イスラエル軍によるガザに対する爆撃を見て、日本の過去の歴史を思い起こした読者も多いのではないだろうか。太平洋戦争の本土空襲では、わずか数カ月で多くの人命が奪われ、日本の歴史の蓄積した都市が灰燼に帰した。日本本土や台湾とは異なり、日本の支配下にあった朝鮮半島に対する爆撃はほとんど行われなかったが、太平洋戦争の終結からわずか5年後に、同じ運命をたどることになった。

米軍は朝鮮戦争中、朝鮮人民軍北朝鮮軍)の占領下にあった地域に対して、大々的な爆撃を行った。平壌、咸興(ハムン)、元山(ウォンサン)は市街地の8割が破壊され、新義州(シニジュ)に至っては破壊率が100%に達した。人命と共に破壊されたのが、鉄道、道路などのインフラだ。

平壌では、日韓併合直前の1910年8月、綾羅島(ルンラド)第一水源地と水道橋の碧羅橋(ピョンラギョ)を使った上水道の供給が始まったが、これも爆撃により破壊され、今では存在しない。

日本の支配下で作られたインフラはすべてが破壊し尽くされたわけではなく、その後も残り、北朝鮮の経済や人々の暮らしを支え続けてきたが、老朽化は深刻だ。

平安南道(ピョンアンナムド)のデイリーNK内部情報筋によると、平安南道人民委員会(道庁)都市経営局は、道民の上水道の利用実態について調査を行った。その結果、市または郡の邑(中心地)住民は50%、農村住民の65%が水道を利用できていない実態が明らかになった。

平壌郊外にある北朝鮮の流通の中心地、平城(ピョンソン)では、1週間にわずか1〜2時間しか水道から水が出ないこともわかった。平城は1960年代に入ってから都市化の進んだ地域で、平壌に比べると都市インフラは比較的新しいはずだが、適切な管理と補修が行われなかったことで、老朽化が著しいようだ。

世界保健機構(WHO)とユニセフが2019年に発表した報告書によると、北朝鮮の都市部での水道管敷設率は2000年に91%に達していたが、2017年には68%まで減少している。市民は、水道ではなく住宅周辺にある井戸や川で水を汲んで使っている。

「井戸や川で汲んだ水を飲むことは当たり前のことと受け止めている」(情報筋)

1990年代の「苦難の行軍」の時代に管理や補修を行う予算がなかったことに加え、2020年1月から約3年半続いた、新型コロナウイルスパンデミックに伴う国境封鎖、貿易停止により水道設備の輸入ができなくなったことで、上水道の老朽化がさらに進行した。

当局も水道設備の老朽化に問題意識を持っているようだ。今年6月の最高人民会議常任委員会第14期第26回全員会議では、上下水道施設の管理、生活用水の供給と利用、汚水処理に関する上水道法、下水道法の改正案が採択された。

北朝鮮では、コレラやチフスなど汚染された水が原因の経口感染症の流行が報告されているが、当局は改正上下水道法に基づき、平安南道と黄海道(ファンヘド)で上水道、地下水、河川の水質調査を行った。その結果、飲用に適した水は1割にも満たないことが明らかになった。上水道の整備・維持が適切に行われていないばかりか、地下水や川の水の汚染も深刻である実態も明るみに出た。

老朽化したインフラの再構築、汚水処理施設の整備が求められているが、当局にはそれだけの財源も技術もなく、対策に乗り出せていない。

鴨緑江で洗濯をする北朝鮮の女性(画像:デイリーNK)