芸能人など有名人が「年の差婚」をして話題となることがありますが、年の差婚の夫婦の場合、特に老後の資金計画は入念に練る必要があります。本記事ではAさんの事例とともに、年の差婚の厳しい現実について、長岡FP事務所代表の長岡理知氏が解説します。

17歳年下妻と再婚した大手メーカーの営業マン

<事例>

夫Aさん 56歳 会社員 年収1,020万円

妻Cさん 39歳 専業主婦

長男 10歳

貯蓄 400万円

前妻との子 30歳

夫のAさんは元会社員です。大学を卒業後、大手メーカーに就職し営業畑を歩んできました。25歳のときに同じ職場の同じ年齢の女性と結婚。子供を1人もうけました。しかし、Aさんが31歳のとき、Aさんの度重なる不貞行為が発覚し離婚することに。

会社で昇進が早かったAさんは同期の中でも年収が比較的高く、派手好きで社交的という性格もあって社内でもいつも浮名を流すような人でした。女性トラブルも少なくありません。最初の離婚で結婚には向かないとわかったなどとうそぶき、自由気ままな独身生活を謳歌していたのです。海外勤務も経験して年収は36歳で700万円となりました。

そんなころに出会ったのが妻のCさんでした。年齢はAさんよりも17歳年下の19歳。高校を卒業したばかりのCさんは無職で実家暮らしでした。出会ったのは当時流行しはじめていた「出会い系サイト」でした。

未成年者であったCさんに対して、36歳のAさんはすっかり夢中に。周囲からの目線を気にすることなく、19歳のCさんとのお付き合いを公言しては、友人や同僚から「大丈夫なのか」と心配される状態でした。

しかし周囲の心配をよそに、AさんとCさんは出会って半年で結婚することに。養育費を支払っている期間でもあったことから、前妻に再婚することと相手の年齢を伝えたところこういわれました。

「正気なの? 相変わらず気持ち悪いね、あなた」

失礼過ぎるだろ、と憤慨するAさんでしたが、前妻は続けます。

17歳も年の差があると、老後はどうやって食べていくの。奥さんは年収の高い仕事をしているの?」

「専業主婦になるつもりだけど」

前妻は呆れていいます。

無計画すぎて笑っちゃうわ。養育費は遅れずに払ってもらいますから」

前妻に笑われてしまったAさんでしたが、一応家計のことを計算していました。

「60歳の定年退職までまだ24年もあるから貯金をすれば老後は大丈夫。退職金もあるだろう。オレはまだそんなジジイじゃない、大丈夫だ」

そう自分にいい聞かせました。Aさんは目の前の幸せを逃すまいと、それ以上のことは想像できなかったため、貯金をすれば済むのだと考えていたのです。

まだ幼く社会性が未熟な妻に不安を覚える夫

結婚後、妻のCさんは予定どおり専業主婦に。夫のAさんが39歳、妻のCさんが22歳のときに5,000万円の住宅ローンを借りてマイホームの購入を検討しました。ハウスメーカーの営業マンは年の差の夫婦に少し驚いた様子でしたが、妻のCさんにこういったのです。

「奥様はいま専業主婦とのことですが、いずれ働く予定はありますか?」

妻のCさんはぶっきらぼうにいいます。

「ありません。子供も作りたいので。働かなきゃダメなんですか」

営業マンの表情が曇ります。年の差からライフプランが成立しないのではと思っているようでした。営業マンはFPを紹介できますよと進言してくれましたが、妻のCさんはそれに対してもぶっきらぼうに答えます。

「そんな怪しいものは要りません」

そういうと、営業マンはもうなにもいいませんでした。「ちょっと幼いな……」と夫のAさんも思いましたが、そのまま住宅を契約。35年返済で、完済時のAさんの年齢は75歳です。

家も完成し、無事転居したAさん夫婦。前妻が心配するほどのこともなく、平穏で幸せな日々を送っていました。しかし、それから少し経ったころ、生活は不穏になっていきます。

発覚する妻の不貞行為と貯金の使い込み

夫のAさんがある日、貯蓄用の預金通帳を記帳してみると、1,000万円ほどあった残高が600万円にまで少なくなっているのです。前妻との子供にクリスマスプレゼントとしてパソコンを買ってあげようとした矢先でした。

それに合わせて、妻のCさんが外泊をすることが増えたのです。お金はどうしたのか、外で泊まり歩くのはなぜなのかを訊いてもはぐらかすばかり。

みっともないと思いながらも、仕事に行くふりをして妻を尾行してみると、その理由が簡単にわかりました。Cさんは浮気していたのです。相手は妻と同じ歳、22歳の大学生で、遊ぶお金は妻が出していたようでした。

結婚したばかりのころは妻のCさんは人生経験が乏しい19歳。年齢とともに交際範囲が広がり、遊びたい願望が大きくなっていたようです。Aさんは妻を許しますが、以降も妻の不貞行為は繰り返されます。もはや夫婦の形をなしていないのですが、Aさんは許し続けます。

妻が浪費を続けるなかでも、前妻との子供の養育費、学費、住宅ローンの返済をこなしていかなければなりませんでした。妻の浮気癖は、妻が29歳で出産するまで7年間も続きました。そのときAさんはすでに46歳。貯蓄は底をつきました。これからさらに新しい子供の養育にお金がかかっていきます。

老後のために貯金をしなければならないと思っていたはずなのに、最初の10年間で貯められないどころか貯金を失ってしまいました。

56歳でFPに初めて相談してみることに

46歳からの10年間で夫のAさんが貯められたお金は400万円。51歳のときにAさんの母親が亡くなったときのわずかな死亡保険金200万円を含めての額なので、実際には200万円しか貯められていません。

子供はまだ10歳です。定年退職は65歳に延長しましたが、あと9年しかありません。現在の年収は1,020万円です。役職定年をして年収が少し下がったし、父親の介護にもお金がかかっている。自分の老後はどうなるのか不安という気持ちでいっぱいです。

FPの答えは厳しいものでした。

「あと、10年と少しくらいですかね……Aさんが67歳になるときには家計が完全に破綻します」

Aさん世帯の家計の特徴は次のようなものです。

・Aさんの定年退職後、収入はAさんの老齢年金だけになる

・老齢年金は342万円の予想(老齢基礎年金75.5万円、老齢厚生年金204万円、加給年金62.6万円)

・妻が無収入

・住宅ローン返済(毎年193万円)が75歳まで続く

・妻が老齢年金を受給するときに夫は82歳

・妻の老後は夫の介護からスタートする

・Aさん亡きあとは前妻との子供が相続の遺留分を主張する

Aさんは絶望的な気持ちになりました。再婚するときに前妻が「無計画過ぎて笑っちゃうわ」と言った言葉を思い出しました。決して無計画ではなかったけれど、想定外のことが起きたせいだと、少し妻Cさんの顔が思い浮かびました。

Aさんがこれからどうすればいいのか質問しました。FPからの答えはこうです。

・妻がフルタイムで就職すること(必須)

・Aさんは定年退職後もアルバイトをするか、可能であれば再就職をすること

生命保険に加入し子供の生活を守ること

生命保険を使って前妻との子の遺留分相当額を用意すること

・効果は高くないが、支出の引き締めをすること

「病気があって保険には入れないし、自分が働くしかできることが無さそうです……。いっそのこと、離婚したほうが楽なのかもしれませんね……」

Aさんはそういって嘆きました。年の差婚には夫婦が協力して乗り越えるハードルが多いため、歩み寄れない夫婦関係では破綻を招くだけというのが現実なのです。

年の差婚の厳しい現実

年の差婚をした人達が、その後ライフプランに問題がなく生活していけるかどうかは世帯年収がどのくらいあるか、その年収がどのくらい続くか、こうした点が命運を左右するでしょう。

しかし現実にはお金だけではありません。事例では18歳の年の差があるケースですが、25歳、30歳という年の差の夫婦も存在します。また、妻が年上のケースもあります。

年の差から考え方や感性の世代ギャップもあるでしょう。人生経験に差があることで物事の受け止め方の成熟度も異なってきます。出産にも影響があることはいうまでもないでしょう。その年齢以外の「違い」が夫婦関係の破綻に繋がる確率はどれほどあるのでしょうか。

アトランタにあるエモリー大学経済学部の教授、アンドルーフランシス氏とユーゴ・ミアロン氏が3,000人を対象に実施した調査(‘A Diamond is Forever’ and Other Fairy Tales:The Relationship between Wedding Expensesand Marriage Duration)をもとに、ミシガン大学のデータサイエンティストであるランダル・S・オルソン博士が分析し、結果を2014年11月7日に発表しています。

それによると、夫婦の年齢が1歳違えば、同年齢の夫婦と比べて離婚率が3%上昇し、年齢差が5歳になると18%、10歳差では39%、20歳差では95%、30歳差では172%高くなると推測しています。

オルソン博士は「パートナーの親になるほどの年齢である場合、結婚生活に問題が生じる可能性があります」と述べています。その確率の数字は推測であるため横に置くとしても、年齢差の拡大と離婚率の増加は有意な相関関係があるとされます。

年の差婚の場合に意識しておくべきこと

ここではあくまでもお金に関わることに限定してお話をします。年の差婚(ここでは10歳以上の年齢差を指します)を検討しているとき、老後破綻を防ぐために意識すべきことにはなにがあるでしょうか。

世帯年収の継続性を確認する

年の差婚の経済的な問題は、年上のパートナーがリタイアしたときに顕在化します。年上のパートナーの収入が公的年金だけになったときに、一方のパートナーがまだ就労し収入がある状態でなければなりません。収入が安定して継続できなければ、老後の生活は一気に苦しくなります。

老後に貯蓄が必要

年上のパートナーがリタイアしたときに、公的年金と一方のパートナーの収入だけでは生活が困難である場合、金融資産を取り崩す必要があります。リタイア時期までにいくら貯蓄しておくべきかはFPに相談すると計算してもらえます。

目標を達成するためにつみたてNISAなどを取り入れるべきかは検討する事項のひとつですが、無理な投資によって「自動車が現金で買えない」となっては本末転倒です。また取れるリスクの限界も各家庭で異なります。金融業者の勧誘を鵜呑みにせず、資産運用の精密なプランニングが必要です。

子供の計画は慎重に

特に妻が大きく年上の場合は、出産を急ぐケースがあります。しかしお金の面から考えて無理がないか冷静に判断すべきです。女性が年上の場合の年の差婚であっても、上記のように収入の継続性が大切です。

「出産したから退職して子育てに専念する」ということは難しいかもしれません。また、退職時に子供が何歳なのかによっては、子供をもうけない判断も必要になります。現代の日本社会では、教育費は住宅購入に次ぐ重い負担となっています。

住宅ローンは定年退職までに完済する

上記のことと関連しますが、年上のパートナーがリタイアしたときに住宅ローンの残債があると、家計の収支が悪化してしまいます。どちらかのパートナーが既に自宅を購入済みでない限り、あらたな借入時には慎重に返済計画を練るべきでしょう。

年上のパートナーの介護は避けられない

18歳差の場合、年上のパートナーが80歳になったとき、一方のパートナーはまだ62歳です。職業によっては定年退職をしていない年齢で、配偶者の介護を担うのは現実的でしょうか。もしかしたら、年下のパートナーは自分の親の介護も必要になっているかもしれません。体力的にも時間的にも相当な苦労をすることが想像できます。

※本記事は、FPの長岡理知氏のもとへ実際に相談のあった出来事をベースにしたものですが、登場人物や設定などはプライバシーの観点から変更している部分があります。また、実際の家計相談の現場では、論点が複雑に入り組むことが多々あり、すべての脈絡を盛り込むことは話の流れがわかりにくくなります。このため、現実に起こった出来事のなかで、見落とされた論点に焦点を当てて一部脚色を加えて記事化しています。

長岡 理知

長岡FP事務所

代表FP

(※写真はイメージです/PIXTA)