2023年もあと1ヵ月半となり、そろそろサラリーマンの方は職場で「年末調整」の用紙が配られているのではないでしょうか。年末調整確定申告は「払いすぎた税金」を取り戻す手続なので、「申告漏れ」がないようにしたいものです。そこで、本記事では、年末調整確定申告でついうっかり、あるいはそもそも知らずに「申告漏れ」をしてしまうケースが多い「所得控除」を5つ取り上げて説明します。

年末調整・確定申告は「払いすぎた税金」を取り戻すチャンス

年末調整とは、「税金として給与から源泉徴収された金額」から「本来の税金の額」を差し引いた額を精算するための手続きです。つまり、源泉徴収の段階で払い過ぎていた税金を、取り戻すためのものです。

年間の給与収入額が2,000万円以内の人は、以下の書類を勤務先に提出します。なお、年間の給与収入額が2,000万円を超える人は「年末調整」ではなく、翌年に「確定申告」をしなければなりません。

年末調整で提出する書類】

・扶養控除等申告書(勤務先で配布)

・基礎控除申告書 兼 配偶者控除等申告書 兼 所得金額調整控除申告書(勤務先で配布)

・保険料控除申告書(勤務先で配布)

・住宅借入金等特別控除申告書

年末調整においては「所得控除」等、税金を軽減するものの一部について申告を行うことになっています。その他にものは翌年になってから「確定申告」で申告します。

払いすぎた税金は、年末調整または確定申告で申告しないと返ってきません。税金を払う場合も、払いすぎた税金を取り戻す場合も、いずれも「申告漏れ」は避けたいものです。

勘違いで「申告漏れ」しがちな5つの所得控除とは

所得控除は全部で以下の15種類です。

雑損控除/医療費控除(セルフメディケーション税制を含む)/社会保険料控除/小規模企業共済等掛金控除/生命保険料控除/地震保険料控除/寄附金控除/障害者控除/ひとり親控除・寡婦控除/勤労学生控除/配偶者控除・配偶者特別控除/扶養控除/基礎控除

これらのうち、年末調整確定申告で、特に申告漏れが起きやすいとみられるものは以下の5つです(ひとり親控除・寡婦控除はまとめて1つとして扱います)。

・ひとり親控除・寡婦控除(年末調整、または確定申告

生命保険料控除(年末調整、または確定申告

・地震保険料控除(年末調整、または確定申告

・通常の医療費控除(確定申告

・医療費控除のセルフメディケーション税制(確定申告

それぞれについて説明します。

◆ひとり親控除・寡婦控除

ひとり親控除とは、「ひとり親」が35万円の所得控除を受けられる制度です。婚姻歴の有無にかかわらず、シングルマザー・シングルファーザーで所定の所得等の要件(後述)をみたす人が対象となるので、忘れずに申告する必要があります。サラリーマンならば年末調整で「扶養控除等申告書」によって申告できます。

ひとり親控除は、まだまだ認知度が低い制度なので、特に婚姻歴のないシングルマザー・シングルファーザーが知らずに申告していないケースが相当数あると想定されます。

というのも、少し前までは「寡婦控除」「寡夫控除」として、婚姻歴のあるシングルマザー・シングルファーザーしか控除を受けられなかったからです。しかし、それでは法の下の平等に反するということで、2020年から「ひとり親控除」として統合され、婚姻歴の有無は関係なくなりました。なお、「寡夫控除」は廃止されましたが、「寡婦控除」は、婚姻歴のある女性が「子ども以外の親族」を扶養するケースのための制度として存続しています。

「ひとり親控除」は、以下の要件をみたせば35万円を受け取ることができます。

・婚姻をしていない、あるいは配偶者の生死が不明

・生計を同じくする子がいる

・子の所得の合計額が48万円以下

・自身の合計所得金額が500万円以下

・事実婚状態にない

制度改定があったことを知らずに申告していないケースが想定されるので、思い当たる人は忘れずに申告してください。

生命保険料控除

生命保険料控除は、生命保険や医療・介護保険、個人年金保険等の保険料の一部について所得控除を受けられるものです。サラリーマンならば年末調整で「保険料控除申告書」によって申告できます。以下の3種類があります。

・一般生命保険料控除:生命保険(死亡保険)一般が対象

・介護医療保険料控除:医療保険、がん保険、働けなくなったときの保険等が対象

・個人年金保険料控除:個人年金保険が対象

年末調整で申告するには、「保険料控除申告書」に必要事項を記入し、保険会社から送られてくる「控除証明書」をに添付すればよいことになっています。しかし、以下のような事情で、申告漏れをしてしまうことがあります。

生命保険に付加されている「入院・手術等の特約」について申告を忘れるケース

・控除証明書を紛失したまま、面倒になって申告しないケース

まず、生命保険に「入院・手術の特約」が付加されている場合、生命保険の主契約とは別のものとして、「介護医療保険料控除」の対象となります。

次に、控除証明書を紛失してしまった場合は、保険会社に連絡すれば再発行してくれます。誤って捨ててしまうケース等が多いらしく、ほとんどの保険会社が、「再発行」の事務専門の窓口を設けています。ぜひ、気軽に連絡して再発行を受けるようにしてください。

◆地震保険料控除

地震保険料控除は、その年度中に地震保険の保険料を支払ったら、保険料の全額または一部について所得控除を受けられるものです。これも、サラリーマンは年末調整で「保険料控除申告書」によって申告できます。

なぜ、この地震保険料控除を忘れがちかというと、理由があります。地震保険は独立した「地震保険」という商品があるわけではなく、火災保険に「地震危険補償特約」を付けるという形でしか加入できないからです。したがって、火災保険と一緒に地震保険にも入っているという自覚がなく、申告漏れになってしまうケースがあるのです。

なお、地震保険(火災保険の「地震危険補償特約」)は入っておくに越したことはありません。なぜなら、地震に起因する建物や家財の損害(火災による焼損等)は、火災保険本体ではカバーしてもらえないからです。

◆通常の医療費控除(確定申告

医療費控除は、2017年から「通常の医療費控除」と「セルフメディケーション税制」の2種類に分かれています。

通常の医療費控除は、その年度の医療費が10万円を超えた場合にその超過額について所得控除を受けられるものです。年末調整ではなく、確定申告をする必要があります。対象となるのは、以下の費用です。

・医師等による診療・治療のために支払った費用

・治療や療養に必要な医薬品の購入費用

要注意なのが、一般的に思い浮かべる「医療費」のイメージと異なり、治療のために必要なものが広く含まれるということです。国税庁のホームページで細かく定めており、「え? こんなものまで?」というようなものも含まれていますので、迷ったら確認することをおすすめします。

特に申告漏れしやすいものを一つ挙げると、医療機関へ行く際にかかった公共交通機関の「交通費」です。「医師等による診療・治療のため支払った費用」といえるので、医療費控除の対象となります。通院のついでに買い物等に行った場合も、「治療のため支払った」であることは変わりないので、除外されません。なお、タクシー代については、最寄りの公共交通機関へ行くこと自体が困難であるなどの特段の事情がない限り対象外です。

◆セルフメディケーション税制

セルフメディケーション税制は2017年から始まった医療費控除の一種です。厚生労働省が指定した所定の医薬品の年間の購入金額が1万2,000円を超えた場合に、その超過額について所得控除が認められるものです。通常の医療費控除と同様、確定申告をする必要があります。

セルフメディケーション税制の対象となるかどうかは、その医薬品のパッケージに記載されている共通のロゴ、あるいは、レシートの印で判別できます。湿布や栄養ドリンク等、「えっ? こんなものも?」というものが対象となっていることがあります。

なお、セルフメディケーション税制を利用する場合には、通常の医療費控除は利用できません。両方の要件をみたすならば、どちらか有利なほうを選ぶことになります。

過去の申告漏れも「5年前まで」なら取り戻せる

ここまでご覧になって、過去の申告漏れに気付いた方はもいるかもしれません。しかし、「安心してください、取り戻せますよ!」

5年前までの申告漏れであれば、「更正の請求」という手続きをすることによって「還付」を受けることができます。「更正の請求書」は国税庁HPで簡単に作成できます。ただし、当然のことながら、必要な資料を紛失してしまった場合には再発行を受けるなどして揃えなければなりません。

本記事では、年末調整確定申告でつい申告し忘れがちな5つの所得控除について解説してきました。物価高騰のおり、税金を払いすぎたままでは大変もったいないことになります。今年以降申告し忘れることがないようにするとともに、もし、過去5年以内に申告し忘れたものがある場合は、「更正の請求」を利用して還付を受けることをおすすめします。

(※画像はイメージです/PIXTA)