まさに新境地の開拓だ。映画「フィギュアなあなた」(2013年・石井隆監督)や「最低。」(2017年・瀬々敬久監督)、「愛の病」(2018年・吉田浩太監督)など、近年は個性派女優として目覚ましい活動を続ける佐々木心音が、ブラックコメディーに挑戦している。

 その作品「クオリア」(牛丸亮監督、11月18日より新宿K’s cinemaほか全国順次公開中)のストーリー解説には、次のように書かれている。

〈養鶏場を営む田中家に〝嫁いだ〟優子(佐々木心音)は、夫の姉である田中里実 (久田松真耶)にいびられながらも、慎ましく日々の生活を送っていた。そんなある日、優子の夫である田中良介(木口健太)の不倫相手、渡辺咲(石川瑠華)が養鶏場の住み込み従業員の募集に応募する形で、田中家を訪れる。面接を担当した優子は、咲が夫の不倫相手だとは知らずに採用を決めてしまう。かくして亭主の不倫相手を交えた、田中家の奇妙な共同生活が始まる…〉

 なにやら異常な世界が描かれていることを窺わせるが、当の主演女優はどう考え、どう演じたのか。「サレ妻」としての撮影現場を独占激白した。

――夫の不倫相手と同居するという、極めて異常な家族の話です。

佐々木 いやぁ、もし私が優子だったら、絶対に拒否してしまいますね。追い出すか、出て行くか。この「クオリア」のような生活は、ありえません。絶対に無理です(笑)。

――でもこの物語では、何もなかったかのように、夫の不倫相手を住まわせるんですね。

佐々木 それが謎であり、いったい何を考えてるのだろうと、初めは悩みました。ダメな夫が可愛いのか、こんな愛人に家族を壊されてたまるものか、なのか。夫に怒ったり、夫の不倫相手と喧嘩することもなく、いつも彼女は笑顔なんですよね。きっと女性から見たら、はじめはイライラすると思います。できる妻というわけでもないですし。でも、不思議と最後まで見ると、また違った感情が生まれる、と言ってくださる方が多いです。ブラックなホームドラマと言われたり、ホラーともいう方もいるし。見る人によって、映画のジャンルまで変わってしまう、不思議な映画。私にとっては、宇宙から地球の生物を俯瞰しているような物語にも見えますね。

――役どころはいわゆる「サレ妻」ですが…。

佐々木 浮気相手になる役は来たことがないんです。いつも彼氏や夫を取られたり、される側ばかりで、いわゆる「サレ妻」が多い。そういう雰囲気があるんでしょうか。 今回は、だからもうサレ妻女優の代表作として頑張ろうか、と(笑)。「浮気される妻」という中でも、この優子は新しい感覚の妻かもしれません。 全編、受け身の芝居だったので、個人的にはストレスがすごかったですが、楽しかったです。難しい役はやりり甲斐がありましたし、すごく展開が面白い台本ですし。

――これが「サレ妻女優」の代表作となれば、今後は小悪魔のような役にも挑戦してほしいところです。

佐々木 はい、何でもやりたいです。小悪魔もいいですが、とことん悪魔のような悪役とか。今回の作品とは真逆をやってみたいですね。

――女優として日々、実践していることは何かありますか。

佐々木 うーん…映画や舞台を何でも見ることかな。どんなものでも本当に勉強になるから、私は限定せずに取り入れています。目指す俳優は、ジャックニコルソンです。本気なんですが、性別や見た目が違うだけで「無理だよ」って言われるのがよくわからないんです。中身の話なのに。女優では「デスペラード」や「フリーダ」のヒロイン、サルマ・ハエックが好きなんです。本当にかっこよくて、でもそれだけじゃなく、振り切った役も多い。ただただ、憧れです。

――母あってのヒロインになり切れました。

佐々木 実は感情が分かりにくい今回の優子の役作りをする上で悩んだ時に、母の名前が出てきて…字が違うんですが、同じ「ゆうこ」で。全部じゃないですけど、天然なところやドジの加減が母を思わせて、「そうだ、母をモデルにしてみよう」と。そこからは迷いなく「クオリア」の優子になりきれました。母はきっと「私、あんな感じじゃないよ」って笑いながらいうでしょうけど。

アサ芸プラス