Netflixシリーズ『攻殻機動隊 SAC_2045』シーズン2を再構成した劇場版第2弾『攻殻機動隊 SAC_2045 最後の人間』が11月23日より3週間限定で公開される。本作で主人公・草薙素子を演じているのは、1995年に公開された映画『GHOST IN THE SHELL攻殻機動隊』から素子を演じ続けている田中敦子。四半世紀を超えて素子というキャラクターに命を吹き込んでいる田中が、最新作の魅力やシリーズへの想いを語った。

【動画】田中敦子、四半世紀以上も側にいた“草薙素子”を語る

■バトー役・大塚明夫、トグサ役・山寺宏一は「ナイト」

 劇場版『攻殻機動隊 SAC_2045 最後の人間』は、Netflixシリーズ『攻殻機動隊 SAC_2045』シーズン2を、映画『新聞記者』などを手掛けた藤井道人監督が、新たなシーンと視点により劇場版として再構成した作品だ。

――本シリーズはオリジナルメンバーたちが揃って出演されていますが、収録の時はどんなお気持ちだったのでしょうか?

田中:『攻殻機動隊 S.A.C.』(2002年)が終わって間もないころに、バトー役の大塚明夫さんや、神山健治監督とご飯を食べに行く機会があったんです。そのとき神山さんが「また攻殻機動隊ができたらいいな」と仰っていたんです。それから随分月日が経ちましたので、もう攻殻機動隊が新たに作られることはないのかなと思っていました。ですので、このお話があったときは、とても光栄でした。しかも、またオリジナルのメンバーで出来るというのは、本当に幸せだなと思いました。

――本作で素子を演じるうえで、意識したことや新たにチャレンジしたことはありましたか?

田中:『攻殻機動隊 S.A.C.』から本作への大きな変化は、モーションキャプチャーによる3DCGになったことですよね。なので、二次元のアニメーションに声を当てるというよりは、三次元の映画や海外ドラマの吹替えをするような感覚に近いのかなと思いました。まあ公安9課メンバーのキャストは、みんな洋画の吹替え経験も豊富な人たちなので、みなさんも同じように思っていたのではないでしょうか。その意味で、よりリアルに表現するというか、動きや表情をくみ取ってセリフの中に散りばめようという意識はありました。

――バトー役の大塚明夫さんや、トグサ役の山寺宏一さんとの再演はいかがでしたか?

田中:大塚さんや山寺さんとは、このシリーズ以外でも山のようにご一緒させていただいていて、新人のころから「あっちゃんあっちゃん」とかわいがってくださっています。私も大好きで尊敬する先輩で「ナイト」と呼んでいるんですよ(笑)。作品のなかでは素子がみんなを引っ張る立場ですが、田中敦子的には、おふたりについて行けば間違いないという方たちです。今回の収録もとても楽しくてワクワクしながらスタジオに行っていました。

Netflix配信版と少し違ったラストに期待!

――本作はNetflixで配信されたシーズン2を再編集した作品ですが、ご覧になってどんな感想を持ちましたか?

田中:今回は藤井道人監督が再構成されたのですが、劇場で作品を観る人にとって非常に分かりやすい感じになったのかなと思います。藤井監督と言えば『新聞記者』など素晴らしい作品を撮られている監督さんなので、本編を拝見して、実写映画を撮る方が再構築すると、また違ったカラーになるんだなと感心しました。

――ファンのみなさんには、本作のどんなところに注目してほしいですか?

田中:Netflixでシリーズを通してご覧になっている方は、ラストがちょっと変わっているので、そこに驚いてもらえるのかなと。最後、ちょっと台本やセリフが変わっているんです。

――本作は“完結編”という位置づけの作品かと思われるので、変わったというラストは楽しみですね。

田中:そうですね。このシリーズって『GHOST IN THE SHELL攻殻機動隊』も『攻殻機動隊 S.A.C.』も終わり方が、少し先を暗示させるような形になっているんですよね。今回もバトーとのシーンになりますが、また先を予感させるような終わり方になっているのかなと私は感じています。

――劇場の大きなスクリーンでまた本作が観られるのもとても楽しみです。

田中:配信もいろいろな方に手軽に観ていただけるということでとてもありがたいのですが、劇場の大きなスクリーンで観るというのは、また違った感動が得られると思うので、とても光栄です。


■素子と出会わなければ、いまの私はいない

――1995年以来、長く素子を演じられていますが、一番大切にしていること、ブレないように意識していることはありますか?

田中:屈強なバトーやトグサ、公安9課のメンバーのリーダーとして戦っていくというのは、『GHOST IN THE SHELL攻殻機動隊』から変わっていないストーリーだと思います。それにふさわしい女性、タフでクールというラインは必ず守るような形で演技することを心がけています。

――核となる部分は共通でも、シリーズごとに素子の表現も変わっていますよね。

田中:そうですね。『GHOST IN THE SHELL攻殻機動隊』から『攻殻機動隊 S.A.C.』、そして『攻殻機動隊 SAC_2045』と、作品によってマイナーチェンジと言っていいか分かりませんが、私の演技を含めて変化していると思います。今後思わぬ素子と出会える楽しみもあるかもしれませんね(笑)。

――『GHOST IN THE SHELL攻殻機動隊』での収録の思い出はありますか?

田中:そもそもオーディションに受かったということ自体、私にとっては奇跡だと思っていました。素子というキャラクターは当時としては、画期的なヒロイン像でした。それまでのヒロインと言えばかわいらしいものだったのですが、彼女は強くてタフでクールなんです。私はどちらかというと、キャラクターの人となりや、セリフを発する裏にある気持ちなどを考える方なのですが、素子に関しては、脳だけは生身で、あとは全身が義体化されているということと、年齢が大体40代ぐらいということしか情報として持っていなかったんです。そこはすごく難しかった。押井守監督からは「いろいろなことを経験して世の中を達観している女性として演じてほしい」とディレクションしていただいたのですが、少ない情報ながら素子に近づかなければと必死だったことを覚えています。

――そこから28年の歳月が流れましたが、当時からここまでロングシリーズになると思っていましたか?

田中:当時はそんなこと全く思っていませんでした。1995年に東京ファンタスティック映画祭で『GHOST IN THE SHELL攻殻機動隊』が上映されたのですが、お客さんたちの顔を見ると多くの人が口をポカンと開けているような感じで。まだ携帯電話もそれほど普及していない時代でしたから、すごく先取りした映画だったんでしょうね。でもアメリカでヒットして逆輸入のようにして日本でリバイバルヒットしたんですよね。

――草薙素子は田中さんにとってどんな存在ですか?

田中:素子に出会っていなければ、いまの私はいなかったと思います。『GHOST IN THE SHELL攻殻機動隊』のときは、とにかく一生懸命素子を演じよう、少しでも素子に近づきたいと思っていました。それが収録を重ねるにつれて、演技をしているというよりは、私のなかに素子がいるような感じになったんです。まるで私の体を使ってセリフを言っているような感覚。特に『攻殻機動隊 SAC_2045』になってからは、常に横に素子がいて、相談しながら演じているような…相棒のような存在になりました。

(取材・文:磯部正和 写真:小川遼)

 劇場版『攻殻機動隊 SAC_2045』は、11月23日より3週間限定で劇場公開。

田中敦子  クランクイン! 写真:小川遼