「最近の新義州(シニジュ)では、市民が寝る間も惜しんでかつらを作っている」

国連安全保障理事会の対北朝鮮制裁決議の禁輸対象となっておらず、北朝鮮が思う存分輸出できるものとして注目されているのが、かつら、つけひげ、つけまつげなど、人毛を使った製品だ。

中国との国境に面する新義州市民の間では、かつら内職ブームが起きていると、平安北道(ピョンアンブクト)のデイリーNK内部情報筋が伝えた。

北朝鮮の人々にとって貴重な現金収入を得る場となっているのが市場だが、最近では空いている売台(ワゴン)が増えている。市場に出ずに、家でかつらを作っているからだ。

市場の売台で丸一日座っていても、儲けはせいぜい3000北朝鮮ウォン(約51円)で、1週間でようやく2万北朝鮮ウォン(約340円)となり、コメ4キロが買える額となる。一方で、自宅で1週間にかつら2個を作れば、少なくともコメ10キロが買える。不況に苦しむ市場より、家でかつら作りの内職をする方がよっぽど儲かるのだ。市民は苦労しつつも、大いに喜んでいると、情報筋は伝えている。

「目をこすりながら苦労した代償として、コメを受け取るのだから、徹夜してもつらくないと喜んでいる」(情報筋)

かつらビジネスに乗り出しているのは、平安北道貿易局所属の技術指導員たちだ。まずは希望者に15日間の研修を受けさせ、試しにかつらをひとつ作らせて、合格ラインに達した人のみに注文を出す。完成品は技術指導員の厳しい検査を経て輸出される。

新義州同様に中国との国境に面している両江道(リャンガンド)恵山(ヘサン)でも、人々がかつら作りの内職に励んでいると、現地のデイリーNK内部情報筋が伝えている。

かつらを作る資格を得るには、企業所で研修を受けなければならない。退屈なものではあるが、コロナ禍の3年半もの間、ロックダウン、市場の閉鎖、営業時間の短縮、貿易の完全停止などで、1日1食にありつくのがやっとという苦しい日々を過ごしてきた恵山の人々は、かつら作りできちんと食べられるようになったと喜んでいる。

未だに税関の業務が本格的な再開に至らず、コロナ前の活気を取り戻せていない恵山だが、かつらに加えて、つけまつげ麦わら帽子などの注文が絶えず入ってくるようになれば、1日3食をきちんと食べられる人が増えるだろうと、情報筋は期待をのぞかせている。

ただ今のところ、誰でも彼でも仕事を回してもらえるわけではなく、注文が得られるのは何らかのコネがある人に限られ、多くの市民は指を加えて見ているだけだという。

新築のマンションが立ち並ぶ新義州の市街地(画像:読者提供、2017年9月撮影)