古くからよく「がん保険」のCMがテレビで流れていますが、がん保険はわかりにくく、契約内容によっては十分な保険金を受け取れないことがあります。保障内容が保険会社によって異なるのはもちろん、「加入した時期」によっても大きな違いがあります。そこで、本記事では、がん保険が必要かどうか考える際のポイントと、現在の公的医療保険制度とがん治療の現状にマッチしたがん保険の選び方について解説します。

がんになっても自己負担が抑えられる「公的医療保険制度」

まず、前提としてそもそもがん保険がどういう場合に役立つ保険なのか、説明します。がん保険だけでなく、民間の保険会社が販売している保険は、公的医療保険制度等の社会保障制度で賄いきれないお金をカバーするためのものです。

というのも、日本の公的医療保険制度は、医療費の負担が過大にならないしくみになっています。

すなわち、まず、医療費の自己負担額は原則として3割に限られています(70歳~74歳は原則2割、75歳以降は原則1割)。

また、それ加え、月ごとの自己負担額の上限を設ける「高額療養費制度」があります。高額療養費制度の自己負担額の上限は年齢・所得によって決まっています。たとえば報酬月額が「27万円~51万5,000円未満」の人であれば、自己負担額は、以下の通りです。

80,100円+(医療費-26万7,000円)×1%

もしも1ヵ月間の治療費が合計100万円だった場合、「3割負担」で計算上の自己負担は30万円ですが、高額療養費制度を利用すれば、自己負担額は以下のように8万7,430円で済みます。

80,100円+(100万円-26万7,000円)×1%=8万7,430円

なお、入院中の食事代の自己負担額や、自分の意思で個室に入院したときにかかる差額ベッド代等は、高額療養費制度の対象外です。

がんになったら公的制度で賄いきれない「2つの場合」

このように、日本の公的医療保険制度は充実していますが、それでもカバーしきれないケースはあります。主に以下の2つです。

1. 治療が長引き、月々の負担がかさんでいくケース

2. 治療費の全部または一部が公的医療保険制度の対象外のケース

がんについては、これらにあてはまるリスクが他の疾病よりも比較的高いといえます。どういうことか、それぞれについて説明します。

◆治療が長引き、月々の負担がかさんでいくケース

がんにかかると、治療期間が長期にわたることがあります。たとえば、がんを手術で切除しきれず継続的に抗がん剤治療を受ける場合や、がんが転移した場合等です。

月々の自己負担額が抑えられたとしても、治療が何ヵ月、何年と長引けば、それだけ治療費の負担がかさんでいくことになります。

◆治療費の全部または一部が公的医療保険制度の対象外のケース

公的医療保険制度の対象外である「自由診療」や、技術料が自己負担になる「先進医療」を受ける場合、数百万円、場合によっては千万円単位の額を自己負担しなければならないことがあります。

たとえば、自分のがんに効く抗がん剤が、欧米で承認されているものの、日本国内で未認可だということがあります。その抗がん剤による治療は公的医療保険の対象外であり、「自由診療」となります。治療費が著しく高額になることが多く、その額を支払えないために治療を諦めざるをえなくなる可能性が考えられます。

がん保険の有益な保障とは?

このように、がんにかかった場合、公的医療保険制度ではカバーしきれなくなるリスクが想定されるので、それを補うために「がん保険」に加入することが考えられます。

保険の営業マンやファイナンシャルプランナーでも、医療保険は不要だが、がん保険は入っておいた方がいいという意見をもつ人はかなり多いのです。

がん保険で有益なものとされる保障内容は、おおむね以下の4種類です。

1. 抗がん剤放射線治療を受けたらその都度「治療給付金」を受け取れる

2. 未認可の抗がん剤の治療を受けたら「自由診療抗がん剤給付金」を受け取れる

3. 先進医療を受けたらまとまった額の「先進医療給付金」等を受け取れる

4. がんと診断されたら「診断給付金」を受け取れる

以下、それぞれについて解説します。

◆保障1|抗がん剤放射線治療等を受けたら受給できる「治療給付金

まず、「治療給付金」の保障は、抗がん剤放射線治療を受けた場合に、そのつど「10万円」等の一定額を受け取れるものです(厳密には「月1回まで」という制限があります)。

治療が長期化した場合でも、そのつど治療費がカバーされるので、合理的です。また、保険料は比較的割安に設定されています。

ただし、対象となる治療は基本的に公的医療保険の対象となる保険診療に限られているので、このあとに紹介する「自由診療抗がん剤給付金」「先進医療給付金」等との併用をおすすめします。

◆保障2|未認可の抗がん剤の治療を受けたら受給できる「自由診療抗がん剤給付金

次に、「自由診療抗がん剤給付金」の保障です。昨今のがんの治療では、「がんゲノム医療」「がん遺伝子検査」等、患者一人ひとりの「遺伝子」に着目して、最適な抗がん剤を選んで使用することが行われるようになってきています。

もし、自分に最適な抗がん剤が国内で承認されていなかった場合、「自由診療」として治療費の全額を自己負担しなければなりません。

「自由診療抗がん剤給付金」は、そのような場合に治療費をカバーしてくれるものです。給付金額は、前述した「治療給付金」の「2倍」「4倍」と設定されているものや、無制限になっているものがあります。保険料はそれほど高額ではありません。

◆保障3|先進医療を受けた場合の「先進医療給付金」の保障

先進医療とは、保険診療と自由診療の中間的な位置づけの治療であり、「技術料」のみが自己負担になります。

がんの先進医療として「陽子線治療」「重粒子線治療」を受ける場合、いずれも「技術料」が数百万円かかります。もし「先進医療給付金」の保障があれば、技術料の実費がカバーされます。また、これらの治療は全国でも限られた医療機関でしか受けられないので、自分自身や家族の旅費等がかかることがあります。そこで、保険会社によっては、それらの費用もカバーしてもらえるところがあります。

◆保障4|がんと診断された場合の「診断給付金

最後に紹介するのは、がんと診断されたら「診断給付金」を一時金として受け取る保障です。給付金の使い道は決まっていないので、どのような治療費に充てることもできるし、生活費や旅行費用にも使えます。

もちろん、自由診療を受ける場合の費用に充てることもできます。

ただし、この保障は保険料が割高です。また、他の保障によってある程度カバーできるので、優先順位は低いかもしれません。

10年以上前に入ったがん保険は「役に立たない」おそれ

以上が、最近のがん保険の主な保障内容です。これに対し、古いタイプのがん保険だと、現状のがん治療にマッチしていない可能性があります。

昔のがん保険は「入院給付金」「手術給付金」の保障が主流でした。「入院1日1万円」「手術1回50万円」といった保障です。なぜなら、がんにかかったら長期間入院して手術を受けるのが当たり前だったからです。

しかし、今日は入院・手術は必須ではなくなってきています。たとえば、抗がん剤治療を受ける場合、通院だけであったり、入院するとしても抗がん剤の投与を受ける日の前後のみで済ませたりします。そのような場合、昔のがん保険だと、必要な保障が備わっていないことがあります。よく、「がん保険に入っていたけどあんまり役に立たなかった」という話を聞くのは、このパターンです。

特に、10年以上前に入ったがん保険は、現在のがん治療に対応していない可能性があるので、見直してみることをおすすめします。

がんになった場合、治療が長引いたり、自由診療を受けたりすることになれば、その費用を公的医療保険制度だけでは賄いきれないおそれがあります。がん保険は、本記事で紹介した4つの保障を軸に組めば、公的医療保険制度の不足をうまく補ってくれる可能性が高いものであるといえます。

(※写真はイメージです/PIXTA)