現在のVTuberシーンにおけるトップランナーの一つであるにじさんじ。そのなかにおいてもタレントの活躍する分野は日々拡がっている。

 メインとなる生配信に加え、事務所が主導する企画への参加や監修、主に一人ひとりのライバーが主導となって進む歌ってみたなどの動画のほか、ここ数年ほどはエンターテインメントのフィールドでアーティストとして日の目を見る者も増加してきた。

【動画】11月23日に開催される『EX Gamers 5th Anniversary Live "ENCOUNT"』

 育成プロジェクトである「バーチャル・タレント・アカデミーVTA)」からも新規ライバーがデビューし始めており、現在約150名のメンバーが所属・活動しているにじさんじ。その層の厚さで今後も大きな影響を与え始めている。

 本連載は2021年7月後半にスタートして以来、にじさんじに所属しているタレント1人1人にフォーカスしたコラムを執筆してきた。この数年の間にさまざまなタレントがデビューし、または活動休止・引退し、なにより数年の時を経て1人ひとりの状況が大きく変化した。

 にじさんじの魅力といえば、1人ひとりの強い個性に留まらず、他者との繋がりでうまれる友情や関係性、そこで育まれるコミュニケーションの様子もあげられるだろう。

 今回からはにじさんじ内を中心にし、5年近くの変遷のなかで生まれてきたさまざまなグループ/同期組について記していこうと思う。このテーマで書き始めるにあたって、多くの視聴者と支持を集め、多大な注目と期待にもこたえてくれるグループである「EXゲーマーズ(通称:ゲマズ)」をはじめに取り上げてみたい。

 2018年5月2日に第1弾となるメンバーがデビューし、その後プロジェクト統合などを経てもその名を継いで現在までチームアップする7人について記していこう。

■それぞれのメンバーがにじさんじの中心かつ大黒柱に成長した“EXゲーマーズ

 「EXゲーマーズ」はにじさんじゲーマーズ出身のライバー7名によるユニット名であり、本人たちやファンの口からは「ゲマズ」「元ゲマズ」など様々な呼び方で親しまれている。それに倣って、今回の記事内では「ゲマズ」もしくは「ゲマズ組」として呼称させてもらう。

 ゲマズメンバーの7人は同じグループにじさんじ所属ではあるが、デビュー時期は3回にわかれている。2018年5月2日にデビューした叶/赤羽葉子の2人を皮切りに、7月6日笹木咲本間ひまわりが、7月30日には葛葉/椎名唯華魔界ノりりむがくわわった形だ。また2019年6月に卒業した闇夜乃モルル、10月に卒業した雪汝を含めると、2019年途中までは9人のメンバーで活動していた。

 なお、彼ら/彼女らはもともと「にじさんじゲーマーズ」という1つのグループとして括られており、厳密には「にじさんじ」とは別プロジェクトとして活動していたが、2018年末のグループ統合によってこうした区分が無くなっている。

 グループの統合から約1年後となる2019年12月末に元「にじさんじゲーマーズ」メンバーによるコラボ配信がおこなわれた際、会話のなかであがった(ex-○○で元○○を意味する)「EXゲーマーズ」という呼称が好評だったことで、現在までこの呼称が使われることになった。

 ファンの方であればよくご存知であろうが、この7人のなかでも細かくコンビ/トリオのグループが組まれている。叶と葛葉のふたりによる「ChroNoiR」や、赤羽・本間・笹木・椎名・りりむの5人による「げまじょ」という分かれ方に始まり、「叶え葉」(叶・赤羽葉子)、「ござやよ」(本間ひまわり笹木咲)、「ずしり」(葛葉・椎名唯華魔界ノりりむ)の同期組で分かれている。

 緊張でワタワタとしがちな赤羽と、それを心地よさそうにイジる叶の「叶え葉」、テンポの良い会話が続いて笑い声が絶えない笹木と本間の「ござやよ」、「お前に言われたくない!」と互いが牽制しあうことでまとめ役不在となり、ボケとツッコミが止めどなく続いていく葛葉と椎名とりりむの「ずしり」と、それぞれがソロ配信や7人のときとは別の表情を見せてくれる。

 また女性陣でも際立った仲の良さをみせている笹木と椎名のコンビ「さくゆい」や、デビュー直後の2018年に開催された『PUBG』の大会『PUBG VTuber最協決定戦』に出場するために組まれた叶・赤羽・本間・葛葉の4名による「シリンソウ」など、さまざまグループ・チームが「ゲマズ」の交友関係のなかから生まれた。

 なかでも「ChroNoiR」「さくゆい」は専用のYouTubeチャンネルを開設しており、ともに人気のユニットだ。とくに「ChroNoiR」は冠MCを務める公式番組『くろのわーるがなんかやる』のほか、音楽活動でもオリジナルアルバムの発売し、彼らのバックボーンやプロフィールを基にしたオリジナルアニメも公開に向けて制作されていたりと、にじさんじ内で組まれている様々なグループ/ユニットのなかでも指折りの人気を誇っている。

 基本的にソロでの配信活動が中心であるVTuberにとって、複数人でのコラボ機会は貴重だ。ゲマズの場合は「ゲーム好き」という点で集められたメンバーという経緯もあり、デビューしてから間もない頃からコラボ配信がおこなわれていた。

 いま現在のVTuber~バーチャルタレントシーンから追いかけ始めた方からすれば意外であろうが、2017年~2018年始めごろはVTuberによるゲーム配信が現在ほど多くはなく(そもそもVTuber人口自体が少なかったこともあるが)、キズナアイや輝月夜など動画投稿を中心にした活動者が目立っていた。現在ではVTuberによる生配信が非常に盛んになったが、当時はゲーム実況に対して好き嫌いが分かれるような状況もあったのだ。

 もちろん、ゲマズ以外にもゲーム配信をしていたVTuberはたくさんおり、その後はシーンの潮流が動画投稿から生配信中心へと移っていくことになったわけだが、とりわけゲマズを特徴づけたのは、当時から際立っていた個々人の性格や個性、ゲームの腕前だろう。それにくわえてコラボ配信でみせる仲の良さと、時折飛び出すエッジの効いた言動など、現在でも輝く彼ら/彼女らは頭一つ抜けて目立ち始めたのだ。

■見どころ・笑いどころを生み出し続ける“ゲーマーズの絆”

 ゲマズの7人に共通する得意ゲームジャンルといえば、やはりFPS/TPSなどのシューター系タイトルではないだろうか。

 『PUBG: BATTLEGROUNDS』『Apex Legends』『Overwatch』『VALORANT』など、その時々の流行タイトルに通ずるメンバーが大勢を占めており、現在では大きな注目を集めるようになったVTuberシーンにおけるゲーム大会/企画にも黎明期から積極的に參加していた。

 笹木はFPSタイトルこそをあまりプレイしたことがなかったものの、「スプラトゥーン」シリーズでは卓抜した実力をもったプレイヤーであり、それも含めればゲマズ全員が何かしらのシューター系タイトルに触れてきたといえる。

 彼らが参加した大会やゲーム企画を挙げれば枚挙に暇がなく、その時々で“名シーン”を数多く生み出していった。ゲマズがここまでの人気を集めるようになった要因のひとつには、コロナ禍以前・以後隔てなく流行したゲーム人気・ゲームタイトルと、彼ら/彼女らの得意ジャンルや活動スタイルがピタリと符合したという点があるだろう。

 『CRカップ』や『VTuber最協決定戦』といったさまざまな大会に出場するときには練習配信を欠かさず、そのなかで織り込まれる様々な雑談/舌戦/茶番の数々は、切り抜き動画を中心にハイライトとしてまとめられ、VTuberシーンを越えて「VTuberを知らないひとたち」にまで届くことになった。

 もちろん大会以外でも日々の配信を通じて人気を徐々に集めてきたことは言うまでもない。ゲマズ同士でのコラボ配信はもちろんのこと、突発イベントやお願い事から配信に発展することもあり、気安さを感じられる仲の良さを見せてきた。いくつか例となる配信をみてみよう。

 2020年11月18日、赤羽・叶・本間・葛葉らシリンソウの4人が「カレー作り」のオフコラボをした配信がある。かつてFPS大会出場のために力を合わせた4人が、この日はカレー作りのために集まったわけだ。

 シリンソウは2019年12月中旬にもたこ焼きパーティーを開いており、1年ぶりの料理コラボということで気兼ねないムードでワイワイと配信が進むはず……だった。

「『シリンソウで次なにやる?』ってねぇやん(赤羽)とたこ焼きパーティの時に話してて、『ゲーミングカレーってのがあるよ』ってなって、時が流れたらゲーミングカレーの準備ができてた」

 この日の「カレー作り」配信は、トニックウォーターで溶かした着色料で色付けされたオリジナルゲーミングカレーを調理して食べてみる、とんでもない食事企画だったのだ。

 前述した言葉は同配信の終わり際に本間が語ったものだ。企画側の本間と赤羽に、叶・葛葉の2人が思いっきり振り回される格好となった。

「そもそも食べて大丈夫かどうか、トニックウォーターを飲めるかどうか、着色料を溶かしたやつが食べれるか。葛葉で試そうぜ」など冗談を飛ばしつつ、戦々恐々と調理を進めていく4名。実際に出来上がったカレーは、なんとも形容しがたい色合いのカレーだった。

 出来上がったカレーの味見(毒見ともいう)をした4人だったが、色付けした七色が部分によって明らかにおかしな味がするようで、配信を見ているこちらにも伝わるレベルで困惑している様子が伝わってきた。

 配信終了後に赤羽や葛葉が投稿した言葉によれば、青色の着色料は「えんぴつの味がした」という。にじさんじ内で行なわれた料理配信でも、指折りにヤバイ料理ができあがったのだ。

 2023年2月4日笹木咲レオス・ヴィンセントとのコラボ配信で『ポケットモンスター スカーレット・バイオレット』を使った対戦企画をおこなった。

 ただ単純に対戦をするのではなく、アポなしでにじさんじライバーに電話をかけ、かけた相手が育成したポケモンを借りてパーティを編成して勝負するという内容なのだが、やはり注目すべきは「だれに電話をかけるか?」というところ。

 笹木は椎名/葛葉/叶の3人へ続けて電話をかけ、みごとにポケモンを借りることができた。アポイントも無いまま突然連絡を受けた3名全員が「さっきまで寝ていた」と話し、とくに葛葉が寝起き直後のかすれた声で通話に応じたのには、笹木もリスナーも大笑いしてしまった。

 いつものように雑談と茶番を織り交ぜるゲマズのメンバーだったが、椎名と葛葉はそのあとにレオスからも電話をもらってしまう。ここで椎名はレオスを茶化して時間稼ぎをし、葛葉は「自分が貸したポケモンは~」とウソの情報を吹き込み、レオスをかく乱することになった。

 その後の対戦中、葛葉から貰っていた情報と笹木が持っているポケモンが違うことにきづいたレオスは大混乱、しかも笹木が借り受けた葛葉のポケモンはレオスを圧倒して勝利を収めた。これにはおもわず笹木も「これがゲマズの絆だよぉ!」と何度となく声をあげており、大喜びしていたのが印象的だ。

 もちろんこれは単なる意地悪ではなく、後輩のなかでもイジりやすいレオスということもふまえて、2人の対戦・配信を面白くしようと椎名と葛葉がおふざけを披露したというのが大きな要因になるだろう。とはいえ、リスナーたちからすれば、ゲマズというグループの絆や友情を感じずにはいられないワンシーンとなったのだ。

■“漫才のようなフリートーク”を生み出した巡り合わせ

 あらためて振り返ってみると、ゲマズの7人は“奇跡的な巡り合わせ”によって集まったといえるのではないだろうか。すくなくとも、筆者はそう感じている。

 以前筆者が執筆した椎名・笹木の記事のなかでも触れているが、椎名は「デビューして1年ほどはスタッフやにじさんじのメンバーともあまり良い関係を築けなかった」と述懐し、笹木は「権利関係の問題でゲーム配信ができなかった」ことなどを理由に一度引退(その後復帰)という状況にあった。

 笹木の卒業にフォーカスを当ててみると、ゲマズ2期・3期メンバーが中心となって催された卒業配信のなかで、葛葉は「これまでコラボできなかったことを悔やんでいる」「もしも戻って来たら、こんなオレでよければ歓迎するので」と言葉少なながらも心境を口にしていた。

 その後、笹木が奇跡的ににじさんじに復帰したとはいえ、今度は闇夜乃モルルと雪汝がつぎつぎと活動休止・卒業したことも踏まえれば、当時のVTuber~バーチャルタレントシーンの厳しさやさまざまな制約があったことを想像できるだろう。

 こういった時期のシビアかつヘビーな時期をともに乗り越えたからこそ、ゲマズメンバーの7人は現在まで続く太い繋がり・厚い信頼を育むことになった。デビューから2019年中ごろまでは互いの距離感を掴みづらかったはずだが、徐々に関係性がハッキリし、互いの言動や嗜好性、踏み込んで良いラインをそれぞれがインプットしはじめてからは、現在のような仲の良さを感じられる雑談と軽口を叩き合う舌戦が途切れなく続く、彼ら/彼女ら特有のムードが生まれていくことになった。

 笹木・椎名・本間の3人は関西出身ということもあり、場の空気を盛り上げて会話を繋ぐコミュニケーション術で全体の雰囲気を形作り、叶・葛葉は高いゲームスキルをみせつつ、その時々の状況で言動をコロコロ変えてげまじょ組やリスナーを巧みに煽る。

 その隙間からりりむが斜め上の素っ頓狂な一言が発してはツッコミをうけ、赤羽は脇でニコニコと見届けながらマイペースにみなをまとめようと試みる。

 おおよそゲマズ7人が生み出す空気や雰囲気はこういった形になることが多い。

 配信映えする愉快な会話と正確なコミュニケーションの両立にはボケ/ツッコミ/まとめ役という三すくみが必要になってくるが、このメンバーが持ち合わせていた個性・特徴が自然とその役割を埋め、数年に渡っての交流が「一種の芸」「漫才に近いフリートーク」となるまで磨かれることになった。

 2022年1月末に『VALORANT』のカスタム対戦が配信された際には、ゲーマーズによる即席チームが組まれたこともある。この配信には本間、笹木、椎名、りりむ、葛葉のゲマズ5人にくわえて、エクス・アルビオイブラヒムラトナ・プティ奈羅花西園チグサら後輩組が加わり、数日前からの告知もあって多くの注目を集めた配信であった。

 配信の後半に「リスナーも見たかったと期待していたと思うんですが、ゲマズ組と後輩組でやりましょう」と西園が切り出し、対戦がスタート。

 結果から言えば、ゲマズ組が大敗。後輩組もかなり『VALORANT』をプレイするメンバーが多く、熟練度の差がそのまま結果に現れた格好となったが、対戦中のゲマズ5人のやり取りは、まさに「漫才に近いフリートーク」のようだった。

 笹木/椎名/本間が会話の中心となり、りりむがアイディアを出したところに葛葉がツッコミをいれ、それを受けて女性陣4人がアレやコレやと話しを広げ、収集がつかなくなったところまとめようと試みる葛葉にすらも女性陣がつっこんだりと……さながら痴話ゲンカのような、これぞ「ゲマズ漫才」と言いたくなるコミュニケーションが生まれていた。

 対戦終了後も痴話ゲンカは止まることなくつづき、親しいはずの後輩5人らも止めることなくゲマズのやり取りをみているのみ。「ゲマズ解散!」「今日はもうやらない!」と盛り上がったところで「じゃあ今日は終わりますか」と西園が声をかけると、「いややろうよ!」「だまされた? ゲマズのノリに?」と一転して素に戻るゲマズの5人。

 こうしたフォローをきちんとするあたり、彼ら/彼女らがどれだけ意識的に「会話・コミュニケーションを芸として意識しているか」が伺い知れるだろう。

 同期としてデビューした者同士がどのように噛み合うか? ライバーに限らず、人と人との相性は“巡り合わせ”次第だ。学校のクラス分けや部活選び、新卒で入社した会社、アルバイトで選んだお店や職種など、さまざまな場面と巡り合う人によって自分の運命が大きく変わる。

 11月23日にはゲマズとして2度目となる3Dライブ『EX Gamers 5th Anniversary Live "ENCOUNT"』が開催される。「ENCOUNT」という言葉は、「(偶然の)出会い」や「遭遇」を意味している。

 FPSゲームでよく使われる「エンカウント」というと一般的には敵との遭遇・交戦を意味するので、ゲマズのメンバーが舌戦を繰り広げるワンシーンにもピタリと合ううえに、いかに互いの“巡り合わせ”を重く捉えているかをも意味にしているともとれる。

 苦難を乗り越えて、気負いすることなく軽口をたたいたり、笑いあえたりする仲間を得たゲマズの7人。これ以上にないほどの“巡り合わせ”とともに、今後も大黒柱として太く・長く活動を続けていくことになるだろう。

(文=草野虹)

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