2024年からスタートする新NISA制度。「具体的に何に投資をすればよいか」「つみたて投資枠と成長投資枠をどう使い分けたらよいか」という迷いを抱く人たちも多いかと思います。そこで、フィデリティ・インスティテュート主席研究員でマクロストラテジストの重見吉徳氏が、日本の個人投資家に顕著な5つの思考パターンに基づき、それぞれと相性のよい投資の方法を解説します。

日本の個人投資家は大きく5つのタイプに分けられる

筆者は、現時点における日本の個人投資家は、大きく分けて5つのタイプに分けられると考えています。

みなさまはどのタイプでしょうか?

A.株式市場全体は「長期右肩上がり」だと考える人……熟知かつ心配無用

B.(株価は「長期右肩上がり」だと思うが)しばらく株価は下がると考える人……熟知かつ懐疑的

C.株式市場全体では上がりにくく、生き残る企業や産業の選別が進むと考える人……熟知・懐疑的(株式市場全体では上がりにくいが、なかには成長する企業や産業はあるだろうと考える人) 

D.どの企業の株価も、もはや上がらない・横ばいだと思う人 or 下落が怖い人 ……熟知かつ懐疑的

​E.「株高よりインフレでは?」。政府債務・労働力不足・温暖化対策・米中対立・ウイルスなど……達観

みなさんは「タイプA」から「タイプE」のどれに最も近いでしょうでしょうか(いずれにも近くなかったら申し訳ありません)。

そして、以下は上記の5つのタイプの方がそれぞれ「なぜ、そう考えるのか」を例示したものです。

たとえば、どんな理由でそう考えるか?

A.株式市場全体は「長期右肩上がり」だと考える人……熟知かつ心配無用 ⇒(おもて) 世界経済は成長する。 人口は増える。 人間の知識は減ることはなく、増える一方。 ⇒(うら) 企業は賃金を抑制してでも利益を増やす。 企業は自社株買いで、 株の流通量を減らす。

B.(株価は 「長期右肩上がり」だと思うが)しばらく株価は下がると考える人……熟知かつ懐疑的 ⇒景気循環をとらえたい。「利上げした後は景気後退だ」

C.株式市場全体では上がりにくく、生き残る企業や産業の選別が進むと考える人……熟知・懐疑的 (株式市場全体では上がりにくいが、なかには成長する企業や産業はあるだろうと考える人⇒イノベーションによって成長産業と衰退産業が生まれる。 or 経済にはブームと破裂がある。

D.どの企業の株価も、もはや上がらない・横ばいだと思う人 or 下落が怖い人……熟知かつ懐疑的 ⇒独占や寡占が進んで競争が減り、 アニマルスピリッツが失われる。 or 引き締め・悲観が永続?

E.「株高よりインフレでは?」。政府債務・労働力不足・温暖化対策・米中対立・ウイルスなど……達観  ⇒人間の歴史はインフレの歴史だ。 政治家はいつもインフレを選択する。

5つのタイプの投資家…「相性のよい投資先」の傾向とは?

以下、ひとつずつ補足を加えます。

まず、【一番上】の「タイプA」は「株式市場は長期右肩上がりだと考える方」です。このタイプは、資産運用についてほとんどなんの疑問も懸念もないでしょうから、そのまま継続できるでしょう。

サポートが必要になるのは、「タイプB」以降の個人投資家です。

その【上から2番目】の「タイプB」は「(株価は「長期右肩上がり」だと思うが)しばらく株価は下がると考える人」です。

日ごろ、新聞やテレビ、あるいは自社や取引先からの情報収集に積極的で、それらをもとに景気循環について考えられて、「せっかく新NISAも始まるので自分も資産運用を始めたいが、今じゃないんじゃないか」と思う人です。

次の【真ん中、3つ目】の「タイプC」は「株式市場全体では上がりにくく、生き残る企業や産業の選別が進むと考える人」、言い換えれば「株式市場全体では上がりにくいが、なかには成長する企業や産業はあるだろうと考える人」です。

現在でいえば、情報技術セクターや『GAFAM』、人工知能(AI)などが該当するかもしれません。かつても、資源や金融、ヘルスケアなど、時代によって成長が著しかったり注目されたりする産業や企業は異なりました。

そして、【上から4つ目】の「タイプD」は、D-①「どの企業の株価も、もはや上がらない・横ばいだと思う人」あるいは、D-②「(とにかく)下落が怖い人」です。

D-①の「どの企業の株価も、もはや上がらない・横ばいと思う人」は、株式の配当利回りよりも、(ドル建てなど海外の)国債や社債の利回りのほうが高いわけですから、それらに分散投資をすることが一案です。

D-②の「下落が怖い人」も国債や社債に分散投資することができます。

損失は「熱狂のときに買って、悲観や平時のときに売る」ことで生じます。積み立て投資をすれば、熱狂・悲観にかかわらず、いつも買うわけですから、(金融市場がファンダメンタルズに平均回帰するかぎり)ファンダメンタルズに近い水準で買うことができます。結果的に、熱狂や悲観を購入価格から排除することができるのです。

最後、5つ目の「タイプE」は「株高よりもインフレが気になる人」です。

このなかには、「インフレの分だけ資産が増えればよい」という人もいるでしょうし、「株式のことはわからない・興味がないものの、とにかくインフレの予感がする」という人もいるでしょう。

新NISAのポイントは、「成長投資枠」を使うこと

もし、日本の個人投資家がこのとおり、「タイプA」から「タイプE」の5つに分かれるとすれば、それぞれに納得できる考えがあるように筆者は感じます。とくに、「タイプB」から「タイプE」までの4タイプの方の「悩みは深い」でしょう。

こういうと、「タイプA」の人たちから、「なにも考えずに積み立てをするのが一番」と言われるかもしれません。しかし、多くの人は、頭では「資産運用は重要」「資産運用を始めないと」と思っていても、なかなか行動に移せないものです。

そこで、「タイプB」から「タイプE」までの4タイプの方向けに「私ならこうする」ということ、すなわち、ソリューションの一案の概要を示します。  

ポイントは、成長投資枠を活用して、積み立て投資を行うこと

A.株式市場全体は「長期右肩上がり」だと考える人

⇒株式ファンドでつみたて(つみたて投資枠、 成長投資枠

B.(株価は 「長期右肩上がり」だと思うが)しばらく株価は下がると考える人

⇒株式ファンド/株式のアクティブ・ファンドでつみたて(つみたて投資枠、 成長投資

C.株式市場全体では上がりにくく、生き残る企業や産業の選別が進むと考える人 (株式市場全体では上がりにくいが、なかには成長する企業や産業はあるだろうと考える人

⇒株式のアクティブ・ファンドでつみたて成長投資枠

D.どの企業の株価も、もはや上がらない ・ 横ばいだと思う人 or 下落が怖い人 

⇒利息狙いの債券ファンドでつみたて(おもに成長投資枠)

E.「株高よりインフレでは?」。 政府債務・労働力不足・温暖化対策・米中村立・ウイルスなど 

⇒商品や不動産・リートなどの実物資産でつみたて(おもに成長投資枠)

大事なポイントは2つです。

1.『成長投資枠』*を活用する。

*補足すると、新NISAには『つみたて投資枠』と『成長投資枠』の2つの枠があります。とくに「タイプB」の一部や「タイプC」の方向けのアクティブ・ファンド、『タイプD』の方向けの債券ファンド、『タイプE』の方向けの実物資産に投資をするファンドは、おもに『成長投資枠』のなかに含まれます。

2.(『成長投資枠』でも)「積み立て投資」を行う。

もっと先走っていえば、「この5つすべてに備えた分散投資を行えば、おそらく今後、どのような局面が来ても対応できる」ように思えます。

タイプAからタイプEまでのすべてに20%ずつ分散投資を行う、それが「筆者の答え」です。

重見 吉徳

フィデリティ・インスティテュー

首席研究員/マクロストラテジスト

(※写真はイメージです/PIXTA)