一時期「老後2,000万円問題」が話題になりましたが、実は、65歳以降、貯蓄が2,000万円あっても足りない可能性があります。インフレが進み、金利上昇が物価上昇にまったく追いついておらず、銀行に預けているお金は目減りする一方……どうすればいいのでしょうか。CFP藤川太氏が監修した『60歳からの得する! NISA大改正』(ART NEXT)から一部抜粋して紹介します。

預貯金だけだと資産寿命が縮む…「インフレ」の恐ろしさ

最近は、国債や1年以上の定期預金、長期固定型の住宅ローン金利に影響する「長期金利」が上昇していることが話題となっています。しかし、この金利上昇以上に、世の中の物の値段、つまり物価が上昇しています。

今や日本の経済は、「デフレモード」から「インフレモード」へとシフトしているのです。

そして、金利上昇は物価にまったく追いついていません。これは、現役世代以上にシニア世代にとって深刻な状況です。なぜなら、このままインフレが加速すれば、銀行に預けているお金は実質目減りする一方です([図表1][図表2]参照)。また、現役世代は今後、賃金の上昇が想定されますが、65歳以上がもらう年金は賃金や物価ほど上がらないしくみが導入されています。

多くの人が長生きする世の中で、「老後資金が枯渇するかもしれない」という不安を誰しも感じているでしょう。そこで、この先、資産の目減りを防ぎ、できるだけ長持ちさせるには、物価上昇率を上回る利回りで資産を運用する必要があります。

それには、60代以降も預貯金だけに頼らず、「投資」をするという選択肢も検討しなければなりません。

「老後資金2,000万円」預貯金だけで保有すると16年で枯渇?

仕事をリタイアし、年金だけで暮らすようになれば、頼りは今まで蓄えてきた資産が虎の子です。自分が準備してきた老後資金が十分か否かは、寿命によって左右されます。想定以上に長生きすれば老後資金が不足してしまいますが、「いつまで生きるか」は誰にもわかりません。

令和4年(2022年)の「簡易生命表」によれば、男性の平均寿命は81.05歳、女性は87.09歳です。また、65歳時点の平均余命を見てみると、男性は19.44歳、女性は24.30歳です。仮に2,000万円の老後資金があったとして、その資産はいつまでもつと思いますか?

[図表3]をご覧ください。これは、2,000万円を毎月10万円取り崩した場合のシミュレーションです。まったく運用せずに取り崩しをすれば、約16年で資金が底をついてしまいます。

資産寿命が16年しかないということは、仮に65歳から取り崩した場合、平均余命分も資金が持たない可能性が高くなります。

運用次第で資産寿命が延びる

そこで、次に、運用した場合を見てみましょう。グラフでは、資産を「先進国の債券約5割」と「先進国の株式約5割」で運用したケースで比較しています。この場合、過去の実績によればリターンは年約6%で、50%の確率で47年11ヵ月まで資産寿命が延びる計算になります。

もちろん、市場の変化によって資産寿命は長くなることも短くなることも想定されます。しかし、90%の確率で31年3ヵ月まで資産がもつ可能性があり、運用しなかった場合と比較すれば、資産寿命を約2倍に延ばす可能性が期待できます。このように、運用する・しないで資産寿命は大きく変化するのです。

藤川 太

ファイナンシャルプランナー

CFP認定者

生活デザイン株式会社 代表取締役