11月17日Nintendo Switchで『スーパーマリオRPG』が発売された。1996年3月9日スーパーファミコン用ゲームソフトとして発売された同名タイトルのリメイク作だ。

参考:【写真】『スーパーマリオRPG』2つのオリジナル版攻略本

 オリジナルの『スーパーマリオRPG』は、発売から25年以上の時が過ぎ去った現在もなお、スーパーファミコン末期に発売された名作のひとつとして、リアルタイムで遊んだ世代を中心に高い支持を集めていると同時に、強い話題性を維持している。

 支持を集めている背景には、ゲームの中身に対する評価があるのは確かだ。しかし、話題性がいまなお維持されているのはなぜか?

 それは考えられる限り、本作はゲームの”外側”でもさまざまな話題に富んでいたのが影響しているのだろう。とりわけ象徴的なのは、スクウェア(現:スクウェア・エニックス)と任天堂のコラボレーションによって生まれた作品というものだ。また、本作の発売から間もなく、任天堂スクウェアの関係が大きくこじれてしまったことも、ある意味ではそのひとつといえる。

 ほかに挙げられるのがテレビコマーシャルだ。パックンフラワーの素敵な歌声と共に奏でられるその内容は、当時を知る世代なら耳に焼き付いてしまっているのではないだろうか。

 そんな『スーパーマリオRPG』の”外側”の話題のなかで、筆者が真っ先に浮かぶのは攻略本だ。

 『スーパーマリオRPG』に限らず、当時の任天堂から発売されたゲームソフトでは、決まって「任天堂公式ガイドブック」という任天堂の監修が入った攻略本が小学館より発売されることが定番になっていた。もちろん、『スーパーマリオRPG』でも任天堂公式ガイドブックは刊行。“すべての秘密がわかる!完全攻略版”と称された「FINAL EDITION」なるものが登場した(※2023年現在は絶版)。

 しかし、オブラートに包まず言うと、『スーパーマリオRPG』の任天堂公式ガイドブックはプレイヤー視点からして地味で物足りない内容だった。

 それ以上にアスペクト(※後のエンターブレイン、現KADOKAWA)より刊行された『スーパーマリオRPG 星空からのおくりもの』(以下、「星空からのおくりもの」。2023年現在絶版)の方が内容面では充実していて、「これこそ本当の任天堂公式ガイドブックでは?」と思えるほどの完成度だったのである。

 それが筆者の中では、外側の話題で最も印象的なもののひとつとなっている。

攻略本としてでなく、読み物としても面白い内容だった任天堂公式ガイドブック

 そもそも、任天堂公式ガイドブックとはそんなに魅力的な攻略本だったのか? それに対する回答はいち読者の視点になるが、「非常に魅力的な攻略本だった」の一言に尽きる。

 ゲーム本編の攻略に限らず、書き下ろしのコラムに漫画、ネタ満載の資料集、果ては開発スタッフへのインタビューといったものも掲載され、単純に読み物としても面白い本に仕上げられていたのだ。

 特に1989年ファミリーコンピュータファミコン)用ゲームソフト『MOTHER』の企画開発などを目的に設立された株式会社エイプの編集による任天堂公式ガイドブックは、その特徴がひときわ現れていた。時期としては1991年から1996年の間に刊行されたシリーズで、このあたりの任天堂公式ガイドブックはコラムあり、漫画あり、開発スタッフインタビューありの大変魅力的な内容になっている。

 なかでも普段、あまり表に顔を出さない任天堂のクリエイター陣にも直撃した開発スタッフインタビューは、2023年現在の視点から見ても極めて史料価値の高いものと言えるだろう。そして、このようなインタビューおよび質問アンケートが通例のように掲載されるのが、当時の任天堂公式ガイドブックにおける大きなセールスポイントであり、見どころでもあった。

 インタビューに限らず、書き下ろしのコラムや漫画もそれを象徴するものだ。前者に関しては、2023年現在の視点で見ると思わず「えっ!?」となるコラムも見受けられる。最も代表的なのは1990年発売の『スーパーマリオワールド』の任天堂公式ガイドブックだろう。153ページに『スーパーマリオ論「マリオな理由(わけ)」』なるコラムが掲載されているのだが、なんとこれを執筆しているのは、現株式会社ポケモン代表取締役社長兼株式会社クリーチャーズ・ファウンダーの石原恒和氏(※当時は東京芸術大学講師)である。

 また、公式ガイドブックでは作品を問わず、漫画家・しりあがり寿氏によるカオスすぎる漫画や特集記事も掲載されていた。

 数ある作品の中で群を抜いて強烈というか、筆者個人としても多分、未来永劫記憶に残り続けそうなのが、1994年ゲームボーイで発売された『ドンキーコング』の公式ガイドブックに掲載された漫画、その名も『ハッスルドンキー!』である。ストーリーを始めとする詳細な内容の解説は省くが、ツッコミが追い付かない衝撃的な展開の数々と、マリオの危なすぎる(というか、完全にアウトな)セリフには、いろいろな意味で戦慄必至である。

 そんな攻略情報以外の見どころが満載だった任天堂公式ガイドブックは、当時読んだ世代の間で語り草にされている。ヒップホップグループ「スチャダラパー」のBOSE氏も、ほぼ日刊イトイ新聞のインタビューで「とくにエイプが監修してたこのへんの本は段違いにデキがいいんですよ。」とのコメントを残しているほどだ。

 筆者自身も当時、公式ガイドブックを買い集めていた。『スーパーマリオRPG』も当然のように購入を視野に入れていて、これまでの傾向からユニークな内容になることを勝手に期待していたのだった。

 ところが、実際は「星空からのおくりもの」の方が、公式ガイドブックというにふさわしい内容だったのである。

■「星空からのおくりもの」の情報量は任天堂公式ガイドブックを上回っていた。さらに……

 公式ガイドブックこと「FINAL EDITION」と「星空からのおくりもの」。その2冊の印象を決定的に分けたのは情報量だ。

 特に本編の舞台となるマップに描き込まれている攻略情報は、「星空からのおくりもの」の方が圧倒的に多い。町の道具屋で販売されているアイテムの一覧とそれぞれの価格、登場する敵モンスターたちの情報、隠し宝箱の位置などが詳しく掲載されている。

 「FINAL EDITION」のマップには必要最低限の情報、各フロアのつながりと宝箱に入っているアイテムぐらいしか掲載されていない。敵モンスターの情報はおろか、ボスの攻略法(戦術指南)も掲載されていないのである。

 情報量が少ないぶん、マップの全容が確認しやすい強みがあるのだが、どんな敵モンスターが登場し、どう対処すればいいのかが書かれていないため、攻略情報としては素っ気ないものになってしまっている。そのような情報は93ページ以降のデータベースに集約する形でまとめられてしまっているのだ。しかし、そこにも戦術指南は一切なく、ただデータを載せているだけに留まっている。

 逆に「星空からのおくりもの」には最小限ながら戦術指南がある。また、敵の情報もキャラクターのCGイラスト付きで見分けが付きやすく、どの攻撃が最も効果的で、逆にまったくダメージを与えられないのかをアイコン付きで紹介した表も掲載されているのだ。

 情報量が多いぶん、ゴチャゴチャしているという難点もあるのだが、どちらが攻略本として有用かはプレイヤー視点からすれば明らかだろう。それほど情報量に差があり、「星空からのおくりもの」の方が公式ガイドブックでは、と言えるほどの内容になってしまっている。

 ほかにも「星空からのおくりもの」には独自の見どころが多数ある。

◆武器・スペシャル技のモーションおよびアクションコマンドのタイミング情報が掲載されている

 それぞれの武器・スペシャル技を使った際、マリオを始めとするキャラクターたちがどう動くのかをコマ単位で紹介した情報が掲載されている。また、どのタイミングでボタンを押せば、攻撃力アップのボーナスこと「アクションコマンド」が発生するかの情報も記載。基本的にキャラクターのグラフィックが色付きのところが押すタイミングとして紹介されている。

◆敵モンスターを含む、ほぼすべての登場キャラクターのCGイラストが掲載されている

 公式ガイドブックこと「FINAL EDITION」でも表紙と裏表紙にキャラクターのCGイラストが掲載されている。しかし、「星空からのおくりもの」にはそちらでは省かれているキャラクターのCGイラストが掲載されている。代表的なところでは、ボスのひとり「ブーマー」がいる。また、本編ストーリーの黒幕「カジオー」のCGイラストもこちらには掲載されている。

◆ボス「オノレンジャー」の特撮番組風ロゴが掲載されている

 終盤に登場するボス「オノレンジャー」だが、「星空からのおくりもの」には特撮番組を模したロゴが掲載されている。作中では「カジオーせんたオノレンジャー」との表記だが、ロゴでは「鍛冶王戦隊オノレンジャー」と記されている。

 なお、この特撮番組風のロゴは攻略本のスタッフが独自に作ったものなのか、あるいは公式のものなのかは不明。

◆雑魚からボスまで、全ての敵キャラクターの「なにかんがえてるの」のテキストがデータベースに網羅されている

 おそらく「星空からのおくりもの」における最大のセールスポイントだろう。149ページ以降に雑魚とボスを含む敵モンスターのデータが掲載されているのだが、なんとマロのスペシャル技のひとつ「なにかんがえてるの」を使った際に表示される心の声のテキストがそのまんま掲載されている。

 一部、省かれている敵の情報もあるのだが、ほぼすべての敵に対して使った際の効果を掲載しているのは、まさにこの攻略本の執筆と編集を担当したスタッフの熱意の賜物と言ってもいいだろう。

 また「星空からのおくりもの」には続編となる「裏テクニックガイド」が存在する。

 こちらでは元から充実していた情報量がさらに増加。キャラクターのCGイラストも増え、なんと裏ボスクリスタラー」のCGイラストも掲載されている。

 ただ、実際はドット絵であるクリスタラーの元グラフィックにアンチエイリアスを施した感じの“のっぺり”としたものになっている。とはいえ「星空からのおくりもの」に限らず、「FINAL EDITION」にもない、詳細な戦術指南が掲載されているのは特筆すべき部分だ(ちなみにラスボスの最終形態を含む、すべてのボスに戦術指南が掲載されている)。

 逆に「裏テクニックガイド」では「なにかんがえてるの」のデータが省かれてしまっているのだが、それでも情報量の多さでは「星空からのおくりもの」以上で、最終決定版(FINAL EDITION)というにふさわしい攻略本になっている。

 そのような強みの数々から、『スーパーマリオRPG』の攻略本と言えば、公式ガイドブックより「星空からのおくりもの」がおススメと言いたくなるほどの大きな差があった。明らかにこちらの方が公式ガイドブックだと言えるレベルで完成度に差があったのだ。

 本稿の執筆にあたって、筆者は久しぶりにこの2冊と公式ガイドブックを引っ張り出して中身を見たのだが、やはり情報量の多さでは圧倒的に「星空からのおくりもの」と「裏テクニックガイド」が上回る。公式ガイドブックの「FINAL EDITION」も情報量が少ないなりの見やすさはある。しかし、戦術指南が未掲載、道具屋で販売されているアイテムの情報がない(※データベースの104~106ページ側に分離されている)など、物足りなさは否めない。

 なにより、それまでの公式ガイドブックとは異なり、『スーパーマリオRPG』の公式ガイドブックには書き下ろしのコラムも漫画も、開発スタッフのインタビューも掲載されていない。純粋な攻略本として終わってしまっているのだ。

 そうした内容もあってか、『スーパーマリオRPG』の任天堂公式ガイドブックは、2023年現在で見ても史料的な価値は低い。シリーズ全体で見ても珍しく、セールスポイントと見どころに欠ける本になってしまっているのだ。

 これほどの大きな差があったことから、当時の筆者は公式ガイドブックを購入して中身を見終えた後、随分ガッカリした記憶がある。同時に、『スーパーマリオRPG』の本当の公式攻略本は、どちらかというと「星空からのおくりもの」の方だとの印象が強烈に植え付けられたのだった。実際、当時攻略本を買っていた直撃世代でも、この「星空からのおくりもの」の方が良かったという感想を持った人は少なくないのではないだろうか。そのように推察してしまうほど、2冊(+1冊)の情報量の差は歴然だったのである。

■思い返せば、何かの制約が働いていた感じのある『スーパーマリオRPG』の外側

 なお、『スーパーマリオRPG』の公式ガイドブックが発売された当時は、まだエイプ編集によるシリーズが刊行されていた。『スーパーマリオRPG』の公式ガイドブックも、エイプ編集によるものである。

 ただ、エイプは1995年頃から知的財産権を管理する会社へと変化し始めた影響なのか、徐々に純粋な攻略本としての任天堂公式ガイドブックが出てくるようになっていた。事実、『スーパーマリオRPG』の前にも『スーパードンキーコングGB』、『スーパーマリオ ヨッシーアイランド』、『スーパードンキーコング2 ディクシー&ディディー』といった、コラムや開発スタッフインタビューが掲載されていない、純粋な攻略本としての任天堂公式ガイドブックが刊行されている。

 ただ、それらの公式ガイドブックと比較しても『スーパーマリオRPG』の公式ガイドブック記載の情報量には、明らかな物足りなさがある。また、『スーパーマリオRPG』と同じ、1996年生まれのスーパーファミコン用タイトル『星のカービィ スーパーデラックス』、『ファイアーエムブレム 聖戦の系譜』も、それぞれ公式ガイドブックが発売されている。

 ところが『星のカービィ スーパーデラックス』は特別な漫画の掲載、『ファイアーエムブレム 聖戦の系譜』はディレクターへの直撃インタビューなど、それまでの任天堂公式ガイドブックらしいセールスポイントを持った本に仕上げられている(※ちなみにこの2冊はエイプ編集のシリーズではない)。それを踏まえると、『スーパーマリオRPG』の物足りない内容は明らかに浮いており、なんらかの事情が影響した可能性を疑ってしまうのだ。

 思えば『スーパーマリオRPG』の外側、とりわけメディアミックス周りには不遇と思しき動きも見られた。小学館『コロコロコミック』連載の『スーパーマリオくん』でストーリーが最後まで描かれず、(ほとんど強制的に)打ち切られ、単行本にも収録されずに終わったのがそのひとつだ(※のちに発売された単行本50、51巻に約20年以上遅れる形で収録)。講談社コミックボンボン』に連載されていた本山一城氏のマリオ漫画に至っては、『スーパーマリオ64』編の1話冒頭で1コマだけ言及されておしまいと、『スーパーマリオくん』のようにストーリーすら描かれていない。

 こうした動きをいまになって振り返ると、公式の監修が入るものほど制約があったのか、逆に「星空からのおくりもの」のように監修が最小限なものはある程度自由にできたのかなど、少し勘ぐってしまうところだ。漫画に関しては、1996年6月に『スーパーマリオ64』の発売が控えていたという事情も影響していると思われるが。

 あれから25年が経ち、一時期は修復不能なレベルにまで陥りかけたとされる任天堂スクウェアスクウェア・エニックス)の関係は改善。2006年にはニンテンドーDS向けに発売された『マリオバスケ 3on3』で久しぶりにコラボレーションを果たしている。その後も良好な関係を維持しながら今回、リメイク版が発売されるまでつながった。

 ちなみにリメイク版には、「なにかんがえてるの」の心の声を敵モンスターごとに確認できる「モンスターリスト」が新たに追加されている。「星空からのおくりもの」を知る人間からすると、ゲーム内機能としての実装は大変感慨深く感じると同時に、当時は容量的に困難だったと思しき要素を実現できるようになった技術の進歩を感じられるところだ。

 逆に攻略本に関する情勢は、インターネットの隆盛と浸透によって、当時にも増して厳しいものになってしまった。任天堂公式ガイドブックも2018年発売の『星のカービィ スターアライズ』を最後に刊行されなくなり、事実上の終焉を迎えてしまっている。残念ながら、リメイク版『スーパーマリオRPG』の任天堂公式ガイドブックが刊行される可能性はほとんどないに等しいだろう。

 ただ、任天堂公式ガイドブックの中には『MOTHER』、『スーパーマリオコレクション』のように新装版として復刻されたケースもある。なので、『スーパーマリオRPG』も当時、掲載できなかったさまざまな情報を含んだ本当の「FINAL EDITION」が登場しないかと、密かに期待してやまないこの頃だ。同じようにアスペクトこと現KADOKAWAからも、当時を思い起こさせるようなユニークな攻略本が発売され、双方が内容面で張り合う……みたいな展開を楽しみにしているのは自分だけだろうか。

 だが、それ以上に楽しみなのはマリオのRPGシリーズに再始動の機運が見られることだろう。

 2024年には『スーパーマリオRPG』から派生したシリーズ『ペーパーマリオ』の2作目をリメイクした『ペーパーマリオRPG』がNintendo Switch向けに発売される。また、リメイク版『スーパーマリオRPG』の発売4日後の11月21日には、同じく『スーパーマリオRPG』からの派生で、精神面なども色濃く受け継いだ『マリオ&ルイージRPG』第1作の発売から20年を迎える。

 ただ、『マリオ&ルイージRPG』は開発元の倒産により、シリーズ復活の可能性は絶望的としか言いようがないほど厳しい状況にある。とはいえ、このような機運が高まりつつある状況。なんらかの動きがあることを密かに祈りたいところである。

(文=シェループ)

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