特別職の国家公務員の給与を引き上げる法案が物議をかましていますが、とばっちりを受けているのが一般の国家公務員。「公務員の給与を上げるなんて許せん!」とよく聞くフレーズが、そこら中から聞こえてきます。批判にさらされやすい国家公務員の給与についてみていきましょう。

民間企業の給与は上がらないのに…「国家公務員」へのとばっちり

特別職の国家公務員の給与を引き上げる案が浮上するとネット上で大炎上。というのも、特別職の国家公務員には、岸田首相や閣僚も含まれるため、「増税ばかりしておいて、自分の給与まで引き上げるなんて言語道断」と、批判で溢れたわけです。

結局、14日の午後に法案は衆院本会議で可決され、次に参院に送られることになりましたが、成立すれば岸田首相の給与は年間で46万円、閣僚の給与は年間32万円増えるそうです。一方で、すでに首相は3割、閣僚らは2割の給与を返納し、今回の法案による給与増分もすべて国庫に返納する方針だとか。

そのような動きに対し、特別職ではない国家公務員の人たちにも批判が及んでいます。国家公務員には、一般職と特別職があり、裁判所職員、国会職員、防衛省の職員等は特別職、それ以外のすべての職員は一般職とされています。そして特別職のほとんどが自衛官です。しかし

――民間企業の給与も上がっていないのに、国家公務員の給与を上げるなんて、けしからん

――公務員の税金ドロボー、賃金アップなんて絶対に許せない

など、国会公務員、さらには公務員全体を批判する投稿も。もちろん擁護する声も多くありますが、こういう状況では、ブーイングのほうが大きく聞こえてくるもの。給与がなかなか上がらない不満の矛先が、公務員全体に向っているようです。

厚生労働省『毎月勤労統計調査』(速報)によると、2023年9月、名目賃金にあたる現金給与総額は21カ月連続で上昇する一方で、「実質賃金」は18ヵ月連続の減少。もう1年半も「給与は上がっているがものの値段が高い、生活が苦しい、どうにかして……」という状況が続いています。

また日本商工会議所が今年6月に発表したレポートによると、2023年度に賃上げを実施した(予定も含む)中小企業は62.3%。昨年よりも10ポイント以上も増え、賃上げの動きが鮮明になりましたが、一方で、4割は賃上げの予定すらないという状況。日本の企業の99%は中小企業で、働いている人の7割が就労するということを鑑みると、単純計算、およそ2,000万人が「賃上げの予定もない」という状況にあるといえます。

そのようななか、ちょっとチグハグな感じもする法案に疑問を抱く人が多くても、仕方がないかもしれません。

大企業よりも少なく、中小企業よりは多い「国家公務員の平均給与」だが…

そもそも国家公務員の給与は民間準拠。単純に言えば、民間の給与が上がれば、それに応じて国家公務員の給与も上がり、民間の給与が下がれば、国家公務員の給与も下がる、という仕組み。国家公務員給与と民間給与との比較は、企業規模50人以上、かつ、事業所規模50人以上の事業所を調査対象とする「職種別民間給与実態調査」などにより行われています。そのため国家公務員の給与は、中小企業の平均よりは高め。しかし大企業の平均給与と比べると若干低くなることが多いようです。

人事院『令和5年国家公務員給与等実態調査』によると、令和5年4月1日現在、国家公務員(平均年齢42.3歳)は25万2,790人、平均俸給は月33万4,218円、諸手当などを含めた給与は月41万2,747でした。また本府省勤務の官僚(平均年齢40.4歳)の平均給与は月44万7,666円。手取りにすると33万~34万円程度です。

*同年1月16日4月1日までの間の新規採用者(1万1,049人)及び再任用職員は、この人員等には含まれていない

国家を運営する中枢にいる人たちの平均給与、手取りで33万円。これが日本の現実です。そして国家公務員でよくいわれるのは、キツイ長時間労働。人事院の調査によると、令和3年度、他律部署約7.4万人のうち、上限を超えて超過勤務を命ぜられた職員の割合は15.6%と約1.2万人。前年よりも2.0ポイントの増加でした。特にエリート官僚である本府省の他律部署約3.8万人に限定すると、上限超えは28.1%と約1.1万人。さらに14.1%が月100時間の残業、19.9%が2~6月に月80時間超の超過勤務を命じられたことが分かっています。

なぜ、超過勤務を命じられているのか。最も多いのが「国会対応業務」で18.7%。次に「予算・会計関係業務」で12.6%。そして時期的に「新型コロナウイルス感染症対策関連業務」が11.2%と続き、「重要な政策に関する法律の立案」が10.5%となっています。

また5年に1度行われる『国家公務員長期病休者実態調査』によると令和3年度における長期病休者は6,500人で全職員の2.32%。前回調査に比べて1,174人増加。傷病別にみると「精神及び行動の障害」が4,760人で、長期病休者総数に対して73.2%にもなっています。職員10万人に対する精神疾患の長期病休者率は2001年から2006年にかけて大きく増え、その後横ばいで推移していましたが、令和3年度においては431.0ポイント増と大きく上昇しています。過酷な労働環境が影響しているといわれています。

民間企業に少し遅れて給与が反映される国家公務員。働き方についても民間企業より少し遅れて改善されていくのでしょうか。過酷な労働環境が知られるようになり、同情的な意見も目立つようになりましたが、まだまだ厳しい意見が注がれることも多いようです。今回の炎上にしても「残業して国会対応したのに、まさか批判の矛先がこちらに向ってくるとは……」と嘆きの声が聞こえてきます。

(※写真はイメージです/PIXTA)