鈴原希実

皆さんは音楽に心を動かされた経験がありますか?

私は何度かそんな経験があります。

そしてその中でも私が特に感動したもの。 それは私が小学生の頃に見た、中学校の吹奏楽部の皆さんの演奏です。

その吹奏楽部の方々は、とにかく楽しそうに演奏をされていたのが印象的でした。

荒削りだけれど、なぜだか心が奮い立つ。 心に突き刺さる。

そんな演奏を見た私は、もう目の前の演奏から目が離せなくなって、とんでもなく前のめりの体勢だったのをよく覚えています。

あの時の感動を思い出すと、今も胸が熱くなりますし、人の心を動かすのは理屈ではなくて魂なのかもしれないと感じるのです。

そして今日ご紹介する作品は、そんな魂で人の心を動かす演奏が沢山登場する「この音とまれ!」という作品です。

こちらの作品は和楽器の一つ・箏を題材にした学園漫画となっており、舞台は神奈川県の県立高校・時瀬高校の箏曲部です。 廃部寸前で部員が部長一人しか居なかった筝曲部に、今作の主人公である久遠愛、筝の家元の娘の鳳月さとわ、愛の友人の三人が入部したことをきっかけに様々な熱い物語が繰り広げられていくストーリーです。

そして今作の一番の見所は、映像作品ではなく漫画作品であるにも関わらず、ページから音が聴こえてくるような迫力のある演奏シーンの描写です。

特に作中で、時瀬高校以外にも様々な高校が演奏するシーンがあるのですが、その際にどの高校の演奏も本当に音が聴こえてくるかのような、各高校に沿った演奏シーンの描写がされていることが印象的でした。

ところで皆さんは筝の演奏と聞くと、どのようなものを思い浮かべますか? また筝の音色というと、どのようなイメージがありますか?

私自身、今作に触れるまでは、 筝の演奏に対して、厳かな雰囲気の中で一音一音重厚感のある音が響き渡るイメージを思い浮かべましたし。 筝の音色に対しては、ボンヤリとこんな音かな?というイメージがあるだけでした。 そして筝はゆったりとした曲調の音楽を奏でる楽器というイメージもありました。 そのイメージは決して間違っているという訳ではありません。 ですが筝の演奏は予想以上に幅が広く多種多様でした。 今作に登場する筝の演奏曲はとにかく様々で、中には疾走感のある華やかな楽曲も多く、私の中の筝のイメージがかなり変化しました。

そして音色もとても鮮やか。 私のイメージしていた、ゆったりとした重厚感のある音色はもちろん、軽やかで煌びやかな音色もあり、初めて筝の演奏を聴いた際は本当に驚きました。

皆さんにも一度ぜひ聴いていただきたいです。

そして、今作の見所のもう一つ。 それは登場人物の魅力が溢れているところ。

今作は第一印象は決して良いとはいえない出会いをするキャラクターが多いのですが、必ずその後皆のことが好きになります。 基本的に時瀬高校の筝曲部には、ちょっとやんちゃだったり、人間関係に不器用だったりと、少し誤解されやすいような子達が多く集まっています。

そんな皆が、筝の音色にのせて気持ちを伝える姿にとにかく胸を打たれるのです。

作中にも「音は言葉で上手く気持ちを伝えられない人のための もう一つの言葉だよ」というセリフが登場します。

この言葉通り、不器用な彼らが筝で言葉を届けていき、徐々に心を通わせ合っていく姿を見ていると、すごく勇気が貰えるのです。

時瀬高校筝曲部の演奏にはいつも魂が込められていて、聴いていると目頭が熱くなるものばかりです。

私自身もこの作品に触れて、こんな素敵な音楽を届けられる人になりたいという想いも一層強くなりましたし、もっと人との繋がりを大切にしていきたいというふうに感じました。

きっと皆さんもこの作品を読んで、何か頑張ってみよう!だったり、もしも人間関係で上手くいっていない方が居たら、まだチャンスはあると前向きな気持ちを持てるかもしれません。

音楽からパワーも貰える今作「この音とまれ!

ぜひ手に取ってみてはいかがでしょうか?

鈴原希実

Amazonで『この音とまれ!』を見る

第6回「この音とまれ!」