アメリカでは2016年から各地で無人運転配車サービスの実証実験が行われており、9月からはサンフランシスコで24時間営業が認可された
アメリカでは2016年から各地で無人運転配車サービスの実証実験が行われており、9月からはサンフランシスコで24時間営業が認可された

アメリカと中国では、すでに無人タクシーの営業が始まっている。市販されている乗用車とは違い、車の屋根の部分にクルクルと回るLiDAR(ライダー)という高性能の感知装置を乗せ、車体にもたくさんのカメラを搭載して検知能力を高めたレベル4の自動運転技術を搭載したタクシーだ。そんな、ちょっと変わった見た目で、運転手が乗車しないタクシーが無人営業を始めている。

【写真】車の屋根から危険を察知する無人タクシー

アメリカで無人タクシーが運行されている都市はサンフランシスコロサンゼルス、フェニックス、オースティン。いずれも自動運転の先行実験地域だった場所だ。中国は北京、重慶、武漢といった大都市で営業が始まっている。

北京市内を走行する無人タクシーは器用なもので、乱暴に横入りする車や、交通規制を無視して走る自転車をうまくよけながら走る姿が印象的だ。

360を光センサーで見渡すLiDARが備えられた無人運転車両は、人間が運転する安全運転支援機能のない車両よりも格段に事故が少ない
360を光センサーで見渡すLiDARが備えられた無人運転車両は、人間が運転する安全運転支援機能のない車両よりも格段に事故が少ない

先に事実を述べておくと、サンフランシスコではGMの子会社クルーズが運行する無人タクシーが死亡事故を引き起こして営業免許を停止させられた。先行する車がひき逃げをして、その被害者を無人タクシーが続けて轢いてしまったのだ。最初に事故を起こしたのは人間が運転する車だが、無人タクシーも死亡事故に関与したのは事実だ。

ちなみに営業免許停止の理由は人身事故だけではない。事故が起きた際の状況をクルーズ社が関係当局に正確に報告しなかったことも問題視されている。免許取り消しにあたってはAIだけでなく、人間もその資質を問われているわけだ。

アメリカでは100社を超えるベンチャー企業が無人運転技術分野に参入している。当然ながら実験運行段階でも事故も起きている。2018年に最初に重大な死亡事故を起こしたのはウーバーの自動運転車だった。

公道での試験走行中に起きたこの事故の原因はまず、実験車のセンサーが頻繁に誤作動して車が停止してしまうことを嫌ったエンジニアが、一部のセンサーを無効化していたこと。そして、運転席に座っていた補助員が前方を見ずにスマホで動画視聴に興じていたことで、道路を横断する女性に気づかなかったことだった。

■リスクも厭(いと)わず実証実験を続ける理由

なんともお粗末な話だとも思うのだが、そのような問題が起きるにもかかわらず無人運転の実証実験を続行しているのがアメリカという国であり、中国という国である。動機は、先にそのような技術を確立し、商品化に成功した国が、全世界の無人タクシー市場を抑えることができるからだ。アメリカと中国という二大大国の間で、未来の覇権を巡った戦いが繰り広げられているわけだ。

ひるがえってわが国はどうかというと、他の先進国ではすでに実用化されているライドシェアに関してようやく「検討を始める」段階だ。タクシー運転手が高齢化人手不足となり、タクシーに乗りたくても乗れない国民が増えているのが検討開始の背景である。

物流の分野でも、トラック運転手不足で2024年問題が危惧されている。トラック運転手の残業時間を適正化する法律が施行されるのだが、そうすると今までのように荷物を運ぶことができなくなることが問題視されているのだ。

タクシーにしてもトラックにしても、かつての予測では2022年あたりに自動運転技術が完成され、イノベーションが起きているはずだった。それが遅れた結果、日本では人手不足が原因の社会問題が起きている。

自動運転に関して技術開発が遅れたのは仕方ないとも言える。しかし、ここに来て問題になっているのは、いざ技術が追い付いてきてアメリカと中国で無人運行が事業化されているにもかかわらず、日本という国では社会がブレーキをかけていることだ。

■無人運転の事故率は人間よりも低い

無人運転の車が人身事故を引き起こすたびに、メディアがそれを酷く糾弾する。確かに人の命が失われたことの意味は大きい。事実を報道し、原因を追究する報道は大切だ。しかし、人間が運転中に引き起こす人身事故の方がはるかに多く、事故原因もレベルが低いものだとしたらどうだろう。

人間が運転する車は年間で3000人以上の命を奪っている。よそ見、スピードの出し過ぎ、ブレーキアクセルの踏み間違い、逆走、そして飲酒運転が原因で多くの人の命を奪っている。人身事故のもうひとつの特徴は、運転サポート技術が導入される前の車がたくさん公道を走っていることにもある。最新の技術を搭載した車は、歩道を歩く歩行者の列に飛び込むような事故は起こさない。

ちなみに、ミシガン大学交通研究所が、GMやバージニア工科大学交通研究所(VTTI)と共同で行なった最新の調査によると、配車サービス大手のクルーズが営業させている無人運転車両の100万マイルあたりの事故率は、人間が運転する車両の事故率よりも65%少なかったという。

こういった事象をわれわれはどう考えるべきなのだろうか。日本はいつの間にか、何も事を起こさないほうが無難な国になってしまった。本当は無人運転技術が進むことで、事故が減り、高齢化社会でも公共交通機関や物流が滞りなく進む未来が来るほうがいいのだが、その実験を進めようとすると「万が一の危険を考えると慎重に導入したほうがいい」と進化が止まってしまう国だ。

ライドシェアひとつとっても、素人が運転する車は危険だからという異論が業界団体から出されると、それで検討が止まってしまう。きちんと研修を受けて第二種免許を持ったプロの運転手でないと、客を乗せた運行は任せられないということになってしまうのだ。

現実にはプロの運転手は交通ルールをよく破る。交差点など停車してはいけない場所でも、手を上げる人がいれば後続車など気にせずに急に止まって客を乗せる。スマホで待ち合せ場所を決められるライドシェアなら、交差点では車を停められないようにルールを設定することができるだろう。技術よりも社会感情が支配するこの国は、どうもおかしな方向へと進んでいるように見えて仕方がない。

文/鈴木貴博 写真/waymo.com

アメリカでは2016年から各地で無人運転配車サービスの実証実験が行われており、9月からはサンフランシスコで24時間営業が認可された