現在放送中のNHKの大河ドラマ「どうする家康」で、“徳川四天王”“徳川十六神将”筆頭の重臣として知られる“左衛門尉”こと酒井忠次を好演した大森南朋の勢いが止まらない。

【写真を見る】羽柴秀吉役ビートたけしの容赦ないアドリブに羽柴秀長としてコミカルに応えた大森南朋(『首』)

■生涯をかけて家康に尽くした「どうする家康」の酒井忠次

石川数正(松重豊)と共に戦嫌いで経験の浅い若き徳川家康(松本潤)を見守り、様々な局面で的確な助言をしてきた忠次。そんな功臣を温かな眼差しと懐の大きな安定した芝居で演じた大森は、家康だけではなく、視聴者の心の拠り所となり、多くのファンを獲得していった。

例えば、石田三成(二代目中村七之助)と楽しそうに星の話をしている家康を遠目に眺めながら、「殿は戦などではなく、ああいう話をしたかったお人じゃ」としみじみ語る何気ないシーン(第35話「欲望の怪物」)でのその包み込むような芝居が印象的。絶妙な距離感と愛おしむような眼差し、心からの声に家康に対する忠次の想いが感じられ、ドラマをより味わい深いものにしていた。

それだけに、第36話「於愛日記」から急激に老け込んだ白髪の忠次が最期の日を迎える第39話「太閤、くたばる」は、涙なしでは観られなかった。徳川秀忠(森崎ウィン)と共に家康のもとを久しぶりに訪ね、主君と一緒に駆け抜けてきた戦乱の日々を振り返る忠次。そんな彼が改めて「嫌われなされ、天下を取りなされ」と訴えるからこそ、その言葉には重みがあり、家康を奮い立たせる。

さらに老体に鞭を打ち、目もほとんど見えない状態で得意の宴会芸「海老すくい」を披露するシーンの大森は圧巻!本来はクスッと笑えるはずのユーモラスな舞なのだが、その姿に観る者は思わず涙を誘われ、SNS上でも「グッときた」「海老すくいで泣いちゃうなんて!」といった声が多数寄せられた。降り積もる雪のなか、「(殿のもとに)参らねば」と鎧を着けたところで静かに息を引き取る最期も、忠次の穏やかな笑顔を携えた表情と親しみやすい人柄を大森は全身からにじみ出る優しさで体現し、多くの視聴者の感動を呼び起こしたのが記憶に新しい。いまも“忠次ロス”が続いている人は少なくないはずだ。

そんな人たちへの朗報になるかどうかはわからないが、大森は今回の大河ドラマと同じ戦乱の世を舞台にした北野武監督の最新作『首』(11月23日公開)でも(のちの)天下人を支える戦国武将を演じている。

■秀吉のアドリブ(?)に翻弄されるコミカルな羽柴秀長

『首』で大森が扮したのは、羽柴秀吉(ビートたけし)の弟である羽柴秀長(「どうする家康」でこの役を演じたのは佐藤隆太)。黒田官兵衛(浅野忠信)と共に、“天下取り”を虎視眈々と狙う秀吉をサポートするポジションだが、ここで描かれる秀長は兄の腰巾着で、頭脳明晰な策士の官兵衛に嫉妬しながらも、どこかヌケていて頭の回転も悪い。官兵衛も呆れるその鈍臭いキャラは、全幅の信頼を寄せることができた忠次とは似ても似つかぬもの。大森はこの憎めない秀長に、大河の時とはまるで違う飄々とした芝居で息を吹き込んでいて目が離せない。

大森が北野武監督の作品に出演したのは『Dolls(ドールズ)』(02)、『アキレスと亀』(08)、『アウトレイジ 最終章』(17)に続いて、今回で4作目。このことからも北野監督が大森のことを信頼しているのがよくわかるが、その安心感からなのか、秀吉に扮したビートたけしは台本にないアドリブのセリフを容赦なく、楽しそうに浴びせまくる。まるで、千本ノックのように。

大森はそれに動揺し、怯みながらもアドリブで返し、時に現代語混じりで食らいつくのだが、その姿がなんともコミカルで微笑ましい。秀長のポンコツぶり、ふざけた感じをにじませながらも、自身が持つ大らかなキャラで憎めない人物に。新たな持ち味を覚醒させた大森南朋に、またまた魅了されてしまった。

文/イソガイマサト

2人の異なる天下人の忠臣を演じた大森南朋に注目!(『首』)/[c]2023 KADOKAWA [c]T.N GON Co.,Ltd.