MOVIE WALKER PRESSスタッフが、いま観てほしい映像作品3本を(独断と偏見で)紹介する連載企画「今週の☆☆☆」。今週は、鬼太郎の父たちの運命の出会いを描く水木しげる生誕100周年記念作、現在大ヒット中の「ゴジラ」シリーズ最新作、大阪の安アパートで飄々と暮らす住人を切り取ったヒューマンドラマの、人々の再生と始まりを映しだす3本。

【写真を見る】行方不明の妻を探し哭倉村に足を踏み入れた鬼太郎の父(『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』)

■おどろおどろしさ100倍のダークファンタジー…『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』(公開中)

鬼太郎が墓場から生まれたのは有名。しかし、その父親は?母親は?初めて明かされる、鬼太郎の父たちの物語。舞台となるのは、戦後の因習に囚われた山奥の哭倉村。村を納める龍賀一族当主の死をきっかけに、次々と奇怪な殺人事件が起きる。容疑者として捕らえられたのは、妻を探しに来たと話す、かつての目玉おやじこと鬼太郎の父(声:関俊彦)。彼は東京からやって来たサラリーマンの水木(声:木内秀信)と力を合わせ、無実を晴らすため、そして妻を見つけるため、事件の真相解明に乗りだす。

序盤のミステリー展開は『八つ墓村』(51)や『犬神家の一族』(76)を彷彿とさせ、悲劇の連鎖はシェイクスピアも真っ青。そして明らかになる、一族のおぞましい秘密。手に汗握るバトルでは、“リモコン下駄“や“祖先の霊毛“、そして“あの男“に似た少年と、お馴染みのあれこれも登場する。勝つのは、人間の醜い欲望か、妖怪の愛か…。水木しげる生誕100周年作品は、鬼太郎誕生前日譚を描いた、おどろおどろしさ100倍のダークファンタジー。(映画ライター・榑林史章)

■原点をリスペクトしたアップデートした70周年記念作…『ゴジラ-1.0』(公開中)

日本が生んだ特撮怪獣映画の原点にして、反戦映画の傑作として映画史に名を残す1954年公開の『ゴジラ』(54)。この名作の70周年記念作品として制作された本作は、時代設定から作風まで「原点回帰」を強く意識しつつ、現代的な感覚を意識したアップデートもなされた作品となっている。原点、本作ともにゴジラという存在は、戦争を経てなお兵器開発を進めた結果誕生した「負の遺産の象徴」として描かれている。それを踏まえ、原点の『ゴジラ』では、戦争を生で体験した当事者であるスタッフたちが、つらい戦争を経てもなお核兵器開発を進める人類の科学技術の発展と兵器開発への警鐘を謳う物語として仕上げた。一方本作では、そうした原点が持つ反戦意識を残しつつも、戦争を過去の歴史としてしか認識できない現代人でも感情移入ができる「生きることへの思い」に重きを置いたドラマとして描いている。

ゴジラと因縁を持つ主人公である敷島浩一(神木隆之介)の抱える葛藤の物語を軸に、劇中でゴジラに立ち向かう人たちは、どこにも頼ることができない状況のなか、生きるために知恵を絞り、その苦難に立ち向かう。彼らが体験する、戦後のつらい状況に追い打ちをかけるように東京を襲うゴジラとそれに対抗するにはあまりに厳しい状況は、現代人が社会に対して抱える様々な生きづらさにも重なり、その戦いに臨む姿や思いには心が震える。見せ場となるハイクオリティなCGを駆使したゴジラとの戦闘や都市破壊シーンなどは、原点への大いなるリスペクトと現代的アプローチが見事に融合した映像となっており、70周年記念作品として大いに満足できる1本となっている。(映画ライター・石井誠)

■ずっと観察していたい、クセになる不思議な後味…『コーポ・ア・コーポ』(公開中)

舞台は大阪の長屋風アパート。部屋の借り手である以外はこれといって共通点のない人々が年齢も職業もたどり着いた事情も互いによく知らないまま、連帯感のあるような、ないような感じでなんとなく生きている。死や性に隣り合わせでありながら、彼らの独特な雰囲気がシュールでおかしみのある時間を作りだす。

住人の東出昌大、倉悠貴、笹野高史はキザなヒモ、ナイーヴな日雇い労働者、いかがわしい商売の老人とどれもハマり役。だが、キャスティングの妙が生きるのは女優陣。素っ気ない優しさでできた主人公ユリに扮した馬場ふみかのやる気のない主演ぶりが心地よく、毒親、片岡礼子との母娘関係にも魅せられる。一世を風靡した元女芸人、藤原しおりの存在感も抜群で怪しい住人のなかにあって誰よりミステリアス。人間関係の摩擦に敏感な現代の風潮とは真逆なコーポの人々のノスタルジックな新しさはずっと観察していたい、クセになる不思議な後味。(映画ライター・高山亜紀)

映画を観たいけれど、どの作品を選べばいいかわからない…という人は、ぜひこのレビューを参考にお気に入りの1本を見つけてみて。

構成/サンクレイオ翼

鬼太郎の父と水木の出会いを描く『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』/[c]映画「鬼太郎誕生ゲゲゲの謎」製作委員会