転シミュレーターが鉄道会社に採用されます。鉄道人としての歩みは、本サイトでも取り上げています。ぜひご覧ください。

ピンク色の電車に苦情殺到?

3項目目は技術展2日目の「レイルウェイデザイナーズイブニング(RDE)」。メーカーや鉄道事業者に加え、デザイン事務所、フリーデザイナーの情報交換の場で、今回が10回目です。

テーマは「鉄道とブランディング」。新京成電鉄の相原栄取締役・車両電気部長、南海電気鉄道の渡辺幸代財務戦略グループブランド統括部長、相模鉄道の鈴木昭彦営業部長が各社のブランド戦略を発表しました。

デザイナーズイブニングのキービジュアル。左側に並ぶのが相鉄、南海、新京成のブランドイメージです(筆者撮影)

新京成が車両の基調色を、現在のジェントルピンクに変えたのは2014年です。ヤングファミリーを沿線に呼び込もうと頭をひねったのですが、当初は「朝から落ち着かない。元の色に戻して」のクレームも。

ところが、ある芸能人がテレビで「新京成の電車がかわいい」と発言して、苦情はピタリやんだとか。相原部長は、「発言はもちろん、当社がお願いしたのではありません」と笑顔で強調していました。

アパレルメーカーから鉄道のブランドデザイナーに

南海の渡辺部長は、アパレルメーカーから転身した異色のキャリア。南海は8300系電車と、泉北高速鉄道9300系電車で「2023年度グッドデザイン賞」を受賞しましたが、基本コンセプトは鉄道以外の若手社員も加わったプロジェクトチームで検討。「自宅リビングでのくつろぎ」をモチーフに、駅での乗客アンケートも反映させました。

相鉄・JR直通線相鉄・東急直通線東京都心にも顔を出すようになった相鉄電車のカラーは「ネイビーブルー」。相鉄は海岸部を走りませんが、「横浜=海」のイメージが強かったからです。

相鉄は、2016年にリニューアルした9000系電車がスコットランド製本革のクロスシートを採用。「以前の鉄道技術展でスコットランドブースを見付け、話を聞いて採用を決めた」のエピソードを語りました。

鉄道運転士の受験年齢引き下げ

最後に岸谷国交省審議官が明かした、国レベルで検討中のトピックス2題。鉄道運転士の資格「動力車操縦者運転免許」は年齢制限が現在20歳以上ですが、近く18歳以上に引き下げる方針。人材不足への対応が狙いで、運転士志望の高校生の方は要チェック。

もう一つは外国人材の受け入れ。既に建設分野ではスタートしていますが、鉄道業界にも拡大。こちらも人材確保が狙いです。

また、岩倉高の大日方教諭は「技術展の土曜日開催」を提案。会期が週末に延びれば、鉄道業界志望の高校生も足を運べます。本稿は以上、次回は会場で感じた「AI(人工知能)が変える鉄道業界」などをご報告します。ぜひご覧ください。

記事:上里夏生