2023年、アメリカ海兵隊と海軍が相次いで、無人兵器の試験に成功しました。すでに中国と衝突することを見越しているアメリカ海兵隊によって、将来戦のカギは「無人化」だとか。どこまで開発が進んでいるのでしょうか。

米海軍「麻薬王のやり方を真似てみた」

2023年9月、アメリカ海兵隊が西海岸の演習地で四足ロボットにM72ロケットランチャーを装備させ、遠隔操作で射撃する実験を行ったと報じられました。人間の代わりとしてロボットに火器を持たせることで、海兵隊員は身を隠したまま敵を攻撃することができます。今回はあくまで実証実験であって、具体的な装備化の段階ではありませんが、将来の戦場を考えるうえで、とても興味深い実験と言えるでしょう。

いま、アメリカ海兵隊は大規模な変革を組織と装備の両面で進めています。その一つが戦車を全廃し、火砲を大きく削減するというもの。これによって確保できた資金や人員を「新たな能力」の獲得に投資しているのです。無人化は、そうした能力の一つであり、さまざまな分野での活用が検討されています。

そして、このロボットにロケットランチャーを持たせるというのと同様、兵器の無人化という意味で画期的といえる試験が海軍でも同時期に行われています。それが輸送艦の無人航行です。

用いられたのは、スピアヘッド級高速輸送艦。同艦は、海軍や海兵隊の戦域輸送を担うためのもので、現在13隻が就役しています。双胴型の船体が特徴で、全長は103m、満載排水量は約2500トン、最大600トンの各種物資を35ノット(約64.8km/h)の高速で運ぶことができます。

アメリカ海軍は、今年2月に海軍に引き渡されたばかりの13番艦「アパラチコラ」に、約5000万ドルの費用を投じて無人運用能力を付与しました。夏に行われた試験では1200海里(約2200km)の海上を自律航行することに成功しており、これにより世界でも最大級の無人船となりました(実験では監視のため人員が乗船)。

この実験について、ある海兵隊の高官は、「麻薬王のやり方を真似た」と発言しました。これは、南米の麻薬組織がアメリカの国境監視を逃れるため、無人艇で海上からアメリカに麻薬を密輸している事例と、「アパラチコラ」の能力の類似性について冗談めかして述べたものです。

無人化は、なぜ必要なのか?

アメリカ海兵隊は、中国との軍事的衝突を念頭に、太平洋の島々を広く横断&分散して戦う構想を練っています。中国が相手となると、従来のようなアメリカ空軍の圧倒的な制空権下の戦いではなく、両者の力が拮抗した戦いが予想されることから、まさに麻薬密輸のごとく「敵の監視を逃れて」最前線に人員や物資を輸送する必要があるのです。無人化は、効率的に物資を輸送し、また人員の損耗を減らす手段として注目されています。

スピアヘッド級が戦域レベルの輸送を担当するのに対して、戦場レベルでの無人輸送の取り組みも開始されています。それが「TRV-150C戦術再補給無人機システム(TRUAS)」です。

やや大型のクアッドコプターであるTRUASは、約27kgの物資を搭載して半径約14kmの活動範囲を有すると言います。無線操縦ではなく完全自律式であり、複数のウェイポイント(通過座標)を指定することでフライトプランを組み立てることができるそうです。

アメリカ海兵隊と同海軍は現在21機を購入しており、敵と力が拮抗する戦場において最前線の部隊へ、迅速で継続的な物資輸送手段として用いることが期待されています。

海兵隊の無人化は攻撃兵器にも及んでいます。それが無人の対艦ミサイル発射車両である「NMESIS(海軍/海兵隊遠征型船舶阻止システム)」と、「LRFL(長射程射撃ランチャー)」です。どちらも汎用車両JLTVのシャーシを流用した無人車両「ROGUE Fire」をベースとしており、NMESISは2発のNSM(海上打撃ミサイル)を、LRFLは1本のトマホーク Block.Vを搭載します。驚くべきはLRFLのほうで、艦艇に搭載されるMk.41垂直発射機のセルを1本そのまま車体に載せており、ランチャーが車体からはみ出るほど巨大です。

「機械の速度で戦え」それが意味することとは

NMESISとLRFL、この両者が無人化された目的は軽量化にあります。先に述べたとおり太平洋を広く横断する作戦のため、航空機による空輸性能が求められたからです。両者ともC-130中型輸送機はもちろん、最大ペイロード15.7tのCH-53K大型輸送ヘリに吊り下げることが可能です。

海兵隊は、海路を制することができる島嶼へ、迅速にこれら対艦ミサイル車両を展開させることで、敵艦隊の動きを牽制し、味方海軍の作戦を支援しようと考えています。「海兵隊は機械の速度で戦わなければならない。さもなくば機械の速度で叩き潰されるだろう」――海兵隊の公式文書にはこう記されています。

中国という対等な軍事力を持った相手との戦いにおいて、攻撃と兵站、その両面において機械=無人化技術が、勝敗を左右する重要な要素であると海兵隊は考えているのです。今後も、海兵隊からはさまざまな無人化装備が登場してくることでしょう。

そのなかで、それだけのものが使い物になると判断され、採用・配備に至るのか。その後、現場部隊ではどのように無人化装備を活用するのか、興味は尽きません。

アメリカ海兵隊がテスト中のTRV-150C戦術再補給無人機システム。通称「TRUAS」(画像:アメリカ海兵隊)。