会社命令によって遠方の職場ではたらくことになった女性社員から「引越代を会社が出してくれない」という相談が弁護士ドットコムに寄せられた。

グループ会社への転籍を命じられたことから、通勤時間は現在の片道30分から片道1時間半に増えてしまい、さらに始業時間も30分早くなるという。

往復1時間だったものが、往復3時間(プラス30分早起き)になるとあって、通勤圏内への引越しを検討したところ、費用は40万円以上になるそうだ。

負担をもとめたものの、会社側は「1時間半は常識の範囲」「引越代の負担は会社規定がない。前例がない」として応じないという。

女性は「通勤、引越、どちらを選んでも自分の不利益になる人事に納得いきません。引越代の一部でも会社に負担してほしいです」と不満を抱えている。

会社の対応に問題はないのだろうか。村松由紀子弁護士に聞いた。

●まずは就業規定を確認、「往復4時間」が目安に

ーーグループ会社への転籍によって、通勤時間が1時間から3時間に増えるような場合、会社側は従業員の引越費用を負担すべきでしょうか

始業も踏まえて2時間も早く家を出ることになるのであれば、転居したいと思うのは無理もありません。費用負担してほしいという心情もよくわかります。

転勤時の費用負担について法律上の定めは特になく、引越費用をどちらが負担するかどうかは、最終的には、会社の裁量・判断に委ねられています。

ただし、就業規則などに「引越費用を会社が負担する」などと書かれている場合、労働契約に基づいて費用を会社に請求することは可能です。

今回のケースで会社側は「引越代の負担は会社規定がない。前例がない」と言っていますが、念のために就業規則の確認をおすすめします。

——会社側は、1時間半の通勤時間を「常識の範囲」としています。通勤時間がどれくらいの長さになれば、転勤時に引越しが必要とされるのでしょう

これも基本的には会社の基準や取扱いによります。

ただ、厚生労働省は、失業保険給付の優遇を受けることができる離職理由の一つに「労働契約上、勤務場所が特定されていた場合に遠隔地(通常の交通機関を利用して通勤した場合に概ね往復4時間以上要する場合)に転勤(在籍出向を含む。)を命じられ」た場合を挙げていますので、「往復4時間」は一つの基準となるかもしれません。

相談者さんの通勤時間は往復3時間ですので、通勤時間のみでは転居が必須であるとまではいえないと思いますが、始業時間が30分早まっています。

「朝の通勤に2時間の違いがある」という事情は、十分、考慮には値すると思います。

●転籍における新たな雇用条件の確認も!

——ところで、今回は「転籍」という話で就業時間も30分増えていますが、給与等の条件はどうなのでしょうか?

出向転勤と異なり、転籍は、転籍元の会社との労働契約を終わらせ、転籍先の会社との間で新たな労働契約を結ぶ行為ですから、基本的に「個別の同意」が必要となります。

引越費用に不満のある女性が、転籍そのものに前向きなのかどうかわかりませんが、転籍の同意をする代わりに、会社に一定程度、引越費用の負担を求めるという交渉手段もありえるかと思います。

【取材協力弁護士】
村松 由紀子(むらまつ・ゆきこ)弁護士
弁護士法人クローバーの代表弁護士。同法人には、弁護士4名が在籍する他、社会保険労務士4名、行政書士1名が所属。企業法務を得意とする。その他、交通事故をはじめとする事故、相続等の個人の問題を幅広く扱う。
事務所名:弁護士法人クローバー
事務所URL:https://clover.lawyer/

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