「価値観の違う相手とどう話せばいいのかわからない」「こちらの話は聴いてもらえず、一方的に話されてしまった」コミュニケーションの悩みは尽きないもので、ちょっとしたことで相手に不快感を覚えたり、逆に不快感を与えてしまったりすることは多々あります。研修講師として民間企業、官公庁の研修・講演の講師の仕事を歴任し、25万人以上への指導経験を持つ、日本アンガーマネジメント協会理事である戸田久実氏の著書『アクティブ・リスニング ビジネスに役立つ傾聴術』(日経文庫)より、一部抜粋して紹介する本連載。特に職場のコミュニケーションを円滑にし、人間関係を劇的に改善する「傾聴」の極意について紹介します。 

話し手は“丁寧な相槌に安心感を感じる”

丁寧な相槌には、相手の話を促す効果があります。話の内容に合わせて、「はい」「ええ」と言うだけでなく、相手の話の重要なポイントを復唱、確認して反応するといいでしょう。

たとえば、

「今度のプロジェクトのことで、新たな提案があるのですが」→「新たな提案ですね」

「先日、取引先の〇〇からクレームを受けたので、相談に乗ってほしいんです」→「クレームの相談ね。いいですよ」

このように、キーワードを返すことで、話し手は「相手が間違いなく正確に聴いてくれている」と受け取り、安心して話を進めることができます。

また、相手の感情、心情が含まれている話のときは、気持ちに共感した相槌を意識することも必要です。

たとえば、

「最近、□□という困ったことがあって、数日間悩んでいるんですよ」→「それは、本当に困ったね。つらいね……」

「いいことがありました! 契約がとれて、結果が出ました」→「よかったね! それはうれしいよね」

というように、共感の相槌はもちろん、相手の話の内容に合った声の表現や表情のリアクションも、併せて意識しましょう。相手の感情に寄り添った共感の相槌は、「この人はわたしの気持ちをわかってくれている」と伝わりやすく、心の距離を近づける効果があります。シーンに合わせられるように、相槌の引き出しも複数持っておけるといいですね。

そのほか、相手に聴いていることが伝わるように、

「そんなことがあったのですね」

「〇〇だから、こうなのですね」

と、受けとめる相槌や確認する相槌も、相手に安心感を与えます。

「嫌われる相槌」になっていないか

好かれる相槌と反対に、嫌われる相槌もあります。

たとえば、

あまりに急かすような小刻みな相槌

興味がないと感じられるような、「ふーん。へー。あっ、そう」といった反応

「はい、はい、はい」といった単調な相槌の繰り返し

そのほかにも、「そうっすね」「まじっすか」という言葉をたびたび繰り返されると、相手は「本当にわかっているのかな?」と不安になるものです。「で?」という相槌も、言われた側は不快な気持ちになるので、使わないように気をつけましょう。無意識に使っている場合が多いので、日々どのような相槌を打っているかを意識してみませんか?

ネガティブな感情は「共感で癒される」

共感の気持ちを表現するには、まず相手の話に対して、気持ちに寄り添って聴くことが 重要です。とくに相談事で、相手が悩んでいること、困っていることを聴いているときには、アドバイスや解決方法を提示しながら聴くよりも、まずは相手の話に共感を示しながら聴きましょう。

相手にネガティブな感情があるときほど、より共感を意識してみてください。「この人はわたしの気持ちをわかってくれて、寄り添おうとしてくれている」と相手が感じられれば、問題解決に至らなくても、癒やされることがあります。

だからこそ、カウンセラーという仕事が必要なのかもしれません。話すことで癒され、満足し、安心できるのは、聴き手の共感の姿勢があってこそ得られるものなのです。

言葉だけなぞっても、「共感」にはならない

共感していることを、相手にわかるように表現するのは難しいことです。自分が体験していないこと、「そんなことは起こり得ない。自分の考えとはかけ離れている」と思ってしまうことに対して寄り添うのは、さらに難しいでしょう。ところが、共感が大切だという知識があるばかりに、心のこもっていない共感めいた言葉だけ言う人がいます。

「それは大変ですね」

「お困りですね」

「ご不快な思いをさせてしまい、大変申し訳ございません」

ただマニュアルを読んでいるだけのような「共感をしているフリ」は、逆に話し手をイラッとさせてしまいます。先日、わたしが大きな金額の不正請求について、カード会社に連絡をしたとき、「それはお困りですね」 と、マニュアル通りの単調な言い方で共感の言葉を言われ、かえって嫌な気持ちになったことがありました。

共感を示すには言葉だけを言えばいいというものではありません。「共感」という言葉ばかりが、独り歩きしてしまっているのではないでしょうか。

とくに電話の場合、姿が見えず、視覚情報がないため、より聴覚が敏感になると言われています。声のトーンや話し方から、「いま、忙しいのでは?」「もしかして寝起き?」「何かいいことがあった? 機嫌がよい気がする」というように、姿が見えないのに、相手の状況が感じとれるということはありませんか? 電話では、対面時以上にどのような気持ちで相手と向き合うかが重要なのです。

「共感」をしっかり表現するには、相手の立場になって聴くことに、神経を集中させなくてはいけません。聴くことを生業にしている人たちであっても、「共感は難しい」と言うほどですから、簡単ではありません。

もう二十数年前のことですが、

「 『聴く』ことは、『聴』の漢字が示すように十四の心と耳を傾ける。そのくらいの意識を向けることなのだ」

と教えてもらったことがあります。

言葉や言葉尻だけで共感していると見せようとしても、相手に見破られてしまいます。ぜひいま一度共感できているか振り返ってみませんか?

戸田 久実

アドット・コミュニケーション株式会社代表取締役

一般社団法人日本アンガーマネジメント協会理事

画像:PIXTA