親が残した遺言書の内容や生前の親の介護・看護への寄与度など、原因はさまざまですが、親が亡くなった後に遺産分割をめぐるトラブルが発生するケースは珍しくありません。本稿では、古尾谷裕昭氏監修の『生前と死後の手続きがきちんとわかる 今さら聞けない相続・贈与の超基本』(朝日新聞出版)より一部を抜粋し、相続トラブルのケーススタディーをみていきます。

長年、義理の親を介護してきた労力を認めてほしい

10年以上にわたり介護してきた夫の父親を最近看取りました。

相続に際し法定相続人ではないうえ、夫もすでに他界しているため夫へ分配されるはずだった分を受け取ることもできません。長年の介護への対価を主張できるのでしょうか?

【ANSWER】 被相続人に寄与したと認められる場合は相続人に対して特別寄与料の支払いを請求することができる

特別寄与とは

被相続人に対して療養看護その他の労務の提供を行ったことにより、被相続人の財産の維持または増加に無償で寄与したと認められる行為のこと。

特別寄与料は、特別寄与者から相続人に請求し、両者の話し合いによって決める。

介護によって寄与した分を相続時に主張できる

被相続人の生前、親族が長年介護していた、しかも息子の妻がその主な担い手であったというのはよくあるケースです。

この場合、相続財産の分配の際に息子の妻は取り分を主張できるのでしょうか。

介護など被相続人に利する労務が評価されるべきであるという考えのもと、寄与した親族は特別寄与料を請求できます。

旧民法ではその権利があるのは相続人のみでしたが、2019(令和元)年の改正後は、法定相続人ではない親族、例えば子どもの配偶者でも特別寄与料を請求できることになりました。

つまり、息子の妻が介護を担っていた場合もその寄与分を主張できます。

生前に対策をしておこう 寄与分は請求したからといって必ずしも認められるものでもなく、仮に認められたとしても想定より少ない金額であることが多いです。そのため生前の対策が重要となります。 1.遺言書の作成 遺言によって相続人以外の人に財産を遺すことができる。その際にほかの相続人の遺留分を侵害するような配分にするとトラブルの原因となるため注意する。 2.生前贈与 生前に贈与をすれば、介護した家族へ確実に財産を渡すことができる。相続人以外にも贈与することができ、受け取る額が年間110万円以内であれば、課税対象から外れる。 3.養子縁組 息子の妻など、相続人以外でも養子縁組をすることで法定相続人として財産を受け取れる。ただし、ほかの相続人の配分が減るためトラブルにつながるリスクもある。 【プラスアルファ相続税率が通常より高いことに注意 特別寄与料を受け取った人は遺贈により相続財産を取得したことになり、相続税を納める必要があります。特別寄与者は被相続人の一親等の血族および配偶者に該当しないため、相続税額の2割加算の対象となり、ほかの相続人より税率が高くなります。

遺言書に異議申し立てをする方法は?

3人きょうだいの次男で、先日父親が亡くなりました。遺言書には「長男に全財産を譲る」と書かれていて、長女と自分への分割についてはまったく触れられていませんでした。

長女も私もこの内容に納得がいきません。異議を申し立てる方法はあるのでしょうか?

【ANSWER】 遺言書が有効で遺留分を侵害していれば、遺留分侵害額を請求できる

不当な遺言書に対して最低限の権利は主張できる

被相続人が遺言書を残していた場合、原則としてその内容に従って遺産相続が行われます。

ただし、遺言書が絶対ではなく、遺言書自体が有効と認められない場合や、相続人がその内容に納得できない可能性もあります。

具体的には、被相続人が個人的に作成し法務局にも公証役場にも届けていない、遺言書が法的要件を満たしていない、不当に低い分配が指定されている、などのケースが考えられます。

遺言書の内容が開示されたのち、相続人の間で不満が出た時は、最低限の権利である遺留分(法定相続分の2分の1など)を主張できます。

遺言書に納得がいかない場合の対策

①遺言書の無効を主張

②相続人全員で分割協議

③遺留分の請求

遺言書が無効となる可能性があるケース

遺言書といっても故人が一人で作成し自分で保管していた場合には、公証人と一緒に作成し公証役場で保管していた場合とは異なり、無効となることがあります。

【プラスアルファ】遺言によって遺産を受け取る人がいる場合 相続人だけでなく受遺者がいる場合に、遺留分を侵害する遺言があった時は相続人と受遺者全員の合意があれば遺産分割協議によって財産を分けますが、合意がない場合は遺言に沿って相続することになります。

遺産分割でもめてしまい、話がまとまらない。どうすればいい?

亡くなった母親の遺産分割協議の最中に、次男と意見が対立して、感情的なもつれから弟は私からの連絡にも応じなくなってしまいました。どうしたらよいでしょうか?

【ANSWER】 相続人同士の話し合いで結論が出ない場合は、専門家の力を借りるのが得策

話がまとまらない時は調停で解決する

遺産分割協議に際して、相続人の間でなかなか合意に至らないというケースはよくあります。感情的になって話し合いができない、または話し合いの内容に納得がいかないということもあるでしょう。

そうした場合には、家庭裁判所に申し立てをして調停で解決する手段があります。相続人からの申し立てに応じて遺産分割調停委員会が立ち上がり、専門家である調停委員が相続人全員の意見や生活状況などを聞き取ったうえで、分割方法を提案します。

それでも全員が納得しない場合は、審判へ移行し裁判官による判断を仰ぎます。

遺産分割調停とは:相続人の1人もしくは複数人が家庭裁判所に申し立てることによって実行される制度。裁判官と調停委員で構成された遺産分割調停委員会が各相続人の意見や経済状況を聞き取り、客観的な立場から最終的に分割方法を提案する。ただし、あくまで提案であって強制力はない。

遺産分割審判とは:調停を経ても相続人全員が納得しなかった場合、裁判へ移行し裁判官による判断が下される。判決に応じない相続人には「履行勧告」が出されることもある。最終的には民法に定める法定相続分に落ち着く事例が多いのが実状。

【遺産分割調停・審判の流れ】 ①家庭裁判所に申し立て 申立人  相続人1人以上 申立先  相手方の住所地の家庭裁判所 必要書類 申立書、遺産目録、相続人全員の戸籍謄本など 費用   被相続人1人につき 収入印紙1,200円分+切手代 ②調停委員会による聞き取り ・主に調停委員が相続人それぞれの意見や希望を聞き取り ・遺産の調査 相続人は弁護士などの専門家に相談・助言を求めるのもよい ③調停案の提示 調停委員会で検討して分割方法を提案 全員が納得 → 調停成立 1人でも拒否 → 裁判官による審判