2023年11月、ビットコイン以外の暗号通貨アルトコイン)のなかで有名な「イーサリアム」の価格が急騰しています。この動きは今後も続くのか、それとも投機筋による一時的な動きなのでしょうか。今回、マネックス証券の暗号資産アナリスト松嶋真倫氏が、「イーサリアム」の“現在地”と“将来性”について解説します。

イーサリアムは“冴えない動き”が続いていたが…

今年に入って、イーサリアムの相場は冴えないが続いていました。これは金融市場のリスクオフが継続するなかで、ビットコインアルトコインに比べてボラティリティの小さい資産として選ばれている要因が大きいでしょう。加えて、イーサリアム上の主要サービスでハッキングが起きたことや、イーサリアムの開発計画が遅延していることなどの影響もあります。

こうしたなか、米国では2023年10月に、複数のイーサリアムの先物ETFが上場しました。2021年にビットコインの先物ETFが承認された時に価格が大きく上昇したため、今回もイーサリアムの相場が好転するきっかけになることが期待されたのです。

しかし、イーサリアムの先物ETFの初日取引高は、ビットコインの時の1%にも満たない低水準となり、その失望からイーサリアムの価格も軟調に推移していました。

ところが2023年11月、イーサリアムの価格は一転して高騰、およそ1年半ぶりに1ETH=30万円を上抜けたのです。これは、世界最大の資産運用会社ブラックロックがビットコインに続いてイーサリアムの現物ETFを準備していることが明らかになったためです。

同社が米国のデラウェア州で「iシェアーズ・イーサリアム・トラスト」というイーサリアム信託を登録し、ナスダックが証券取引委員会(以下、SEC)に対してその上場申請書類を提出したことが確認されました。

米国ではまだビットコインの現物ETFの審査が続いている状況ですが、ここにきてイーサリアムの現物ETFに対する期待も急速に高まっています。

先物ETFに関しては、イーサリアムビットコインの次に認められるまでに約2年間の遅れがありました。しかし、現物ETFについてはブラックロックの後ろ盾によって、どちらも近いタイミングで実現するかもしれません。

もちろん、SECがビットコインイーサリアムの現物ETFを断固として認めない可能性も残されています。その場合には暗号資産市場全体で失望売りが強まることが予想されます。

いずれにしても、しばらくは米国におけるビットコインイーサリアムの現物ETFに関連したニュースが相場の方向性を占うことになりそうです。

いまから買っていいものか…イーサリアムの将来性は?

前半のように、暗号資産の短期的な材料としてはETFばかりが注目されていますが、イーサリアムそれ自体の将来性について知らなければ、投資することはできません。後半部分では、そもそもイーサリアムとは何なのか、それがどう活用されることで価値が向上していくのかについて、基本に立ち返りながら述べていきます。

そもそもイーサリアム、ETH(イーサ)とはなんなのか

イーサリアムについてはさまざまな説明があるため端的にいうと、ひとつは誰でも使用閲覧ができるデータベースです。そしてもうひとつは、プログラムの書き込みから実行まで可能なコンピュータです。

そのプログラムのことを「スマートコントラクト」と呼び、スマートコントラクトを組み合わせることによって、イーサリアム上で「Dapps」と呼ばれる色々なアプリを作ることができます。

私たちが暗号資産取引所で取引しているETH(イーサ)は、このデータベースの更新やコンピュータの実行のために使用されます。これらのリソースを世界中の人が無制限に使えてしまうと、過剰な負荷によってネットワークを維持することが難しくなります。そのため、イーサリアムでは「ガス代」と呼ばれる手数料の仕組みが導入されているのです。

ここでひとつの問題が生じます。イーサリアムが使われるほどETH(イーサ)の価値は上昇しますが、それに応じて使用にかかる手数料も高騰してしまうのです。このスケーラビリティの問題を解決しようと、イーサリアムのコミュニティは開発と議論を続けており、「誰でも滞りなく安価に使用できるワールドコンピュータを構築すること」を目指しています。

イーサリアムへの投資は、すなわち「未来」に投資すること…長期の視点が大切か

今後訪れるであろうweb3.0のインターネットでは、ブロックチェーンが基盤技術として考えられており、イーサリアムがその中心になると期待されています。

※Web3.0:ブロックチェーン技術を用いることでインターネットがさらに分散化の度合いを強めた姿を指す言葉(野村総合研究所より)。

web2.0では、IT関連株に投資することはできても、インターネット自体の価値を保有することはできませんでした。しかしweb3.0では、ETH(イーサ)を保有することで分散的なネットワークそのものの価値を保有することができるのです。

web3.0の到来とともにイーサリアムの価値が大きく向上するのか、あるいは別の技術がその立場を奪うのかはまだわかりませんが、少なくとも現時点においてはイーサリアムに投資することが、すなわち「web3.0の未来」に投資することであると言えるでしょう。

松嶋 真倫

マネックス証券 マネックス・ユニバーシティ

暗号資産アナリスト

(※写真はイメージです/PIXTA)