
投資への注目が高まるなか、FXを始める人が増えています。FXは、レバレッジをかければその分大きな利益を得られる一方、リスクの高い投資であることも忘れてはなりません。本記事ではAさんの事例とともに、借金と自己破産について、FP1級の川淵ゆかり氏が解説します。
妻に内緒で始めたFXで2,000万円の大損
Aさんは手取り月30万円、営業職の32歳のサラリーマンです。2年前に結婚して、今後は、家も子供も自由なお小遣いも欲しいと思っており、将来のことを考えて奥さんに内緒でFXを始めました。
始めてからしばらくは円安トレンドが続き、調子がよかったAさんは今後も円安傾向は続くと考えて、ちょうど大きくレバレッジをかけたところに突然急激な円高に転じたため、大損を出してしまいます。
しかも損切りの決断が遅くなったことで、損失は大きく膨らんでしまい、とうとう2,000万円を超えてしまいました。恐る恐る奥さんに打ち明けましたが、当然、大激怒。奥さんからは離婚まで切り出されてしまいます。困ったAさんは自己破産して、なんとか借金をチャラにしようと考えますが……。
FXで多額の借金を抱えても自己破産できないワケ
さて、FXが原因の借金は原則免除されません。破産法252条第1項4号では、次のように免責不許可事由を定めています。免責不許可事由とは、一定の事情がある場合に、裁判所から免責許可が出ない(借金の免除が認めてもらえない)ことをいいます。
浪費または賭博その他の射幸行為をしたことによって著しく財産を減少させ、または過大な債務を負担したこと。FX取引は、その性質上「その他の射幸行為」に含まれると考えられています。「射幸行為」とは、賭博やギャンブル性の高い行為のことをいい、価格変動を予測することが困難であるFX取引は「ギャンブル性が高い」と判断され、原則として債務の免除は認められていません。つまり、FX取引による債務は免責不許可事由に該当するために原則自己破産できないことになります。
免責が認められれば自己破産は可能
原則は自己破産できないFX取引での債務ですが、つづく破産法252条第2項では次のように定めており、裁判所の裁量で免除される場合があります(裁量免責)。
前項の規定にかかわらず、同項各号に掲げる事由のいずれかに該当する場合であっても、裁判所は、破産手続開始の決定に至った経緯その他一切の事情を考慮して免責を許可することが相当であると認めるときは、免責許可の決定をすることができる。この裁量免責が認められれば債務の返済義務もなくなりますので、経済的にもやり直していくことが可能になります。
ですが、破産法では裁量免責の要件については書かれていませんので、どのようなケースに免責が認められるかは具体的にはわかりません。あくまでも裁判所が、破産手続の開始までの経緯やそのほか一切の事情を考慮して、免責を許可するかどうかを決定します。
ただ、はっきりしているのは、裁量免責の判断で重要視されるのは、債務者が借金を作ったことを十分に反省しており、生活再建に向けて誠実に努力できるかという点です。破産管財人に虚偽の説明をしてしまう等、不誠実な面を見せてしまうと不許可にされていることがあります。
裁量免責が認められなくなるケース
さて、裁量免責が認められない(自己破産できない)事由はほかにもいろいろあります。破産法252条第1項では、先ほどご紹介した4号以外にも免責不許可事由が定められていますが、真摯に対応すればほとんどの方は裁量免責が認められますので、できるだけ早く弁護士等専門家に相談しましょう。FXの自己破産で、裁量免責が認められなくなるケースは以下のとおりです。
自己破産手続中にFXをまた行ってしまった場合
FXが原因で自己破産の手続きを行っているのに、再度FXに手を出す、ということは、「反省していない」「また同じ失敗を繰り返す」と判断される恐れがありますので、免責が認められない可能性が高まることになります。過去にFXが原因で自己破産の経験がある人も同様で、再度の自己破産が認められるのはかなり難しいことになります。
財産の勝手な処分
債務者の財産は売却されてお金に変えられ、債権者へ公平に分配することになっています。ですから、自己破産をする場合には、価値のある財産を隠したり勝手に安く処分したりすることはできません。さらに、債権者に公平に分配することになっていますから、優先して特定の人に渡すことも認められません。
調査に対し、説明の拒絶や嘘の説明をする
自己破産の手続中に嘘をついていることがバレたら、裁判所や破産管財人からは、「ほかにも嘘をついているのではないか?」と疑われてしまい、より厳しく調査をされることになります。場合によっては詐欺破産罪に問われる恐れもありますので、正直な態度を示しましょう。
財産隠しで自己破産ができなくなったAさん
Aさんは、FXの失敗から自己破産の申し立てを考えますが、その前にできるだけ財産を守ろうと数百万円ある定期預金等を解約し、妻や弟に預けてしまっていました。ですが、この行為が自己破産の調査段階でバレてしまい、免責不許可事由に該当するとされ、返済義務は消滅しないこととなってしまいます。
Aさんは残った2,000万円の借金に頭を抱え、妻も仕事も失くしてしまう恐怖から精神的に参ってしまい、外出さえもままならなくなるほど精神的に追い詰められてしまいました。
自己破産で免責が許可されなくなったらどうするか?
Aさんのように、免責が許可されなかった場合、どうなるのでしょうか? もし、免責許可されなかった場合は、原則として借金全額の返済義務が残るので、そのまま放置すると債権者から裁判を起こされ財産を差し押えられてしまうケースもあります。
こういった場合は、1週間以内に即時抗告で異議を申立てたり、任意整理や個人再生に変更したりすることで借金の負担を減らすことができる可能性もまだ残っています。なお、即時抗告や任意整理・個人再生は個人で行うのはかなりハードルが高いですから、早めに専門家である弁護士や司法書士へ相談してしまいましょう。
どれだけの経験や知識をあっても、市場の動きを100%予測することは不可能です。外部の要因(政治的な出来事、自然災害、経済発表など)によって市場は予期しない動きをすることがあります。FX取引をするのであれば、レバレッジに気を付けて、あくまでも余裕資金内で行うようにしてください。
川淵 ゆかり
代表

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