海外のベテランゲーム音楽家で日本のリスナーからも広く認知されている人物といえば、『伝説の騎士エルロンド』『バトルトード』『スーパードンキーコング』シリーズなどの音楽を手がけたデビッド・ワイズは筆頭格に挙がるだろう。デビッドの音楽に魅了され、熱烈なファンを公言している芸人コンビのカミナリが今年4月にイギリスに赴き、本人へのインタビューを敢行したことも記憶に新しい。

参考:【動画】カミナリがデビッド・ワイズの“神曲”を紹介

 1987年ゲーム音楽家としてデビューし、レア社が開発に関わった数々のゲームで音楽を制作。2009年にフリーランスに転身してからはインディーゲームの音楽制作や、ゲーム音楽に関するワークショップ、自身のバンドを率いてのライヴ活動にも範囲を広げ、ワールドワイドな活動を展開しているデビッド。氏の楽曲はなぜこんなにも多くの人を惹きつけてやまないのだろうか。短期集中連載としてこれまでの活動を振り返り、掘り下げていきたい。

 第1回となる本稿では、デビッドゲーム音楽家としての出発点からスタートし、レア社とともに迎えた成長期、その音楽性までを取り上げる。

ゲーム音楽家としての出発点

 物心ついたときから優れた音感を持っていたデビッド・ワイズは、幼少期のピアノレッスン以外は独学で音楽を吸収していった。やがてトランペットを吹くようになり、ブラスバンドへ参加。アルバイトで得た資金でドラムキットを手に入れてからは、仲間と結成したパンクバンドでドラマーを務めていたこともある。レスターの楽器店で働くようになったデビッドは、店がミュージック・コンピューターを取り扱うようになったことで必然的にコンピューター音楽制作の知識を身につけてゆく。

 そんなある日、2人の人物──ーーティム・スタンパーとクリス・スタンパーが店を訪れる。1982年にゲーム会社「Ultimate Play the Game」を設立し、『Jetpac』『Sabre Wulf』『ナイト・ロアー』などのヒットで経営を軌道に乗せ、1985年に新たにレア社を設立した兄弟だ。2人の前でデビッド自作曲を用いてYAMAHA CX5のデモンストレーションを行ったことがキッカケで、スタンパー兄弟は作曲の仕事を持ちかける。デビッドはフリーランスのコンポーザーとしてレア社に関わったことで、半ば偶然のような形でゲーム業界に身を置くこととなる。

 レア社の開発デビュー作であるスキーゲーム『Vs.Slalom』(日本未発売)は、任天堂アーケードゲーム基板「任天堂VS.システム」のソフトとして1986年にアメリカで発表された。任天堂VS.システムはファミリーコンピュータ/NES(Nintendo Entertainment System)と互換性があり、移植が容易であったため、1987年8月にはNES版『Slalom』が発売。デビッド・ワイズゲーム音楽制作はここから第一歩を踏み出した。それまで楽器店で最新機器のデモンストレーターをしていたデビッドには当時、NESの4チャンネルのサウンドがさながら「ドアベル」のように聴こえたとのことで、初めてのゲーム音楽への取り組みは「ある種の挑戦だった」と振り返る。

 次に音楽を手がけたのは、当時創立まもないAcclaim Entertainmentから1987年12月に発売されたNES用ソフト『Wizards & Warriors』(日本では1988年7月にジャレコから『伝説の騎士エルロンド』のタイトルで発売)。哀愁を帯びた印象的なメインテーマは、デビッドが15歳の頃にピアノのために作曲した楽曲のリメイクである。同時発音数の限られたNESに実装するにあたり、主旋律とコードをアルペジオで表現し、対旋律を加えてベースとハーモニーを表現する形をとっている。

 デビッドの思い入れも深く、かつて自身の公式ホームページのトップページで同曲を紹介し、単一のメロディでコード感を出そうと試行を重ねるうちにバッハのようなクラシカルな雰囲気が得られたので、対位法を用いずにはいられなかったという旨のコメントを添えていた。音使いこそまだ素朴な感があるが、ポップで明快なメロディのステージ1や、重々しい雰囲気のなかで秀逸なメロディがきらめくステージ3&4のBGMにも注目したい。シリーズはその後『Ironsword: Wizards & Warriors II』『Wizards & Warriors X: The Fortress of Fear』『Wizards & Warriors III Kuros: Visions of Power』と展開される人気作となり、シリーズを追うごとにデビッドの作風の進化・深化を感じさせるという点でも興味深い。

 1988年レア社は、アイソメトリック・ビュー(クォータービュー/斜め上からの俯瞰視点)のレーシングゲーム『R.C. Pro-Am』(2月発売)、同名の人気クイズ番組のテレビゲーム化『Wheel of Fortune』『Jeopardy!』(9月発売)、ボードゲームスタイルのパーティゲーム『Anticipation』(11月発売)の開発を担当した。『Anticipation』では全編にわたってジャジーな楽曲が収められており、特にタイトル画面やメニューBGMが耳に残る。軽快なファミコンジャズの秀作として注目したい。また、イギリスのゲーム情報誌『The Games Machine』の1988年3月号(通巻第4号)では10ページにわたってレア社の特集が組まれ、同記事ではRoland Alpha Juno 1とRoland TR-707で楽曲制作を行う若きデビッドの姿も収められている。写真のキャプションにはこうある。

「Like most of the Rare staff, David is virtually unknown in Britain, yet Tim Stamper rates him as one of the top computer musicians in the country.」

レア社のほとんどのスタッフと同じく、デビッドイギリスではほとんど無名だが、ティム・スタンパーは彼を国内有数のコンピューター音楽家の一人だと評価している)

 90年代半ばにレア社に音楽制作部門が設置されるまで、デビッドは社内唯一のコンポーザーであり、同社の下請けを担っていたZippo Games(1987年設立。1990年レア社による買収に伴いRare Manchesterに社名を変更したが、同年解散)の開発タイトルにも関与していた(スタッフロールが確認できる貴重な一作『Ironsword: Wizards & Warriors II』では音楽制作クレジットに「MUSIC RARE LTD」とある)。開発初期段階から楽曲があることでゲーム全体の方向性を示しやすくなり、開発チームのモチベーションアップにもつながると考えていたティム・スタンパーの方針により、楽曲制作はゲーム開発と同時並行で進められている。

 この頃のデビッドの制作スタイルは、テキストエディター「Brief」を用いて16進数で楽曲データ(ノート、オクターブ、音色、エフェクトなどの要素)を打ち込み、微調整を重ねて仕上げていくというものであった。2010年のインタビューで、音楽を手がけた初期のゲームで最も象徴的な作品や最も誇りに思っている作品は何かという質問に、デビッドはこう答えている。

Ultimately, I think of all scores as very much an evolution, rather than a landmark. The experience gained from one is useful to the next. Some work well, others not so well, but they all help to shape subsequent works. The challenge on the NES was trying to coax different musical styles from what some may consider a rather limited sound palette.」

(結局のところ、私はどの作品の音楽もランドマークではなく進化だと考えています。ひとつの作品で得た経験は、次の作品に生かされます。うまくいったものも、うまくいかなかったものもありますが、どれもその後の楽曲制作に役立っています。NESでの課題は、限られた音色でさまざまな音楽スタイルを引き出すことでした)

David Wise Interview: Revisiting Donkey Kong Country
【VGMO|2010年12月15日
http://www.vgmonline.net/davidwiseinterview/

1989年1992年 レア社デビッド・ワイズの成長期

 初期の音楽制作は挑戦の連続であった。さらにレア社は創立から数年間、非常にタイトなスケジュールで開発を行っており、それに伴ってデビッドの作曲・編曲スキルもどんどん磨き上げられていく。1つのタイトルの音楽制作にかけられる時間は、多くが1~2週間(非常に運がよければ4週間)だったというのだから、察するに余りある。下記の一覧は、1989年から1992年の4年間でレア社が開発・移植・元請けで関わったゲームである。いくつかピックアップしていきたい。

【注記1】発売年月はmobygamesのデータを参照(発売月が不明なものは発売年のみ表記)
https://www.mobygames.com/

【注記2】スタッフロールデビッド・ワイズのクレジットが確認できるものには★をつけ、レア社が移植を担当した作品、Zippo Gamesの開発作品は※で補足した。

1989年
NES『Sesame Street 123』(1989年1月)※開発:Zippo Games
★NES『WWF WrestleMania』(1989年2月)
NES『John Elway's Quarterbac』(1989年3月)※移植
NES『Marble Madness』(1989年4月)※移植
NES『Taboo: The Sixth Sense』(1989年5月)
NES『California Games』(1989年6月)※移植
NES『Sesame Street ABC』(1989年9月)※開発:Zippo Games
NES『World Games』(1989年6月) ※移植
★NES『Cobra Triangle』(1989年7月)
NES『Jordan vs. Bird: One on One』(1989年8月)
NES『Hollywood Squares』(1989年9月)
NES『Who Framed Roger Rabbit』(1989年9月)
NES『Jeopardy!: Junior Edition』(1989年10月)
NES『Wheel of Fortune: Junior Edition』(1989年10月)
NES『Ironsword: Wizards & Warriors II』(1989年12月)※開発:Zippo Games
NES『Silent Service』(1989年12月)※移植

 Acclaim Entertainmentから発売された『WWF WrestleMania』は、プロレスラーのテーマアレンジを中心とした内容。バンバン・ビガロの初期のテーマ(作曲者不詳)や、ホンキー・トンク・マンのテーマ「Honky Tonk Man」(作曲:ジョン・ホートン)、ハルク・ホーガンのテーマ「Real American」(作曲:リック・デリンジャー)、ランディサベージのテーマ「威風堂々」(作曲:エドワード・エルガー)などを、勘所を押さえたアレンジで聴かせる。なお、アンドレ・ザ・ジャイアントテッド・デビアスは本来のテーマとは別の曲に置き換えられており、前者は「Stand Back」(作曲:ジム・ジョンストン)、後者は「Girls in Cars」(作曲:ロビー・デュプリー)となっている。

 Minton Bradleyから発売されたNES移植版『Marble Madness』も、デビッドの秀逸なアレンジワークが堪能できる一作だ。ブラッド・フラーとハル・キャノンが手がけたアーケード版の原曲を可能な限りNESで再現しようとしたデビッドの意気込みが伝わってくる(1991年にはゲームボーイ移植版も発売された)。Tradewestから発売されたタロットカード・リーディングゲーム『Taboo: The Sixth Sense』は、ミステリアスなタイトルBGMを筆頭にクラシカルな楽曲が充実している。各タロットカードのテーマBGMはわずか数フレーズだがどれもキャラクターが立っている。「Strength(力)」のカードのテーマが「ロッキー」風なのは御愛嬌だろう。『Ironsword: Wizards & Warriors II』は第1作の哀愁の雰囲気はそのままにメロディアスな度合いをいっそう強め、フォーキーなメロディを配したメインテーマノイズを効果的に交えて重厚な響きを聴かせる。

1990年
★NES『Double Dare』(1990年
NES『Ivan 'Ironman' Stewart's Super Off Road』(1990年)※移植
NES『NARC』(1990年)※移植
NES『Snake Rattle 'n' Roll』(1990年
GBWizards & Warriors X: The Fortress of Fear』(1990年1月)
NES『Wheel of Fortune: Family Edition』(1990年3月)
★NES『Pin-Bot』(1990年4月)
NES『Captain Skyhawk』(1990年6月)
NES『Jeopardy! 25th Anniversary Edition』(1990年6月)
GB『The Amazing Spider-Man』(1990年7月)
NES『Cabal』(1990年7月)※移植/開発:Zippo Games
★NES『Solar Jetman: Hunt for the Golden Warship』(1990年9月)※開発:Zippo Games
NES『Time Lord』(1990年9月)
NES『A Nightmare on Elm Street』(1990年10月)
NES『Super Glove Ball』(1990年10月)
NES『Arch Rivals: A Bascket Brawl!』(1990年11月)※移植
NES『WWFレッスルマニアチャレンジ』(1990年11月)

【日本版はホット・ビィから1992年3月発売】
NES『Digger T. Rock: Legend of the Lost City』(1990年12月)

 1990年の前後に、レア社ではゲーム開発に用いていたサウンドドライバーに改良が加えられ、音の響きにも若干の変化がみられるようになった。Acclaim Entertainmentから発売された『Wizards & Warriors X: The Fortress of Fear』は、『Ironsword: Wizards & Warriors II』の後日談として制作されたゲームボーイ用ソフト。メロディとノイズが織りなす美しいハーモニーがアップテンポなリズムにマッチしたメインテーマはシリーズ楽曲でも指折りの存在感を放っている。

 Nintendo of Americaから発売された『Snake Rattle 'n' Roll』は、アイソメトリック・ビューのアクションゲーム。ゲームタイトルは、ビッグジョーターナーが歌い、ビル・ヘイリーやエルヴィス・プレスリーによるカバーでも著名な楽曲「Shake, Rattle and Roll」のもじりである。1950年代のロックンロールのようなサウンドがほしいというティム・スタンパーの要望に応えるべく、デビッドはレコードショップでロックンロールのアルバムを買い漁り、ジャンル研究に明け暮れた。1993年にはメガドライブ移植版がセガから発売。2020年にはNES版とメガドライブ版の楽曲を収録したサウンドトラックレコードがFangamerから発売され、デビッドが制作当時を振り返ったライナーノーツが収録されたこともトピックとなった。

 そこには、NES版のステージ6・9・10のBGM「Lethal Ledge Leaps」(メガドライブ版では「Ice Cube Cliffs」としてステージ10・12のBGMに使用された)にまつわる、ちょっとした裏話が綴られている。タイトスケジュールのなかで一通り楽曲制作を終えたデビッドは土曜の夜に飲みに出かけて日曜の朝に自宅に戻ったが、数時間後にティムから突然電話がかかってきた。「金曜の夜にステージを新たに追加したから、今日中にもう1曲ほしい」という要請を受け、デビッドは自宅に迎えに来たスタッフとともに社に戻り、その日の夜になんとか曲を完成させた。二日酔いで本調子ではない状態で急いでつくった楽曲であることをデビッドは申し訳なく思っていたが、スタッフからは「ゲームにピッタリだ」と好評で、そのまま実装され、ゲームも無事に発売された。焦燥感を煽るアルペジオのフレーズが非常に印象的な「Lethal Ledge Leaps」には、制作当時のデビッドの切羽詰まった状況がストレートに投影されていたのだ。

 Tradewestから発売された『Solar Jetman: Hunt for the Golden Warship』と、Milton Bradleyから発売された『Time Lord』は、NES時代のデビッドの脂ののった仕事が存分に堪能できるタイトルだ。『Solar Jetman: Hunt for the Golden Warship』は、Ultimate Play the Gameから1983年1984年にかけて発売された『Jetpac』『Lunar Jetman』の精神的後継作であり、異なる重力下の惑星で慣性のついた自機を操作するという挑戦的なゲームデザインの全方位アクション・シューティング。BGMはメロディよりも世界観や雰囲気の演出に特化しており、ポストロックミニマルテクノのような趣を感じさせる楽曲がプレイヤーにディープなトリップ感をもたらしている。『Time Lord』はエイリアンの脅威が迫る2999年の地球の危機的状況を打開するべく、プレイヤーはタイムトラベル技術を駆使して西暦1250年のイングランド、西暦1860年のアメリカ西部、西暦1650年のカリブ海地域、西暦1943年フランスといった異なるタイムゾーンに赴いて歴史を改変していく時間制限つきのSFアクション。巧みにディレイを効かせ、フォーク/中世音楽、カントリーエスタン、ワルツミリタリーマーチのエッセンスをキャッチーに昇華した楽曲が大きな特徴で、とりわけ、めまぐるしく変化する曲調でドラマティックな聴き心地を生みだす中世ステージBGMが絶品だ。

1991年1992年
NES『Danny Sullivan's Indy Heat』(1991年)※移植
NES『Sesame Street ABC & 123』(1991年)※開発:Zippo Games
GBWWFスーパースターズ』(1991年

【日本版はホット・ビィから1992年2月に発売】
NES『Beetlejuice』(1991年5月)
GBMarble Madness』(1991年5月)
NES『バトルトード』(1991年6月)

【日本版は日本コンピュータシステム/メサイヤから1991年12月発売】
GB『Sneaky Snakes』(1991年6月)
NES『High Speed』(1991年7月)
NES『Sid Meier's Pirates!』(1991年10月)※移植
GB『Super R.C. Pro-Am』(1991年10月)
GBバトルトード』(1991年11月)

【日本版は日本コンピュータシステム/メサイヤから1994年1月発売】
MD『Championship Pro-Am』(1992年
NES『R.C. Pro-Am II』(1992年
AC『X the Ball』(1992年
GBBeetlejuice』(1992年1月)
NES『Wheel of Fortune featuring Vanna White』(1992年1月)
NES『Wizards & Warriors III Kuros: Visions of Power』(1992年3月)※開発:Zippo Games

 『バトルトード』については後述するが、この時期は旧作の続編、あるいはリニューアル/バージョンアップが多くを占めている。LJNから発売された『Beetlejuice』は、ティム・バートン監督のホラーコメディ映画『ビートルジュース』のゲーム化。映画の劇伴はダニーエルフマンが手がけたが、ゲーム版はすべてデビッドオリジナル曲で構成されている。おどろおどろしさとコミカルで楽しげな雰囲気を併せ持った楽曲は、いずれも1ループが長めな点も特徴的だ。「Penalty Room」(木星)のBGMでは「騎士たちの踊り」(プロコフィエフ作曲のバレエ音楽「ロメオとジュリエット」より)のフレーズがノイズと絶妙に混じりあい、中毒性が高い。『Wizards & Warriors III Kuros: Visions of Power』は、アイリッシュミュージックの要素も感じさせるオープニングテーマを皮切りに奥行きを感じさせる凝った構成の楽曲群が並び、騎士ギルドのショップBGMが第1作メインテーマのリメイクである点も心憎い。開発終盤でZippo Gamesが解散したためシリーズ最終作となってしまったが、音楽的には集大成と呼ぶにふさわしい内容である。

ヒキガエルハード・ロックの激突──『バトルトード

 1991年6月発売のNES版と同年11月発売のゲームボーイ版をはじめとして多機種で展開された『バトルトード』は、二足歩行する3体のヒキガエルのキャラクターを選択してステージを攻略する横スクロールアクションゲーム。数々のメディアミックスでヒットを飛ばしていた「ティーンエイジ・ミュータント・ニンジャ・タートルズ」の二匹目のドジョウを狙って制作された本作は目論見通りヒットし、90年代レア社を代表するタイトルとなった。これまでになくハード・ロックに接近した音楽性となったのは、ティム・スタンパーが当時「ドイツのロック・バンド」にハマっていたことが大きな要因だったようだ。チップチューンによる骨太なギターリフと巧みなベースラインが聴きごたえをもたらしている。

 NES版『バトルトード』のセンセーションは、1993年発売のレア社の開発タイトルが『バトルトード』関連タイトルでほとんど占められていたことからも如実にうかがえる。メガドライブ版(日本版はセガから1993年3月発売)とゲームギア版(日本版はセガから1994年1月発売)、ゲームボーイ用ソフト『Battletoads in Ragnarok's World』(日本未発売。内容は1991年発売のNES版の移植)、SNES用ソフト『Battletoads in Battlemaniacs』(日本版は日本コンピュータシステム/メサイヤから1994年1月発売)、そして『ダブルドラゴン』シリーズとクロスオーバーした『Battletoads & Double Dragon』のNES版、SNES版、ゲームボーイ版(いずれも日本未発売)といったラインナップである。

 『Battletoads in Battlemaniacs』はデビッドが初めて手がけたSNESスーパーファミコン作品だが、すでにハードの音源を見事に使いこなしており流石というほかない。エッジーなギターサウンドの質感が非常に素晴らしく、スーパーファミコンによるハード・ロック作品として完成されている。パーカッシブなバッキングトラックからは後の『スーパードンキーコング』の片鱗がみられる点も興味深い。その少し後に発表された『Battletoads & Double Dragon』ではハード・ロックシンセ・ロックがバランスよくブレンドされ、2つの作品のクロスオーバーというコンセプトが音楽的にもしっかりと表現されている。

 1994年にはAMIGA版、AMIGA CD32版、アーケード版『バトルトード』も発表された。アーケード版はコンシューマー版ではできなかったスプラッター表現が盛り込まれている。敵キャラクターの股間を殴りつけるアクションが用意され、『ファイナルファイト』『ストリートファイターII』の車破壊ボーナスゲームのパロディ(ただしこちらはパイロットが乗り込んだままの戦闘機を破壊していく)が差し挟まれ、最終ステージではそれまでとは打って変わって横スクロールシューティングに舵を切るなど、スタッフ陣の遊び心と悪ノリも全開の内容であった。

 それらが災いしたのか、はたまた時流にそぐわなかったのか、セールスは思った以上に振るわず、その後のシリーズ展開が打ち切られてしまう大きな要因となってしまったが、レア社が3DCGソフト「PowerAnimator」を用いてレンダリングを行った最初のタイトルが本作であり、その後の『キラーインスティンクト』や『スーパードンキーコング』にノウハウが活かされていくことを考えれば、意義深い“先行投資”であったのは間違いない。長らく沈黙を続けたシリーズだが、2018年のE3でリブートが発表され、レア社バックアップを受けたDlalaStudiosが開発を手がけた『バトルトード』が2020年8月20日Xbox Game Pass対応タイトルとして配信された。こちらはデビッド・ハウスデンが旧作楽曲のアレンジと新曲を手がけた。

■悲運のパズルアクションゲーム──『Monster Max』

 この時期のデビッドのロックサウンドでは、フランスのTitusからゲームボーイ用ソフトとして発売されたアイソメトリック・ビューのパズルアクション『Monster Max』にも注目したい。開発は1993年中に行われ、携わったメンバーはわずか3人。かつてOcean Softwareで『Batman』『Head Over Heels』といったアイソメトリック・ビューのゲームを手がけたプログラマー/デザイナーのジョン・リットマンとグラフィッカーのバーニー・ドラモンド、そして音楽担当のデビッドである。音楽・効果音に関して、ジョンはデビッドと電話で何度かやりとりしたのみだった。『Monster Max』は1994年初頭にゲーム誌のレビューで高評価を獲得したにもかかわらず、何らかの事情で発売が1年近く遅れた(ヨーロッパ圏で店頭に並んだのは1994年12月だったという)ためにセールスが振るわなかった。悲運のエピソードというほかないが、リットマンが総力を注いだ意欲的なゲームデザイン、そしてゲームボーイサウンドでヘヴィ・メタルテイストを感じさせる楽曲は、今なお色褪せない仕上がりだ。

デビッド・ワイズの音楽性と柔軟な吸収力

 ジャンルを問わず、いいと思った音楽は何でも聴く──それがデビッドスタンスである。冒頭で紹介したカミナリのインタビュー動画では好きなアーティスト/影響を受けたアーティストとしてフィルコリンズの名前を挙げていたが、過去のインタビューではブライアンウィルソンジミ・ヘンドリックスマイルス・デイヴィス、ザ・ポリス、ジャーニー、ゴー・ウエスト、ヴァンゲリス、プロコフィエフワーグナーなどの名前を挙げていた。また、大きなインスピレーションを受けたアーティストとして、数々のプロデュースワークでポップスの技術的な水準を高めたトレヴァー・ホーンを挙げている。

 影響を受けたゲーム音楽家としてティム・フォリンの名前を挙げているのも興味深い。当時のデビッドゲーム音楽制作の考え方を大きく変えたタイトルとして、ティムが弟のジェフとの連名で音楽制作をおこなったアクションゲーム『プロック(PLOK!)』(1993年9月発売/日本版はアクティビジョンジャパンから同年12月発売)を挙げている。同作はSNESスーパーファミコンサウンドの最高峰といっても過言ではない多彩な音楽性と豊潤な楽曲が収められており、アコースティック・ギターの軽快なカッティングとエレクトリック・ギターの熱を帯びたチョーキングが鳴り響くタイトルテーマで、いきなりプレイヤーの度肝を抜く。デビッドは「これがハードルなんだ。もっと上を目指さなければ」と思い、創作意欲を大いにかき立てられたという。

(文=糸田 屯)

『スーパードンキーコング』を手がけたデビッド・ワイズの足跡