哲学者の戸谷洋志氏が「親ガチャ」「反出生主義」「無敵の人」「ゲノム編集」など、現代のキーワードを哲学と社会の両面から読み解く、『親ガチャの哲学』を12月17日新潮社より刊行いたします。

新潮新書『親ガチャの哲学』12月17日発売予定

■2023年の大学入学共通テストにも登場した「親ガチャ

  • G:すごい豪邸…、こんな家に生まれた子どもは運がいいね。不平等だな。

  • H:生まれた家とか国とか、個人が選べないもので差が出るのは、不平等だとしても変えられないよ。与えられた環境の中で頑張ることが大事だよね。この家の子どもだって、社会で成功できるかは本人次第だと思う。

  • G:いや、その子どもも、家が裕福なおかげでいい教育を受けて、将来お金を稼げるようになったりするでしょ。運の違いが生む格差は、社会が埋め合わせるべきだよ。

こんな会話文から始まるのは、2023年の大学入学共通テストの倫理の問題です。出題直後から、「親ガチャ」という流行語を意識したものだと大きな話題になりました。  

当たり前のことですが、私たちはどんな親のもとに生まれてくるかを、自分で選ぶことはできません。生れてくる時代も場所も、同様です。その意味で出生は偶然に委ねられており、いわばくじのようなもの、ガチャのようなものです。

しかし、それによって人生は非常に大きな影響を受けます。問題のなかに登場するGが考えていたように、どんな親のもとに生まれてくるかによって、社会で成功するか否かも、決まってしまうかも知れません。つまり、親ガチャには「当たり」と「外れ」がある、ということになります。

では、人生を左右するのはガチャ、つまり運なのでしょうか? はたまたHの言うように本人の努力次第でなんとかなる問題なのでしょうか?

本書『親ガチャの哲学』ではONE PIECE』や『進撃の巨人』、『ポケモンといった人気コンテンツを題材にしながら、近年話題になっている「親ガチャ」と、それに連なる反出生主義」「優生思想」「無敵の人」「ゲノム編集」などについて、社会と哲学の両面から読み解きます。自分の人生を生きるとは、どういうことか――いま一度、考えるきっかけになるはずです。

■目次

序章 運vs努力――人生を決めるのはどちらか  

第1章「親ガチャ」とは何か  

誰も生まれる環境を選べない  若者を蝕む絶望感  松本人志「人生は全部ガチャ」  若者の宿命論  すべての人生を「当たり」に?  どんなガチャを引いても豊かに生きられる社会  社会に連帯を作り出すには  

第2章「無敵の人」の自暴自棄 

秋葉原通り魔事件  「無敵の人」の二つの側面  自暴自棄型犯罪の増加  自分の人生を引き受けられない  無力感が責任を失わせる  「自分はどうでもいい人間」という嘆き  親ガチャと自己効力感  保障か、包摂か

第3章 反出生主義の衝撃  

「生まれてこない方がよかった」――『ONE PIECE』の場合  「生まれてこない方がよかった」――『進撃の巨人』の場合  ベネターの「反出生主義」  食後のケーキを食べられなかったから  生まれなければ快楽も苦痛もない  反出生主義を論破できるか?  なぜ人々は反出生主義を求めるのか  

第4章 ゲノム編集で幸せになれるか  

ゲノム編集の衝撃  デザイナー・ベイビーと生命倫理  ミュウツーの苦悩  ナチスと優性思想  ゲノム編集が孕む危険性  「リベラル優生学」の問題  責任と人生の物語  遺伝子操作では解決出来ない

第5章 自分の人生を引き受ける──決定論と責任   

決定論とは何か  人間の行為も決定されている?  飛ぶ石の比喩  責任はどこへ行くのか  自由意志を前提としない責任  生き残った者の罪悪感   人間は自分以外ではありえない  「良心の呼び声」  自分自身を引き受ける

第6章 親ガチャを越えて   

苦境のなかで責任の主体にはなれない  他者の声に耳を傾ける  「保育園落ちた日本死ね!!!」が意味すること 〈われわれ〉の空洞化  新しい中間共同体  ロールズの思考実験「無知のヴェール」  最も弱い立場から社会を考える  社会 as a service  ナショナリズムの限界  〈われわれ〉を拡げていく  偶然と連帯

終章 自己肯定感――私が私であるという感覚  

あとがき  

戸谷洋志さん (C)新潮社

<内容紹介>

もっと裕福な家庭に、魅力的な容姿に生まれたかった、いっそのこと生まれてこないほうがよかった……近年、若者の間で瞬く間に広がったキーワード親ガチャ」。人は生まれてくる時代も場所も、家庭環境も選ぶことはできない。そうした出生の偶然性に始まる人生を、私たちはどう引き受けるのか。運命論と自己責任論とが交錯するなか、人気漫画からハイデガーやアーレントまで、社会と哲学の両面から読み解く。

<著者紹介>

戸谷洋志(とや・ひろし)

1988年東京都生まれ。関西外国語大学准教授。専門は哲学・倫理学。法政大学文学部哲学科卒業、大阪大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(文学)。『ハンス・ヨナス 未来への責任 やがて来たる子どもたちのための倫理学』『未来倫理』『友情を哲学する 七人の哲学者たちの友情観』など著書多数。

<書籍データ>

【タイトル】親ガチャの哲学

【著者名】戸谷洋志

【発売日】12月17日

【造本】新書版

【本体定価】880円(税込)

【ISBN】‎978-4-10-611023-5

【URL】https://www.shinchosha.co.jp/book/611023/

配信元企業:株式会社新潮社

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