『FINAL FANTASY VII』(以下、『FF7』)に登場する都市「ミッドガル」さながらの風景を、現実世界で楽しむクルージングイベント「MIDGAR Night Cruise FINAL FANTASY VII REMAKE」が、11月18、19日と25、26日に神奈川県川崎市で開催される。

参考:【画像】クルージングイベント「MIDGAR Night Cruise FINAL FANTASY VII REMAKE」

 近年広がりを見せる、ゲームとリアルを連動させる動き。なぜいま、そのようなムーブメントが盛り上がりつつあるのか。『FF7』と川崎市によるゲーム×リアル連動型イベントから、トレンドの背景を考えていく。

ミッドガルさながらの風景をクルーズ船から眺める「MIDGAR Night Cruise FINAL FANTASY VII REMAKE

 「MIDGAR Night Cruise FINAL FANTASY VII REMAKE」は、『FF7』および、リメイクプロジェクト第1作『FINAL FANTASY VII REMAKE』(以下、『FF7リメイク』)の開発・発売元であるスクウェア・エニックスが中心となって開催するもの。川崎市臨海部の工場夜景が、『FF7』に登場する都市「ミッドガル」の様子に似ていることから企画された、ゲーム×リアルの連動型イベントだ。参加者はクルーズ船に乗り込み、普段は体験できないであろう海の上からその景色を満喫できる。船内では、DJが『FF7リメイク』の楽曲をプレイするほか、作品の世界を表現した限定のコラボドリンクも販売されるという。

 川崎市は一帯の工場夜景を観光資源と位置づけ、広くアピールしている。イベントは、そうした同市の思惑と、リメイクプロジェクト第2作『FINAL FANTASY VII REBIRTH』の発売が間近に迫り、大々的にプロモーションを行いたいスクウェア・エニックス側の思惑が合致した結果、企画されたものだろう。川崎市は開催にあたり、コース設定における工場側との橋渡し役として協力したという。PRポスターには、スクウェア・エニックスの担当者が見どころとする「旭化成川崎製造所」の様子が用いられた。

 価格は、クルーズ乗船券のみが税込11,000円、クルーズ乗船券+ホテル宿泊券のセットが税込28,000円(ともに予定数が完売)。前者には、神羅カンパニーノートや、ガイド資料、神羅カンパニー封筒が、後者にはそれらのほか、御旅印とシークレット特典が付属する。

■ゲームとリアルの連動が地域振興の入り口に

 ゲームの分野では近年、舞台となるロケーションを現実世界と連動させる動きが広がっている。『FF7』クルージングイベントの開催が神奈川県の地域振興につながっていると紹介した産経新聞の記事には、「龍が如く」シリーズや『信長の野望 出陣』の名前も挙げられていた。前者では、2020年発売のナンバリング第7作『龍が如く7 光と闇の行方』などで横浜市が舞台に、後者では、小田原市にある小田原城が特定のゲーム内キャラクターを手に入れられるスポットとなった。執筆した高木克聡氏は、「スマートフォンの位置情報を使って外出しながら遊ぶゲームが増えた」ことが一因と分析する。今後はこうした遊びの多様化が街を活性化させていく可能性があるという。

 同氏の言葉にあるように、紹介した『FF7』と川崎市によるゲーム×リアルの連動は、双方にメリットのある事例となっている。すでにチケットが完売していることもあり、問題なくイベントが終了すれば、第2回の開催にもつながっていくのではないだろうか。

 また、上記以外の直近の例では、『パラノマサイト FILE23 本所七不思議』(以下、『パラノマサイト』)もリアルイベントを通じて地域の振興を助けている。同タイトルでは、2023年3月の発売以降、数度にわたり、舞台となった墨田区内で大小さまざまなイベントを開催。区や観光協会との協力によって成立したものも少なくなく、利害関係を超越した関係者同士のつながりが見える取り組みとなっている。

 2023年9月には、「日本ゲーム大賞2023」年間作品部門で優秀賞候補に選出されたことを受け、墨田区の山本亨区長が「(ゲームの)舞台となった地には区外からも多くの方に訪れていただき、盛り上がりを感じています」とコメント。受賞が決定した際には、「墨田に来られる前と来られた後でゲームも違った楽しみ方ができるかもしれませんね。ゆかりのスポットをはじめ、墨田にはたくさんの魅力があります」と、ゲーム文化を通じた訪区に期待感を見せていた。ビジネス領域でもスポットが当てられやすい地域振興の分野。昨今、ゲームカルチャーはその入口のひとつとなっている現状がある。

■なぜいま、ゲームとリアルの連動が広がっているのか

 なぜいま、ゲームとリアルの連動が広がっているのか。かねてからマンガや小説、ドラマ、映画、アニメといったゲームと距離の近い分野では、そのような動きが“聖地巡礼”の文化として受け入れられてきた。その観点に立つと、ゲームカルチャーにおいて、リアルとの連動がこれまで積極的に行われてこなかったことの方が特異的であったとも言えるだろう。背景には、少なくないタイトルが現実世界と明確な違いを持つファンタジーの世界を舞台としてきた影響があると考える。長らく同文化を牽引してきた日本で、古くから人気を獲得しているタイトル/シリーズを振り返ると、リアルとの結びつきが認められるものは、ごく一部であることがわかるはずだ。

 紹介した『FF7』が属する「FINAL FANTASY」シリーズもまた、同文化を代表する作品群でありながら、その例に漏れることがない。おなじくRPGで挙げるならば、「ドラゴンクエスト」シリーズもまた、その範疇に収まる作品群だろう。ほかのジャンルであれば、「スーパーマリオ」シリーズなども例外ではない。ゲームカルチャーは本来、(リアルの類義語としての)ノンフィクションではなく、フィクションと距離の近い文化であった。

 では、近年になり、ゲームとリアルの連動が広がっているのは、どのような経緯があってのことなのか。そこには、ゲームカルチャーにおける映像技術の発達が関係しているように思う。

 かつて「現実に似せて作られた、現実とはほど遠いもの」という領域にとどまっていたゲームにおける映像表現は、草創期から二次関数的に発達し、直近では、現実と見紛うような作品も現れるようになった。『FF7』のミッドガルの様子と、川崎市の工場夜景がつながったのも、リメイクプロジェクト第1作として発売された『FINAL FANTASY VII REMAKE』に、より精細な映像表現が盛り込まれたからこそだろう。1997年発売のオリジナル版におけるグラフィックでは、そのような結びつきは生まれなかったはずだ。

 そうした技術的発展は、ゲームに創作の多様化をもたらしている。「現実の延長としてのゲーム体験であれば、現実に即したロケーションで」という新たな選択肢が生まれつつあるのだ。紹介した「龍が如く」シリーズや『パラノマサイト』は、この最たる例と言える。従来なら技術的に「ファンタジーをベースにしたフィクション」としてしか描けなかったものが、「現実と結びつきの強いフィクション」として描けるようになり、結果、ゲームとリアルにつながりが見出されているのではないか。

 「FINAL FANTASY」や「ドラゴンクエスト」が分類されるRPGの分野では、「ペルソナ」シリーズのナンバリング第5作『ペルソナ5』において、東京都内のさまざまな街の様子が現実さながらに再現されている。ゲームというバーチャルな世界で、リアリティのある表現を目指すにあたっては、「現実にありそうなどこか」よりも、「実際にある場所(の精細な再現)」をロケーションとするほうが都合がよいのだろう。「没入感」というキーワードに焦点が当たり続けるかぎりには、こうした傾向が続いていくに違いない。

 映像技術の発達がもたらした、ゲームとリアルを連動させるムーブメントの広がり。今後は、特に関係性の深いアドベンチャーゲーム、ノベルゲームのジャンルなどから、他分野にあるような“聖地巡礼”の文化が拡大していくと推測する。ともすると、一部ファンによる迷惑行動などが問題視されやすい同文化だが、そこには地域振興というポジティブな影響も存在している。ことゲームカルチャーにおいては、デメリットよりもメリットが大きく語られるような展開を望みたい。

(文=結木千尋)

“ゲームとリアルの連動”トレンド化の背景は?