シービーアールイー株式会社(CBRE)の「ジャパンオフィスマーケットビュー 2023年第3四半期」で各都市のオールグレード空室率をみると、東京と名古屋では対前期比で上昇、大阪では同低下しました。地方都市に目を向けると、既存ビルの空室消化が進み、全国的に堅調な需要がみられるといいます。本稿では、エリア別のオールグレードの需要動向について詳しくみていきます。

空室率の上昇は新規供給が主因、既存ビルでは空室消化が進む

東京:賃料は3つのグレードでいずれも対前期比横ばい

今期(Q3)のオールグレード空室率は5.2%と対前期比0.3ポイント上昇。新規供給が空室を残したことが主因。新築に比べ賃料に割安感のある既存ビルで今期も空室消化が進んだ結果、空室は新築ビルに偏在する傾向にある。

賃料は3つのグレードでいずれも対前期比横ばい、オールグレードでは同0.1%の下落。中小型ビルの賃料引き下げの動きが、全体の水準をやや押し下げた。

大阪:グレードAの空室率は4期連続の低下

今期のオールグレード空室率は3.3%と対前期比0.4ポイントの低下。前期に引き続き需要は総じて堅調であった。中でもグレードAの空室率は同-0.5ポイントの3.0%と4期連続で低下。立地改善やグレードアップ移転、館内増床により、大型の空室が複数消化されたことが主因。

オールグレード賃料は対前期比0.1%の下落。テナント確保のための賃料調整が続いている。

名古屋5年ぶりの新規供給により、グレードAの空室率は4期ぶりに上昇

今期のオールグレード空室率は対前期比+0.6ポイントの5.8%と4期ぶりに上昇。新規供給が空室を残したことが主因。ただし、今期竣工したグレードAビルは昨今の新築ビルの中では比較的高稼働で竣工。既存ビルでも、賃料が割安なビルを中心に空室消化が進んだ。

オールグレード賃料は対前期比横ばい。空室が減ってきたことで賃料引き下げの動きも減少した。

地方都市:全国的に需要は堅調、既存ビルでの空室消化が進む

今期のオールグレード空室率は、10都市中4都市で対前期比上昇、2都市で低下、4都市で横ばい。空室率が上昇した都市のうち、札幌と横浜は新規供給が主因。前期に続き全国的に需要は堅調。

オールグレード賃料は、10都市中6都市で対前期比上昇、2都市で下落、2都市で横ばい。今期も前期に続き、賃料が上昇した都市が半数を超えた。

東京‐賃料は3つのグレードでいずれも対前期比横ばい

今期(Q3)の空室率はオールグレードで対前期比+0.3ポイントの5.2%、グレードAで同+0.9ポイントの6.6%となった。グレードAビル2棟を含む新築ビルが空室を残して竣工したことが主因。

一方、既存ビルでは、新築に比べ賃料に割安感のあるビルが多く、今期も堅調に空室消化が進んだ。減床や二次空室が複数発生したものの、ビルのグレードアップ、立地改善、建て替えによる移転などでまとまった空室が消化された。

新築ビルを除く築1年以上の既存物件の空室率(既存空室率)は今期4.0%と、市場全体の空室率5.2%を1.2ポイント下回っている。1年前の2022年Q3時点では市場全体の空室率4.9%に対し、既存空室率は4.3%と、その差は0.6ポイントであった。しかし、足元では既存空室率の低下によりこの差は拡大しており、空室が新築ビルに偏在する傾向を示唆している。

今期のグレードA賃料は2期連続の対前期比横ばい。グレードAマイナス、グレードBも同横ばいで、ともに2020年Q2以来続いていた賃料の下落は一服した。

今期、市場全体の空室率は上昇したものの、既存ビルでは空室を抱えるビルの総数は減ってきている。このため、賃料を引き下げるビルは減っている上に、空室消化が進んだビルでは、賃料を従前の水準に上げ戻す動きが増えている。

ただし、グレードB未満の中小型ビルでは、テナント確保のために賃料を引き下げる動きが、引き上げの動きを依然としてやや上回っている。このため、オールグレード賃料は対前期比-0.1%とわずかながら下落した。大型ビルが空室を残して竣工することで賃料に下押し圧力が働く傾向は今後も続くと予想される。

当面、賃料は横ばい圏ながら、やや弱含みで推移するとみられる。グレードA賃料は向こう1年間で-0.4%を見込む。

大阪‐グレードAの空室率は4期連続の低下

今期(Q3)のグレードAの空室率は、対前期比-0.5ポイントの3.0%と4期連続の低下となった。築浅ビルで、郊外からの立地改善およびグレードアップ移転と館内増床により、大型の空室が複数消化されたことが主因。

来年に竣工が予定されている大型の物件と比較して、既存のグレードAビルの賃料水準に割安感が出ていることも、空室消化が進んでいる一因となっているようだ。

グレードBでは、昨年竣工したビルへの移転による二次空室が、前期に続き今期も発生した。一方で、建て替えによる移転、立地改善や拡張を目的とした移転で空室が消化されたため、同-0.5ポイントの3.4%となった。

前期に引き続き、需要は総じて堅調で、既存ビルを中心に空室消化が進んでいる。よってオールグレードでも同-0.4ポイントの3.3%となった。しかし、2024年はオールグレードで過去最大、現在の貸床総面積の5%強に相当する約9万坪の大量供給が予定されている。このため、2024年は空室率が再び上昇基調になると予想される。

今期の賃料は、グレードAで対前期比-0.2%の23,950円/坪、グレードBで同横ばいの14,700円/坪、オールグレードで同-0.1%の14,110円/坪となった。グレードAでは下落幅は縮小しているものの、テナント確保のための賃料調整は続いている。グレードA賃料は向こう1年間で-1.5%を見込む。

名古屋‐5年ぶりの新規供給により、グレードAの空室率は4期ぶりに上昇

今期(Q3)のオールグレード空室率は対前期比+0.6ポイントの5.8%、グレードAは同+0.8ポイントの8.5%と、いずれも4期ぶりに上昇した。グレードAビル1棟を含む計1.7万坪の供給が空室を残して竣工したことが主因。しかし、需要は前期に続き堅調であった。

グレードAビルの供給は名古屋では5年ぶりで、他エリアに比べ築古ビルの割合が多い栄エリアの中心に立地している。このため、近隣テナントオフィスの環境改善を目的とした移転需要の受け皿となり、名古屋における昨今の新築ビルの中では比較的高稼働で竣工した。

一方、既存ビルでも、賃料が割安なビルを中心に、グレードアップや立地改善、拡張移転、館内増床などで空室消化が進んだ。この結果、今期の新規需要は1.1万坪と、過去の一四半期平均0.3万坪を大きく上回った。

空室率は今後も新規供給を理由に上昇基調が続くとみられる。2024年Q1には1.4万坪の供給が控え、既存ビルでは新築ビルへの移転による二次空室の発生も予想されるためだ。

今期のオールグレード賃料は対前期比横ばいとなったが、グレードA賃料は同+0.2%と、2020年Q1以来の上昇となった。空室が減ったビルや引き合いが増えているビルでは賃料を引き下げる動きが落ち着き、一部では従前の水準に上げ戻す動きもみられた。

ただし、今後の需給緩和により、賃料は緩やかながら再び下落基調に転じるとみられる。グレードA賃料は向こう1年間で-2.3%を見込む。

地方都市(札幌・仙台・さいたま・横浜・金沢・京都・神戸・高松・広島・福岡)

全国的に需要は堅調、既存ビルでの空室消化が進む

今期(Q3)のオールグレード空室率は、10都市中4都市で対前期比上昇、2都市で低下、4都市で横ばいとなった。上昇した4都市のうち札幌と横浜は新規供給が主因。

札幌では今期の新規供給物件がまとまった空室を残して竣工したため、対前期比+1.2ポイントと大幅に上昇した。それでも未だ2.0%と需給タイトな状況は変わらない。

金沢では、昨年竣工したビルへテナントが移転したことによる二次空室の発生が主因となり、同1.0ポイントの上昇となった。

しかし、前期に引き続き、全国的に需要は堅調で、空室率の上昇した都市や横ばいとなった都市でも、テナントの動きはみられている。新規開設や拡張移転が散見されたほか、100坪を超えるニーズもやや増えている模様。

特にさいたまや神戸では、いずれも空室率が1%台と需給が逼迫しており、2024年の供給も限定されるため、大型区画の確保が難しくなっている。

今年に入って空室率が大きく上昇した福岡では、今年上期に竣工した複数の新築ビルで空室消化が進んでいる。

既存ビルでは、福岡拠点の撤退や減床などの事例が複数みられた一方、館内増床でテナントが決まるケースも散見され、結果として空室率は対前期比横ばいとなった。

前期に引き続き、賃料上昇の都市、半数を超える

今期(Q3)のオールグレード賃料は、10都市中6都市で対前期比上昇、2都市で下落、2 都市で横ばいとなった。今期も前期に引き続き、賃料が上昇した都市が半数を超えた。ただし、いずれの都市も上昇幅は小さく、今後多くの新規供給が控える都市では下落に転じる可能性は高い。

さいたまでは、コロナ禍で下げた募集賃料を従前の水準に戻す動きが大型ビルを中心に複数みられ、対前期比+0.4%と3期連続の上昇となった。

札幌では、同+0.3%と8期連続の上昇となり、過去最高値を更新し続けている。

一方で、賃料が下落した2都市のうち横浜では、みなとみらいの大型空室を抱える複数のビルでテナントを確保するための賃料調整が続いている。

 

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