アメリカ空軍の横田基地が定期的に行っている航空安全会議が、新型コロナの影響で4年ぶりに開催されました。一般的にはほとんど知られていないミーティングですが、一体どんなことを行っているのでしょうか。

関係者の相互理解を深める定例会

2023年11月2日在日米軍の横田基地で航空安全会議が開催されました。この会議は関東平野の上空に広がる、通称「横田空域」と呼ばれるレーダー管制空域を運用する横田基地が定期的に開いている関係者ミーティングです

第1回は今から14年ほど前、アメリカ空軍第374空輸航空団が主催して2009年に行われました。その後2年ごとに開催されてきましたが、2021年は新型コロナにより中止となったことから、今回は4年ぶりの開催となりました。今年は関東平野を飛行する自家用機パイロットや東京消防庁の運航関係者など80名が参加しました。

関東上空の西側半分をしめる広大な横田空域の中では、アメリカ軍機の他に自衛隊機、自家用機、消防や警察のヘリコプターからグライダーまで、国籍も所属も機種も異なる多様な航空機が飛び交っています。

その一方で関東平野は、人口が密集する都市も多く存在する地域です。その関東平野上空で、レーダーサービスを提供することで、航空機同士の間隔を確保しながら事故を未然に防ぐことが横田空域の重要な役割です。

しかし、関東平野の上空を飛行する全ての航空機がこのレーダーサービスを利用しなければ、事故防止の取り組みには大きな穴が開いてしまいます。そこで横田基地に所属するアメリカ空軍第374航空団では、1人でも多くのパイロットに横田基地が提供するレーダーサービスを利用してもらうことを目指し、このような航空安全会議を実施しています。

会議では、まず横田空域とレーダーサービスについての説明が行われ、後半には質疑応答に十分な時間が設けられました。それは、同空域内を飛行するパイロットからの質問や要望を聴取することも、会議の重要な目的であると認識されているからです。今回は、横田空域の中で管制空域を持つ航空自衛隊入間基地やアメリカ陸軍のキャンプ座間からも講師が招かれ、管制空域や航空機の運航状況について説明が行われました。

普段は立ち入り不可のレーダー管制室も見学OK

会議の後は、いくつかのグループに分かれて、横田基地に配備されているC-130J輸送機や管制塔、レーダー管制室の見学となりました。

管制塔の見学では、実際の管制塔に登る前に管制官訓練用のシミュレーターを使って管制塔業務の説明が行われました。そこは、実際の管制塔で使われている管制卓と全く同じ設備が用意されており、窓に相当する部分は全てディスプレイとなっていて、そこに管制塔から見える景色と航空機が映し出される仕組みです。

画像では雨や霧などあらゆる天候の中で、輸送機戦闘機などいろいろな種類の航空機がリアルな画像で投影されます。そのような設備を使って、教官役の管制官が航空機のパイロット役を演じることで、無線交信の訓練が行われるといいます。なお、アメリカから来日し横田基地に配属される管制官は、本土の基地で同じシミュレーターを使用することにより、横田基地に着任する前から同基地の管制業務に関する訓練を受けることが可能とのことでした。

シミュレーターで説明を受けた後、いよいよエレベーターに乗って実際の管制塔へと移動です。管制塔では普段の管制業務の説明をはじめ、無線機が故障した場合に使用されるライトガンの実演も行われました。ライトガンは無線交信が不能になった航空機に向けて、赤色と緑色の光を投射することで、離陸許可や着陸許可を与える方法です。

一方、レーダー管制室においては、実際の管制業務が行われているレーダーの画面を見ながら、表示される情報や表示される範囲などの説明を受けました。レーダー画面はどれも液晶の大きな画面ですが、表面の反射を最小限に抑えて小さな点でも見逃すことがないよう、室内は照明の照度が下げられており、暗い環境が維持されています。

自家用機で横田基地を離着陸するレア体験も

また気温も少し肌寒いくらいの低い温度が維持されています。これは使われている大量の電子機器類の故障率を下げるために有効とのハナシでした。ここで実際の運用状況を肌身で感じ、照度も気温も安全優先のために低く抑えられていることを体感することができました。

レーダー管制室では、計器飛行を行う航空機が使用する航路や高度などの指示を離陸前に出す「クリアランス・デリバリー」と呼ばれる業務も行っています。横田基地では、基地を飛び立つ航空機へのクリアランス・デリバリー業務に加え、調布空港を発着する新中央航空の離島便へのクリアランス・デリバリー業務も行っています。

今回、横田基地で開催された航空安全会議は午前中のセッションミーティングに始まり、午後は見学など盛りだくさんの内容でしたが、この会議の最大の特徴は、参加目的の航空機には着陸許可が出ることです。今回はモーターグライダー1機を含め総数14機が着陸を許可されました。アメリカ軍基地に日本の自家用機の着陸が許可されることはとても異例なことですが、この特別な配慮には横田空域の航空安全を最優先するアメリカ空軍の並々ならぬ意気込みが感じられます。

過去には横田基地のように、レーダー管制空域を運用しているアメリカ海兵隊岩国基地においても航空安全会議が行われていました。その際にも参加者の航空機は着陸を許可されました。

このような内容の航空安全会議は在日米軍基地だけで開催されてきましたが、今までに行われてきた航空安全会議を参考にして、レーダーサービスを提供する自衛隊基地においても同様な内容で航空安全会議が行われれば、理解促進を図るという観点で大きな意義があるのではないかと筆者(細谷泰正:航空評論家/元AOPA JAPAN理事)は考えています。

アメリカ空軍横田基地の管制塔の中。普段は絶対に立ち入ることのできないエリアだが、今回特別に見学が許された(画像:アメリカ空軍横田基地)。